News 2003年5月16日 00:57 AM 更新

バイオメトリクスの決定版?非接触型の手のひら静脈パターン認証

本人認証の手段として期待されるバイオメトリクス認証。さまざまな方式が登場しているが、一長一短があり決定打に欠けていた。そんな中、富士通研究所が開発した「非接触型の手のひら静脈パターン認証技術」が、従来のバイオメトリクス認証の課題を克服する方式として注目されている

 人それぞれが持つ固有の身体的特徴をもとに認証を行う「バイオメトリクス認証(生体認証)」は、もっとも確実な本人確認の手段として期待されている。古くからある指紋認証に加えて、最近では眼球の虹彩(アイリス)や声紋などさまざまな技術・手法が考え出されているが、それぞれコスト面/安全性/心理的影響/精度などで一長一短があり、決め手となる方式が確立されていないのが現状だ。

 そんな中、富士通研究所が3月31日に発表した「非接触型の手のひら静脈パターン認証技術」が、従来のバイオメトリクス認証の課題を克服する方式として注目されている。開発を担当した同所ITメディア研究所メディアソリューション研究部長の佐々木繁氏と、同部主任研究員の渡辺正規氏に、期待の新バイオメトリクス認証技術について話しを聞いた。


富士通研究所が開発した非接触型手のひら静脈パターン認証技術

決定打に欠ける従来のバイオメトリクス認証

 さまざまなバイオメトリクス認証の中でも、現在もっとも普及しているのが「指紋」。だが、もともと犯罪捜査で利用されてきたという歴史や、拇印という文化がある日本では、指紋認証に抵抗を感じる人も多い。

 「すり減ったりケガをするなどして指紋が採取できないケースも出てくる。シリコンラバーなどで他人の指紋を偽造するといった“なりすまし”も技術的に難しくなく、セキュリティ面でも不安が残る」(佐々木氏)。

 そのほかのバイオメトリクス技術で実用化されているものでは、個人の顔をカメラで認識する「顔」や、話者の音声特徴を使った「声紋」、字体/書き順/筆圧などで認証を行う「署名」、手のサイズやカタチを利用した「掌紋(掌形)」などがある。

 「“顔”や“声”は、外光や雑音といった外部からの影響を受けやすい点や、体調による変化も大きいことから、われわれは“三文判レベルの生体認証”と呼んでいる。署名や掌形などもコピーされやすく、セキュリティレベルは低い」(佐々木氏)。

 近年、注目されているバイオメトリクス技術が、眼球の虹彩や網膜を使った認証だ。人間の虹彩は個人個人でパターンが異なり、成長による変化もないほか、目の内部なので指紋のようにすり減ったり傷ついたりする心配もほとんどない。また、認証作業もカメラ(センサー)をのぞくだけでいという簡易さや、非接触型なので心理面や衛生面でのメリットも大きい。

 「虹彩の認証システムの問題点は、装置の小型化が難しいのとコスト高になるところ。また、青い目など欧米人の色素が少ない眼球は読み取りやすいが、アジア人に多い黒や茶色の目はカメラ撮影だけでは難しい。そのため、赤外光などを使ったりするので、人体への安全面で不安が残る。また、スパイ映画のようにコンタクトレンズでの“なりすまし”も可能」(渡辺氏)。

従来のバイオメトリクスの課題をクリアした「静脈パターン認証技術」

 これら従来のバイオメトリクスの課題をクリアしたのが「静脈パターン認証技術」だ。これは、近赤外線を照射すると静脈だけが黒く映るという特性を利用して、手のひらの静脈を撮影。撮影画像から静脈パターンを抽出し、あらかじめ登録したパターンと照合することで認証を行うという仕組みだ。

 「静脈パターンは指紋と同様に個人によってパターンが異なり、成長によってその大きさは変化してもパターン自体は一生変化しないといわれている。そのパターンは、同じ容姿で見分けが付かないような双子でも区別可能。仮にクローン人間が登場したとしても、同じ静脈パターンはできないといわれている」(渡辺氏)。


近赤外線を照射して撮影した静脈の画像(左)と、パターン解析したもの(右)

 そのほか、虹彩と同様に体内の生体特徴を利用するので磨耗や外傷などによる変化の心配がない点や、血液が流れている静脈を使うため、指紋や眼球のように切断した体のパーツを使うということもできなくなる。本人拒否率や他人許容率なども、虹彩と同等の高レベルなセキュリティを誇る。

 同研究所では昨年8月に、手のひらの静脈パターンを利用して個人認証を行う技術をPCのマウスに応用したシステムを発表している(2002年8月の記事を参照)。

 もっとも、静脈パターンを利用した認証システム自体は、すでに実用化されている。手の甲の静脈を調べるタイプが韓国やイギリスのメーカーで製品化されているほか、米国のメーカーからは手のひらをスキャンする製品も登場している。そしてこれらのOEM製品が、数社の日本メーカーから国内向けに発売されている。

 「だが、静脈パターンを利用する従来製品のいずれもが、棒を握ったり所定位置に手を置くなど認証の際に製品に触れなくてはいけない“接触型”。それに対して今回開発した技術は、手をかざすだけで認識できる。“非接触型”の静脈パターン認証技術は、世界初」(渡辺氏)。


手をかざすだけで認識する“非接触型”は世界初

 非接触型の場合、手のひらが空中に浮いた状態になるため、決まった場所に手のひらが位置するとは限らない。同研究所では、装置がどこに置かれても安定して検出・照合する独自のソフトウェア技術を開発することで、非接触型の課題をクリアした。

 今回開発した非接触型静脈パターン認証システムの試作機はUSBでPCと接続することができ、USBバスパワーからの電源供給で駆動する低消費電力設計になっている。サイズは100(幅)×100(奥行き)×30(高さ)ミリだが、構成部品が少ないことから小型化へのハードルは低く、コストダウンも容易だという。


開発した非接触型静脈パターン認証システムの試作機はUSBでPC接続可能

 「小型化ノートPCに内蔵することも難しくはない。認識エンジンをワンチップ化して、携帯電話に搭載することも技術的には十分可能。量産が進めば、コスト的にも指紋認証システム並みの低価格で提供できる。システム的にはほぼ完成しており、すでに製品化に向けていくつかの企業と話しをしている。早いものでは、今年秋ぐらいに製品が登場する予定」(佐々木氏)。

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[西坂真人, ITmedia]

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