News 2003年5月15日 08:30 PM 更新

ロボカップジャパンオープン2003観戦記
世界レベルの戦いを目指せ!――小型/4足ロボットリーグ

「ロボカップジャパンオープン2003新潟」の観戦記の続き。ここでは、直径18センチ以内の小さなロボットたちが対戦する「小型ロボットリーグ」と市販のAIBOたちが4対4でゲームを行なう「4足ロボットリーグ」の模様をお届けしよう

 5月1−5日まで新潟の朱鷺(とき)メッセで開催された「ロボカップジャパンオープン2003新潟」の観戦記も今回で4回目。前回の中型リーグはかなり詳しくレポート(予選決勝)したのだけど、ここからは、あんなに詳しくはない。

小型ロボットリーグ

 卓球台くらいの大きさのフィールドで、最大5台のロボットで1チームを作るリーグだ。天井にカメラが置き、各プレーヤーロボットは、そのカメラでとられた全体画像を使ってプレイをすることができる。だから、このリーグでは「戦術」が進歩している。あるプレーヤーがディフェンスを引きつけておいて、反対側にオープンスペースを作るなんてことができないと、世界レベルでは戦えない。

 また、スピードも特徴。去年の世界大会で聞いた話だが、もはや人間はロボットに勝てない。つまり、リモコン操縦できるプレーヤーロボットを作っておいて、人間が5人でそれぞれのプレーヤーを動かすというチームで戦っても、相手にならないんだそうだ(*1)。

 しかし、それは、みな「世界レベル」のチームの話だ。残念だけど、このリーグは、日本はあまり強くないのだ。中型リーグが世界トップレベルなのとは状況が違う。

 さて、今回、小型ロボットリーグはエントリーしたチームが19と多かったために、それを2つのグループに分けて、前半後半の2回、リーグを行うこととなった。それぞれに優勝者が出るが、チャンピオン同士で争うグランドチャンピオン決定戦はない。

 ありていに言って、前半日程は、愛知県立大学のチーム「RoboDragon」のひとり舞台だった。このチームだけが「世界レベル」なのだ。

 今大会の規定で、予選リーグは10点差がついたらコールドということになっていたのだけど、“RoboDragon”は、予選全試合10−0で勝利。コールドの規定がない決勝トーナメントでは、こんどは準決勝13−0、決勝22−0といった調子である。

 決勝戦は大阪大学の「OMNI」との対戦。OMNIは、完全防御の戦略に出る。マシンを自分のサイドにへばりつかせる。キックオフのボールすら、あまり蹴りに行かない(小型ロボットリーグでは、キックオフの権利のあるチームが20秒蹴られないでいると、ニュートラルボール扱いになって、相手が蹴ってもよくなる)。それに対して、RoboDragonは1トップ。今回は相手に恵まれなかったのでわからなかったのだが、本来は防御重視のチームなのだ。

 それでも、RoboDragonはどんどん得点する。守備側にわずかなすき間があれば、そこをボールを通してゴールにたたき込む。このロボット、ボールを蹴りだす方向は1度単位で制御できるんだそうだ。


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 RoboDragonは、各試合に勝った後、「勝利の舞い」を踊る。各プレーヤーが複雑な軌跡を描いて集まったり離れたりするのだ。そのときに、まだフィールドに残っている相手チームには全く触れないというあたりが、なかなかかっこいい。


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 また、これはパスの様子。


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 受け取ったボールの勢いを殺して、きれいにトラップすることができるのだ。世界レベルの技というのはこういうことなのだそうだ。

 なお、昨年の世界大会においてRoboDragonは、ベスト8。今年はもっと上にいってほしい。そうじゃないと、ちょっとかなしい。

 後半日程は、このようなダントツのプレーヤーは出なかった。が、RoboDragonを見てしまった目で見ると、物足りなく感じてしまう。1つには、マシントラブルが目立ったということもある。小型ロボットリーグでは、試合中に4回までのタイムアウトをとって調整することが認められているのだが、マシンが動かなくなってしまったためにタイムアウトをとらざるをえない、という状況が多かったのだ。

 試合として見た場合には、このようなことがあると、緊張感が削がれる。気の短いお客さんは(って、たいていそうなんだが)、そこで別のものを見に行ってしまう。もともとスピード感がうりなはずの小型ロボットリーグで、これはいたい。

 考えてみると中型リーグでは、こういう中断がほとんどなく、それが面白さにつながっていたのだ。本来は研究者であるチームスタッフにこういうことを言うのは酷であることはわかっているが、それでも、試合を面白くするためにがんばってほしい。

 後半日程の決勝は、 桐蔭横浜大学社会人ロボットチームの「まくした」 vs 豊田工業高等専門学校の「KIKS」の対戦となった。強力なシュート能力を持つ「まくした」 vs 組織力の「KIKS」といったところなのだけど、どうもこの試合では「まくした」のシュートが不発なのだ。威力のあるシュートを放つもゴール枠にはいらない。その間に、「KIKS」は着実にポイントを重ねる。


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 結局、4−1で「KIKS」が勝利。優勝の栄冠を手にした。前半後半日程ともに愛知県のチームが優勝したわけだ。

4足ロボットリーグ

 市販されているAIBO4体が1チームとなるリーグだ。このリーグは、サッカーのほかに、シュートチャレンジを行うプライマリー、おなじみのオレンジ色ボールではなく、白黒のボールを認識できるかどうかを試すアドバンストという競技も行われたのだけど、日程の関係で、わたしは見られなかった。すみません(*2)。

 サッカーに参加したのは、5チーム。このリーグでは、総当たりによるリーグ戦のみ(トーナメントなし)で順位を決定する。5月4−5日の2日間にわたって行われたが、最終戦を待たずして九州工業大学の「ASURA」の優勝が決定した。

 これは、大阪大学の「Baby Tigers」との試合。Robocup日本委員会会長でもある大阪大学の浅田稔教授は熱烈な阪神ファンであることでも知られ、おかげでチームにもこういう名前が付いているのだ。この日、阪神タイガースはデイゲームで4−0で勝ったんだけど、「Baby Tigers」はそうはいかなかったみたいだ(*3)。


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 フィールドのまわりは常に観客であふれていた。やっぱりAIBOは人気がある。なかにはAIBOを抱えて観戦している方までいらっしゃって、たいしたものだ。

 とはいうものの、このリーグもあんまり日本は強くない。まだ、ボールを見失うシーンが目立つし(*4)、コーナー付近のボールの処理ももたつく。AIBOの母国、ガンバレ。


*1 ただし、この人間プレーヤーは、必ずしも上手い人ではないらしい。バリバリのゲーマーを5人連れてきてしばらく練習させたあとなら、話はちがうかもしれない。
*2 白黒ボールの認識はやっぱりとってもむずかしかったらしい。
*3 4足ロボットリーグの試合後、講評を求められた浅田先生は、阪神の話しかしなかったのでした。
*4 AIBOは鼻の先に付いているカメラの視野が狭いので、ボールを見失いがちである。でも、世界レベルの戦いを見ると、そんなことを感じさせないのだ。



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