「トランプマークが浮いて見える」不思議な画像 どうやって作っている?:コンピュータで“錯視”の謎に迫る(2/2 ページ)
東大・新井仁之教授が解説する錯視の世界。今回は「錯視画像を作る技術」を紹介する。
浮遊錯視生成技術を作ったきっかけは
ここで話題を変えて、ごく簡単ではありますが、どのような発想で浮遊錯視生成技術を作ったのかを説明しておきたいと思います。
通常の静止画は、いくら動かしても絵が動いているようには見えません。なぜ錯視画像は動いて見えるのでしょうか。その理由は、錯視が見えないときと比べて脳の中の視覚に関する神経細胞が違った反応をしているからだといえるでしょう。このことを模式的に表した絵が次のものです。
そこで次のようなことが推測できます。
「もし、動いて見える錯視を見たときと同じになるように脳細胞の反応を操作できれば、どんな画像を見ても動いて見える錯視が起こってしまうのではないか?」
私と新井しのぶは視覚の数理モデル、つまり人間の脳が視覚の情報を処理する仕組み(の一部)を数式で表したものを作り、コンピュータに実装して実験してみました。
数理モデルを適切に操作すれば、錯視が起こらない普通の画像を入力してもコンピュータは動いて見える錯視を出力してくるに違いありません。比喩的で正確な言い方とはいえませんが、“コンピュータが錯視を起こすはず”です。実際に、一定の操作を視覚の数理モデルに加えてからコンピュータに通常の画像を入力すると、動いて見える錯視画像を出力してきました。これが浮遊錯視生成技術です。
この研究は、いずれ別の回で取り上げますが、錯視の構造解析法という筆者らによる錯視の新しい分析方法とも関係します。なお浮遊錯視生成技術については特許を取得しています。
浮遊錯視生成技術って役に立つの?
これまで、錯視アートの多くは既存の錯視をいかに魅力あるようにデザインするかが問題でした。そこがアーティストの腕の見せ所となっていたのです。しかし、浮遊錯視生成技術によってコンセプトに合った「動いて見える錯視」そのものを作ることができるようになったのです。
この技術を使って実際にクライアントのニーズに合った浮遊錯視を作り、それが商品デザインやパッケージなどに使われた例もいくつかあります。錯視アートの幅が広がったといえるでしょう。
著者:新井仁之(あらい ひとし)
東京大学大学院数理科学研究科・教授、理学博士。
横浜市生まれ。早稲田大学、東北大学を経て現職。
視覚と錯視の数学的新理論の研究により、平成20年度科学技術分野の文部科学大臣表彰科学技術賞(研究部門)を受賞、また1997年に複素解析と調和解析の研究で日本数学会賞春季賞を受賞。
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