News 2003年5月12日 06:40 PM 更新

Blutoothの認定施設「BQTF」はこうなっていた

Bluetoothの認定作業は、公認の認定施設「BQTF」で行われている。その様子をレポートしよう

 前回は太陽誘電の「新電波暗室棟」をレポートしたが、ここにはBluetooth認定施設である、BQTF(Bluetooth Qualification Test Facility)が移設されることになっている(新電波暗室棟は、ゴールデンウィーク明けの5月8日に竣工式が行われる予定なので、現在はもうスタートしていることだろう。今回レポートするBQTF業務も、今頃は新電波暗室棟内で行われているはずだ)。

 前回は新施設の概要は紹介できたものの、BQTF移設前ということで、予定していたBQTF業務の様子は紹介できなかった。そこで移設前の“旧BQTF”も取材させていただき、その様子をレポートすることにした。

太陽誘電 EMCセンター内のBQTF

 まず前回の記事について誤解を避けるために言っておくと、同社が新築した「新電波暗室棟」は、それまでのEMCセンターの各施設を統合したものであり、Bluetooth専用というわけではない。EMC業務全般を行う多目的な電波暗室施設だ。具体的に新電波暗室棟で行われる作業を挙げると、BQTFの認定業務のほか、EMC試験業務、電波法試験業務、アンテナ評価業務、LC部品評価業務、半導体解析業務などがあるそうだ。

 EMC(電磁波適合性試験)では、すべての電子機器の電磁波を測定すると言ってよく、最終製品はもちろんのこと、部品や基板、ICチップなどの各レベルが測定対象となる。特に、最近ではプロセッサの動作速度の高速化によって、それまでは影響が出なかったような超高周波帯でのテストが不可欠となってきているという。

 また、Bluetoothはむろんのこと、無線LANや携帯電話といった、電波そのものを扱う電子機器が増加の一途をたどっている。

 BluetoothのカテゴリA試験により認定業務を行うには、BQTFと呼ばれるBluetooth SIGの試験にパスした設備での認定作業が必要となる。アジア地区では最初のBQTFとして認定された太陽誘電のEMCセンターは、外部からの電磁波による影響を最小限するためか、山の中腹にあって施設の半分が地下に埋まった建物だ。


新電波暗室棟から山を一つ隔てた場所にある旧EMCセンターBQTFは、半分が地下施設だった

 Bluetoothの認定業務を行うためには、国際認定会社からまず認定されなければならない。そのためNVLAP(米商務省の公認機関、国家自主試験所認定プログラム)から、ISO17025を取得し、その後Bluetooth SIGの試験を受け、それに合格した後、はじめて認定業務を行うことができる。

 アジア地区で第1号となった太陽誘電BQTFの場合、2001年12月6日にBluetooth RF認定を受け、その後、Bluetoothプロトコル認定を2002年11月11日に取得している。

 Bluetooth認定センターの入口には厳重なセキュリティーロックがあり、事務所と外部電波等を遮断するシールドルームがある。このシールドルーム内にBlueTooth認定のうち、RF部分の認定を行う約2億円のBluetooth認定用の測定機がある。この測定器はドイツのRohde&Shwarez社製のTS8960で、BluetoothのRF物理層をテスト測定する高精度な測定システムだ。


ドイツRohde&Shwarez社製TS8960の全景。右にあるのが制御用のhpのUNIXワークステーション

 TS8960測定システムは2ラックで構成されており、片側のラックには高精度の信号発信機(SG:シグナルジェネレータ)が1機(目的波用)と電波妨害波用のSGが2機装備され、それらSGの出力を監視するパワーメーターがある。

 もう一方のラックには、スペクトラムアナライザー、分波用スイッチングユニット、アッテネータ、シグナルユニット、制御ユニット、そしてルビジウムによる基準発生ユニットから構成されている。ちなみに、ルビジウム基準発生ユニットといえば、GPS衛星にも搭載されている超高精度なタイムベース発生を可能にする高価なユニットである。


左のラックに装備されているのが3機のシグナルジェネレータ。右のラックには、スペクトラムアナライザー、分波用スイッチングユニット、アッテネータ、シグナルユニット、制御ユニット、ルビジウムによる基準発生ユニットが装備されている

 今回はリファレンス用の被試験機にケーブル配線し、予め決められたテストを行うパターンを登録し、自動実行させるデモを行ってもらった。

 テスト自体は全自動になっており、結果が画面に表示される。シールドルームの外ではBluetoothのプロトコルテスター「PTW60」で、テストスクリプトを登録し、Bluetoothテスト仕様に完全準拠したテストが行なわれる。Bluetooth SIGにおいて、まだ発行されていないようなテストスクリプトについても、独自のテストスクリプトにより、試験項目の不足部分の対応が可能だそうだ。

 BluetoothのカテゴリA試験認定では、BQTF施設で試験する必要がある。被試験物の操作がない部品やモジュールなどは、被試験物を太陽誘電BTQFへ送付し、試験を依頼しても良いが、パソコンやPDA、携帯電話など、操作が必要とされる機器の場合には、依頼者に立ち会ってもらうことになっているとのこと。

 これは、被試験物が試験にパスしなかった場合、立会い人が不在だと問題になるためであり、被試験物の操作によっても試験結果が異なる可能性があるからだという。試験カテゴリにはこの他、B、C、Dがあるが、これらはBQTF設備を使わなくても良いとのことだ。


今回は、デモということで、Bluetoothリファレンスマシンを実際に測定してもらった


認定作業のオペレーションは、hpのワークステーションから全自動で行われるため、熟練したオペレータである必要はないというが……

 実際の認定業務のオペレーションは、hpのワークステーションや一般的なWindowsパソコンで制御されているため、慣れれば誰でもオペレーション自体は可能なのだそうだ。しかし実際には、BTQの取材レポートでも紹介したように、Bluetooth SIGの試験に合格した認定人(BQB:Bluetooth Qualification Body)でなければ、認定を行うことはできない。つまり、試験結果を判断するのは、認定された試験システムではなく、最終的には人間によって行われているわけだ。

 約2億円のBluetooth認定システムであっても、世界中に35人、日本にはたったの3人(内2人が日本人)しかいない、BQBによる厳しいチェックが不可欠なのである。そういったBluetooth認定業務の仕組みを知ると、なんとなく職人気質というか、マイスター的な雰囲気を感じさせてくれる。伝説の北欧バイキング王の名前をもらったBluetooth、決して冷たいテクノロジーのカタマリだけではないということだろうか。


今回BQTFのご案内を頂いた太陽誘電EMCセンターの方々。左からエンジニアの加藤博史氏、エンジニアの萩原次郎氏、EMCセンター長の井狩英孝氏、オペレータの渋谷桂氏



関連記事
▼ 太陽誘電の新「電波暗室棟」を見てきました
Bluetoothの認定作業はBQTFというBluetooth SIGの定めた施設で行われる。今月その最新にして国内最大の施設がオープンするという。早速、その施設の様子を取材してきた

▼ Bluetoothの開花予報――「今年の春は咲く」
これまであまりぱっとした話のなかったBluetoothだが、ようやく開花の兆しが見えてきたという。これまであまり知られていなかった認定作業の様子を含め、その現状と今後の見通しを、認定会社BTQの幹部に聞いた


関連リンク
▼ 太陽誘電
▼ ビーティーキュー
▼ Bluetooth SIG

[清水隆夫&後田敏, ITmedia]

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.