「取説いらずの使いやすい製品」が日本で生まれにくい理由:牧ノブユキの「ワークアラウンド」(2/2 ページ)
IT関連の機器は「学ばなくてもすぐ使える」のが理想だ。しかしながら、ハードウェアの開発を行っている現場では、こうした考え方はまだまだ浸透していない。そのズレはどんなところにあるのだろうか。
UIが優れたメーカーを見分けるコツとは?
以上、メーカーがなかなか改善しない理由について見てきたわけだが、ではユーザーの側として、取説いらずで扱える優れたUIの製品を引き当てるために、見分け方のコツのようなものはあるのだろうか。ズバリとした解はないのだが、知っていて損にはならない傾向はいくつかあるので、考え方をここで紹介しておこう。
まず大きなメーカーの場合だが、こうしたUI設計は基本的に社内で共通化されることが多い。それゆえ、あるメーカーの製品が使いやすいと感じた場合、基本的に同じメーカーの製品を選ぶようにすれば、当たりを引きやすい。メーカーが同じだけでジャンルがまったく異なる製品でも、大きな会社であればUIの部署、もしくは取説を扱う部署が仲介となって情報の共有が図られるので、極端な差は出にくい。
もっとも例外もある。先ほど述べたような、取説は一通り読むのが当たり前と考えるスタッフが社内で強い影響力を持っていると、会社全体がその方向を向いてしまい、なかなかUIの路線が変更できなかったりする。具体的な改善策が提案されたとしても、一部の製品でのみUIを変えるのは統一性を失うとか、従来ユーザーにやさしくないといった不思議な理由で却下され、遅々として改善が行われないのだ。
また同じ理由で、こうした大きなメーカーでは、タッチインタフェースの登場のようにUIに革命的な進化が発生した場合も、全体をリプレースするのに大変な労力がかかることから、反映は遅々として進まない。現実的には、競合他社が対応をはじめてようやく重い腰を上げる、というケースも少なくない。全体の傾向としては「当たりも引きやすいが、合わない場合はとことん合わず、短期的な変革は望めない」といったところだろうか。
では中小のメーカーはというと、この正反対の傾向が多い。すなわち、実験的なUIやブッ飛んだ操作体系が投入されることはよくあるが、担当者の趣味に走りがちなので必ずしも万人に使いやすいとは言えない。また取りまとめをする部署が社内に存在しないため、ノウハウのよしあしを問わず社内で共有されず、製品ごとに操作体系がバラバラというパターンが発生しうるわけである。UIにほれ込んで後継製品を買ったら、これまでのUIは影も形もなかった、というケースが起こりうるわけである。
また、こうした中小のメーカーでは、そもそも中身はまんま海外製品のOEMというケースが多く、UIについて何らかのこだわりがあっても、力関係的に製品に反映させられないことも多い。大抵のOEMメーカーは、日本ではA社、ヨーロッパではB社、といった具合に、1つの製品を複数のメーカーに卸す。それゆえ、1社からだけの要望を積極的に製品に反映させるのは、基本的にNGというわけだ。
以上、さまざまなケースを見てきたが、UIに対する意識は近年高まりを見せつつあるとはいえ、IT系のハードウェアの世界では現実的には売上にどれだけ結びついているかデータが出にくいこともあり、まだまだ優先度は高いとは言い難い。冒頭に紹介したようなガイドラインが広く認知され、製品の開発に生かされることを、1人のユーザーとしても望むばかりだ。
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