クルマが売れない時代のビジネス基盤 トヨタのコネクテッドカー戦略
コネクテッドカーは継続的なサービスや関連事業の可能性を広げる将来のビジネス基盤。2018年からコネクテッドカーを本格展開するトヨタがその戦略を語った。
「今後、クルマはシェアする時代になる。クルマメーカーとしては困るが、(その時に備えて)“コト作り”をしていかなければならない」と話すのは、トヨタ自動車コネクティッドカンパニー コネクティッド統括部の山本昭雄部長だ。変化する時代に合わせ、新しいビジネス基盤として力を入れているのが“コネクテッドカー”だ。
2年ほど前、英国の大手投資銀行、Barclays(バークレイズ)は、「今後25年で新車販売が約40%減少する」という衝撃的な予測を発表した。カーシェアリングの動きが加速すればクルマ1台当たりの走行距離は増え、逆に新車の販売台数は減少するという。山本氏によると走行しているクルマは全体のわずか5%だという。カーシェアなどによって効率化が進む余地も大きく、現在は年間1000万台のクルマを売っているトヨタも将来的な需要減は避けられないと見ているようだ。
一方、外の世界とつながるコネクテッドカーは、継続的なサービスや周辺事業の可能性を広げ、将来の自動運転技術などのベースにもなる。山本氏は、「パワートレインはEV(Electric Vehicle)やFCV(Fuel Cell Vehicle)に変わり、自動運転も導入されるが、基盤になるのはコネクテッド技術。自動運転でクルマが自律化してもモニタリングは必要だ。クルマはクラウドと一緒に進化し、社会システムとも連携する。“いいクルマ”の定義も多様化していくだろう」と指摘する。
現状でトヨタが販売しているコネクテッドカーはレクサスブランドの一部のみで、実際に道路を走っているのは「数十万台規模」にすぎない(トヨタのみ)。同社は2018年からコネクテッドサービスを本格展開すると表明しており、夏には初めてDCM(Data Communication Module)を標準搭載する新型「クラウン」を投入する。同社の豊田章男社長は、「20年までに新車の7割をコネクテッドカーにする」と意気込む。
トヨタのコネクテッドカーとは
現在の「T-Connect」はドライバー所有のスマートフォンを通信手段として利用するが(DCMパッケージもあり)、DCMでは必要に応じてCAN(Controller Area Network)やECU(Engine Control Unit)もクラウドに接続するのが大きな違い。「カーナビだけならスマートフォンをクルマに持ち込んでも可能だが、コネクテッドカーの場合は車載カメラや車両自体の情報まで得られる。ドライバーの視点で言えば、クルマ自体が外とつながり、サポートしてくれるということ」(同氏)
ECUは、ドライバーがどのようにアクセルを踏んだか、ワイパーをいつ動かしたか、クルマの横滑りを防ぐABS(Antilock Brake System)がどこで働いたか、といった細かい情報も全て持っている。街を走るクルマからこうした情報が得られるようになれば、ビッグデータとして解析、活用することで交通情報サービスや社会サービスの向上に役立つという。
例えばある地域で急に雪が降ったとき、多くのクルマが急ブレーキをかけたり、ABSが作動したりした場所を分析すると、融雪剤をまくべき場所や優先順位などを導き出せる。交通事故の予防に役立てるため、実際に地方公共団体と検証を進めているアプリケーションの例だ。
18年に始まる「テレマティックス保険」は、ドライバーに対してより直接的なメリットを示した事例だ。あいおいニッセイ同和損保とトヨタが共同でコネクテッドカー向けに作った、国内初の「運転挙動反映型テレマティックス自動車保険」で、車両の運行情報などを基に保険料を算出する。つまり、「安全運転をしていれば保険料が安くなる」という仕組みだ。
「ハイブリッドナビ」は、走行履歴を参照してパーソナライズされた道案内を可能にするサービス。例えばドライバーが平日に毎日通るルートで工事や通行止めがあればドライバーに教え、休日はルート上にある店舗の特売情報などを表示する。さまざまな事業者と協業できる可能性があるという。
他にもクルマ自体がクラウドに繫がるメリットを生かし、クルマが盗難に遭った場合の追跡やリモート制御(盗難車は停車時にエンジンがかからなくなる)、事故発生時の緊急通報、ソフトウェアアップデートによる継続的な機能追加など、多彩なサービスが検討されている。将来的にレベル4以上の自律的な自動運転が実現すれば、クルマ同士の通信や道路上のセンサーとの通信も行い、さらに安全性を高める。
カーシェア時代に向けた機能の開発も進んでいる。「スマートキーボックス」は、スマートフォンアプリとBLE(Bluetooth Low Energy)で連携して暗号キーを認証し、「スマホをクルマの鍵にする」というもの。「車内にボックスを設置するだけで安全にスマホによるドアロックの開閉、エンジン始動が可能になる。予約した時間になると利用者のスマホに鍵が届き、操作できる時間や期間はカーシェア事業者のサービスに合わせてカスタマイズ可能だ」。またスマートキーボックスはトランクの鍵も開けられるため、クルマを宅配ボックス代わりに利用することも検討している。「ハードルはまだあるが、さまざまな事業者と実証実験をしていく」
既に協業を進めているNTTやKDDIといった通信事業者はもちろん、各種サービス事業者や自治体とのパートナーシップを模索するトヨタ。山本氏は「いかに収益につなげていくか。いずれ(トヨタの)事業構造も変わってくるだろう」と予言した。
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