News:アンカーデスク | 2003年6月23日 10:29 AM 更新 |
卵が先か、ニワトリが先か
順調なDivXに対抗勢力があるとすれば、国内ではBHAとアイ・オー・データ機器が推進するXVDだろう。DigitalStream-USAが開発したコーデック、XVDの特徴は、ハードウェアデコーダではなく、ハードウェアエンコーダを先に開発したところだ(4月25日の記事参照)。
映像の再生環境がいくら充実しても、そのソースを作る側の快適性は無視できない。アイ・オー・データのハードウェアエンコーダカード「GV-XVD/PCI」は、当初の予定よりも3週間ほど後ろにずれこんだものの、6月21日に発売となった。
ハードウェアエンコーダの特徴は、言うまでもなく、エンコード速度とマシンに対する負荷の低さだ。さほど速いマシンでなくても、1Passならほぼリアルタイム、2Passでも2倍強の時間でエンコードできてしまう。しかも最初からバッチエンコードや編集環境もオールインワンでそろっている。
XVDのもう一つのアドバンテージは、音声コーデックもオリジナルのものを持っている点だ。DivXは音声に関してオリジナルコーデックを持たず、MP3などのコーデックを別途用意して、エンコードプラットフォームで合わせ込む必要がある。
その点では、DivXはエンコーダが登場したのは早かったが、制作環境の充実は後手に回ってきたと言えるだろう。DivXNetworks純正のエンコードプラットフォーム「Dr. DivX」の登場が、ようやく先月の21日。日本語で動くものとしては、ホロンの「DivX Pro Video Encoder Pack for Windows」が7月4日発売予定である(6月20日の記事参照)。
両者とも、エンコードの品質に決定的な差はない。さらに言うならば、パソコン内で完結するならば、ユーザーはどっちでもいいのである。あとは、どちらが先にソリューションとして広がりを見せられるか、というところだろう。
出口を固めろ
基本的には、ユーザーが圧縮コーデックを使って何がやりたいかということに尽きる。「片っ端から流して“神”になる」という人は、もう誰にも止められないので好きにしていただくとして、筆者はちょっと違ったことを考えている。
例えばArchosの「Cinema To Go」という製品は、ポータブルなMPEG-4/AVI/DivX/XviDプレーヤーとして機能する。これと件のカノープスの製品を組み合わせれば、予約録画した番組を移動中の電車で見る、という流れが確立する。
Cinema To Goは日本での発売は未定だが、筆者は以前からこういうソリューションはアリだと主張してきた。DivXもXVDも今後どのような展開を見せるのか分からないが、映像の高圧縮技術では、こういうポータブルデバイスの登場がある意味、“ゴール”なのではないかという気がする。
日本の映像記録は今後、コンシューマーではハイクオリティ志向のHDTVへ向かって「拡散」していくことだろう。Blu-rayをはじめとする大容量メディアで、放送のMPEG-2TSをそのまま記録するという、リッチメディアの発想だ。巨大リソースを大量消費する世界は、大手家電メーカーが得意とするエリアだ。
一方、従来方式のSDTVは、既に沢山のコンテンツが未だビデオテープレベルで存在しており、画質向上も既に限界に近い。従って今後はPCのテクノロジーを経由して、より高圧縮コーデックで利便性を高める方向へ「収束」されていくと、筆者は見ている。こちらはPC系ベンチャーを中心に展開されるだろう。
ビジネス的に見るならば、展開の早いPC系ベンチャーにとって、悠長にフォーマットやコーデックで競合する時間と体力は、無駄以外の何ものでもない。RealやNetscapeの例を出すまでもなく、Microsoftのような大企業の論理でやられては付き合いきれないという部分は、往々にしてあるだろう。
しかし幸いなことに最近、Microsoftは松下電器産業と接近しており、ハイエンド方向へシフトしつつある。この隙にベンチャーが早めのビジネスを展開をするには、同じベンチャーのDivXNetworksは格好の相手だ。このような思惑が、結果的にDivXをデファクトスタンダードの座に押し上げていくのではないかという気がする。
小寺信良氏は映像系エンジニア/アナリスト。テレビ番組の編集者としてバラエティ、報道、コマーシャルなどを手がけたのち、CGアーティストとして独立。そのユニークな文章と鋭いツッコミが人気を博し、さまざまな媒体で執筆活動を行っている。
[小寺信良, ITmedia]
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
前のページ | 2/2 | 最初のページ