News 2003年9月2日 08:56 PM 更新

“金のアンテナ”内蔵がもたらす大きな未来――日立「新ミューチップ」

日立製作所が、同社の非接触型ICチップ「ミューチップ」のアンテナ内蔵型を開発。従来のRFIDチップで必要だった外付けアンテナをなくし、1個5円以下のチップも可能にしたブレークスルー技術は、ひらめきから生まれた“金のアンテナ”だ。

 日立製作所は9月2日、同社の非接触型ICチップとアンテナとを一体形成した「アンテナ内蔵型ミューチップ」を開発したと発表した。従来必要だったID番号を読み取るための外部アンテナを0.4ミリ角のICチップ上に搭載。粉末上のチップのみで、ID番号を読み取り機に送信することができる。「2.45GHz帯を使った非接触型ICチップでのアンテナ内蔵は世界初」(同社)


非接触型ICチップとアンテナを一体形成した「アンテナ内蔵型ミューチップ」

 同社が2001年6月に発表した世界最小クラスの非接触型ICチップ「ミューチップ」は、0.4ミリ角という米粒よりも小さな大きさもさることながら、厚さがわずか0.06ミリと紙より薄いのも特徴。その薄さが認められ、2005年に愛知県で開かれる日本国際博覧会(愛知万博)の入場券への採用も決定(別記事を参照)。チケット用紙に埋め込まれたミューチップが、偽造防止に威力を発揮する。


米粒よりも小さなミューチップは紙よりも薄く、愛知万博のチケットにも偽造防止策として埋め込まれる

 だが、ミューチップをはじめ従来のRFID(無線ICタグ)チップのほとんどが、チップから情報を読み取ったり、動作電力となる電波を受信するために表面積の大きな外部アンテナが必要だった。日立マクセルがアンテナを一体形成したRFIDシステム「Coil-on-Chip」を発表しているが、チップサイズが2.5ミリ角と大きいために紙など薄いものへの応用は難しく、ICカード用途がメインとなっている。従来方式のミューチップが採用される愛知万博のチケットでも、チップと一緒に薄いアンテナが埋め込まれる予定だ。


外付けアンテナが必要な従来型ミューチップ(上部ガラスビン内)と、薄い棒状のアンテナを埋め込んだ従来型ミューチップ搭載カード(下)

 ミューソリューションベンチャーカンパニー長&CEOの井村亮氏は「ビジネス競争の激化やセキュリティの重要性が増すに従ってRFIDタグが注目されており、その経済的波及効果は2010年には最大31兆円にのぼるとの予測もある。だが従来のRFIDタグは、無線通信のためにどうしてもアンテナが必要だった。アンテナの製造・アッセンブリーコストが、RFIDチップの価格がなかなか下がらない原因にもなっている。当社でも、“究極のRFIDタグはアンテナ内蔵型”ということでミューチップ開発当初から研究を進めてきた」と語る。


ミューソリューションベンチャーカンパニー長&CEOの井村亮氏

ひらめきから生まれたエポックメイキングな“金のアンテナ”

 ミューチップの生みの親でもある同社中央研究所知能システム研究部研究主幹の宇佐美光雄氏は「ミューチップの開発当初から、アンテナをチップに内蔵しなければ広く普及しないと確信していた。アンテナの小型化が図れる周波数帯(2.45GHz帯)も、将来の内蔵化を見据えたもの。その意味でも、今回の技術はエポックメイキング」と語る。


新ミューチップに内蔵された世界最小クラスのアンテナ

 もともとミューチップは、半導体デバイスと同じ製造プロセスで生産できるために大幅なコストダウンが図れる点を売りにしていた。新ミューチップのアンテナ形成には、半導体チップを電気配線基板に実装する際に多く使われている「金バンプ(メッキ方式)」形成技術を採用。この方式は半導体産業で広く使われている一般的な技術を用いるため、特殊な生産設備が一切不要な点が特徴だ。


同社中央研究所知能システム研究部研究主幹の宇佐美光雄氏

 「金メッキ形成は、半導体の世界では非常に一般的な手法。“金”というとコストが高いというイメージを持たれるかもしれないが、超小型のミューチップでは使われる金の量もごくわずかで、そのコストはミューチップの値引き分程度。量産に関する検討もほぼ終了している」(宇佐美氏)

 また、高周波アンテナでは共振用のキャパシタが必要とされていたが、新ミューチップでは高周波アンテナの最適設計技術によってキャパシタレスにするなど、よりシンプルな構成で生産工程を簡略化。さらにチップ自体が薄いためにアンテナ面が裏にきても読み取りが可能など、紙媒体に適した仕様になっている。チップ本体の回路構成は、従来型ミューチップとまったく同じなので、支援ソフトウェアなど既存のシステムをそのまま活用できる。


アンテナ内蔵型ミューチップの読み取り機。読み取り距離が約1ミリと短くなっているぐらいで、従来のミューチップ読み取り機と基本的には変わらないという

 「半導体製造プロセスで一般的な金メッキをアンテナに使うという発想は、“ひらめき”から生まれた。いくら素晴らしい技術でも、生産が難しいようでは普及には結びつかない。今回開発した生産手法は、技術的には非常にシンプルなものだが、半導体量産インフラで安定供給が可能な点は、普及への大きな原動力となる」(宇佐美氏)

「1個5円以下」のミューチップも可能に

 0.4ミリ角のミューチップは、8インチウェハーで20万個とれるという。さらに、今回のアンテナ一体形成によって増える生産プロセスは1工程だけなので、チップ単体の生産コストも従来型ミューチップと変わらない。つまり、外付けアンテナの分をコストダウンできるのだ。

 「チップ単体のコストは、搭載する機能や生産ボリュームによって違ってくるので“何円になる”と一概に言えない。ただ、外付けアンテナが必要な従来型チップは、どんなに頑張ってもアンテナアセンブリーとチップとのコスト比率が4対1とか5対1にしかならない。つまり、チップコストだけのアンテナ内蔵型は、従来チップの5分の1のコストになる可能性がある。ただし、現時点で数十円している従来型チップも各社のコスト競争で、2005年ぐらいには10円に限りなく近づくだろう。その時に、アンテナ内蔵型ミューチップは5円以下で提供できる」(井村氏)


発表会場で公開されたアンテナ内蔵型ミューチップのサンプル(チップはガラス管の先にある)。2005年には5円以下となって、紙や布などあらゆる素材に搭載可能な「RFIDのデファクトスタンダード」になる可能性も



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[西坂真人, ITmedia]

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