News 2003年12月26日 05:46 PM 更新

PCゲーム業界の“プロジェクトX”を読む

少年が「ロードブリティッシュ」の座に就いたPCゲームの神話時代。空想するダンジョンの闇に電子の夢を重ねた開発者たちを描くドキュメンタリー本が発売された。第1章の無料ネット配布も。

 「ダンジョンズ&ドリーマーズ」とは、本書にうってつけのタイトルを付けたものだ。IT戦士にはおなじみのテーブルトークRPG「ダンジョンズ&ドラゴンズ」に端を発するPCゲーム業界の勃興を描く同書は、「ウルティマ」や「Doom」「Quake」などのブレークスルーを生み出した“ドリーマー”に焦点を当てている。


 正味の話、同書(ブラッド・キング/ジョン・ボーランド著、ソフトバンク・パブリッシング刊、原題:Dungeons & Dreamers)を手渡された時には、「ネットゲームコミュニティの誕生」という副題を見て「はやりのゲームメディア論の類ですか」と学問嫌いの記者は嘆いたものだが、読み進むうちに自分の先入観が誤っていたことに気が付いた。

 端的に言ってしまえば、これは専門書ではなくドキュメンタリーである。もっとも帯には最初から「米国ゲーム業界突破者列伝」と書かれていたのだが。中島みゆきのテーマ曲とともに始まる某国テレビ局の番組と同じように、ウルティマの開発者らがどのような紆余曲折を経て成功を収めたかが記されている。

 「風の谷のナウシカ」についてのエッセイが卒論として認められる大学でメディア論を専攻した記者は、在学時に何冊かゲーム論の専門書やゲーム業界の歴史を扱う書籍に触れてはいる。しかし、同書ほど開発者の人間味が伝わってくる書籍はなかったように思う。

 1977年、ウルティマ開発者リチャード・ギャリオット氏(当時16歳)が初めて「ブリティッシュ」と呼ばれた経緯から、2002年にウィル・ライト氏が「シムズオンライン」を発売するに至るまで、彼らがどのような背景を背負いながらこの業界を牽引してきたか生き生きとまとめられている。ゲーム業界で活躍する起業家の情熱が感じられるビジネス本といっても通用するだろう。

 「ギャリオット氏の父親はNASAの宇宙飛行士だった」(へぇ〜×6)、「その会社にはお化け屋敷顔負けの仕掛けが備えられていた」(へぇ〜×13)、「ネカマはネットゲームの創成期から存在した」(へぇ〜×15)――ネットゲーム評論家を自認するには、一度は同書を読んでおいた方がいいかもしれない。

 ちなみに、本職翻訳担当の記者からのトリビア。共著のジョン・ボーランド氏は過去にこんな記事を書いている。昨今のゲームに対する批判に、「実際にゲーマーがゲームでどうやって遊んでいるのかを理解することが大切」と主張する同氏らしく、開発者側の動きとともに、ゲーマーコミュニティーの変遷についても関係者への取材を中心に主観を抑えながら記録している。

 同書では1999年のDoomプレイヤーによる殺人事件をきっかけとして盛り上がったゲーム反対運動について冷静に言及、一方でウルティマ・オンラインでβテスト開始前からプレイヤーキラーに対抗する自助組織が自発的に誕生した点なども紹介している。

 翻訳はネットゲーム用対戦サーバの運営経験を持つ平松徹氏。業界に詳しくない人物に翻訳を任せた場合にありがちな読んでいて違和感を覚えるような和訳個所は見当たらない。400ページ、1800円とボリュームのある一冊だが、苦もなく読破できると思う。

第1章を無料配布

 「ダンジョンズ&ドリーマーズ」の第1章「ロード・ブリティッシュ誕生」をPDFファイルで無料配布します。ただし印刷と、本文のコピー&ペーストはできません。ご了承ください。

 ダウンロードはこちらから(約4Mバイト)。

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[中嶋嘉祐 , ITmedia]

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