News:アンカーデスク 2003年10月14日 06:28 PM 更新

DVRの“事実上の標準”になるか――全米を虜にした「TiVo」の秘密(3/3)


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 「複数台のTiVoを家庭内のLANに接続すれば、他の部屋にあるTiVoの中身を参照することができます。他のTiVoで録画した番組が見たいと思えば、そのコンテンツを暗号化してこちらのTiVoへトランスファー(TiVo用語でコピーの意)することができます」

 日本国内では、コピーワンスへの対応はこれからの問題である。TiVoのシステムは、プロテクション技術を外さないまま見た目にはコピーのようになるという、ある意味強気の解決策の一つだ。もちろんその背景には、TiVoがすでにデファクトスタンダードであるという自信に裏打ちされていることも考えておく必要があるだろう。

 「われわれはこう考えています。HDDは、番組をいつでも何度でも見るためのタイムシフト装置である。だからセキュリティが保証されていれば、家庭内で別のTiVoにコピーすることは許させると。コピーワンスのコンテンツは、その情報を保ったまま暗号化され、別のTiVoにトランスファーされます。TiVoのHDDは高度に暗号化されており、われわれはそのセキュリティに絶対の自信を持っています。ですが別のメディア、例えばPCのHDDやDVDなどにコピーするのは、許されるべきではないでしょう」

 そしてTiVoは、無駄に喧嘩をふっかけることはしない。

 「TiVoはLAN上にあるPCの中にある音楽や写真にもアクセスすることができます。ただしこれは、それらのコンテンツをTiVoにコピーするという意味ではありません。あくまでもストリーミングで再生します」

 PCのファイルをTiVoのHDD内に引っ張ってくることは、技術的にはたやすい。だがストリーミングで十分なものはそれで済ませればいい。同時に音楽業界からにらまれることもない。ネットワーク速度の都合でこのような方式に落ち着いたといえば身も蓋もないが、結果的にこれはいろいろな意味でうまく機能している。

 幸か不幸か日本には強力なハードウェアメーカーが多すぎるため、デファクトスタンダードを名乗れるレコーダーは存在しない。だからいろいろな決めごとに対する足並みがちっともそろわないのが実情だ。そうなると、偉いもん勝ち、先に言ったもん勝ちになるのが日本の社会である。

 放送はコピーさせないとコンテンツホルダーが言い出したとき、世界に名だたる日本の大メーカーは、ユーザーの正当な権利をフェアユースの中で保証してくれるのだろうか。どうも今までそういう例は、あまり聞いたことがないようだが……。

 米国では「訴訟」というスタイルで、ユーザーが積極的に声を上げることができる。だが日本では、「それなら買わない」という消極的なアピールしか成されていない。メーカーは「なぜ売れないのか」、「どうすれば売れるのか」がはっきり分からないまま、ユーザーの気持ちは指の間からこぼれ落ちる砂のように、すくい上げることができない。

TiVoは日本に来るのか

 例えばTiVoのようなビジネスを、日本でも展開するのだろうか。

 「その件に関して、今発表できるものはなにもありません。今回の来日もいつものように、従来からのビジネスパートナーと(米国での)新しいプロジェクトについて話し合うためであり、新しいパートナーを探すためです。ですが日本やヨーロッパ、中国でも、TiVoのビジネスには興味を持たれています。いいタイミングを見つけて、マーケットに参入できればと思っています。ただ日本のマーケットはかなり特殊なので、さらに詳しく研究してからになるでしょう」

 TiVo成功の秘密は、米国の放送事情と密接な関係がある。全米には地上波、ケーブル、衛星含めて18000にも上るチャンネルがあり、それぞれが独自の番組を作成し続けている。もはや視聴者が番組表の中から自力で何かを検索するのは不可能だ。それをTiVoがやってくれる。視聴者の“脳みそ”の代わりなのである。

 一方日本ではそれほどチャンネル数はないし、ほとんどのローカル局やケーブル局は、中央の番組を中継しているに過ぎない。従ってトータルのコンテンツ数は、米国とは比較にならない。必要性という意味では、まだ各メーカーやインフラ会社が独自に展開している番組情報サービスで間に合っている。だが将来的には、TiVoのようにメーカーや放送局をクロスオーバーしての番組情報サービスが必要とされる時も来るだろう。

 地上波デジタルが、宣伝されているほど豊富な番組が提供できるのか、レコーダー大国日本でどこと組むべきなのか。TiVoの見るタイミングとは、そのあたりにあるのかも知れない。

小寺信良氏は映像系エンジニア/アナリスト。テレビ番組の編集者としてバラエティ、報道、コマーシャルなどを手がけたのち、CGアーティストとして独立。そのユニークな文章と鋭いツッコミが人気を博し、さまざまな媒体で執筆活動を行っている。



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[小寺信良, ITmedia]

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