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もう知らないと乗り遅れる? 「VR(Virtual Reality)」の基礎知識Oculus Rift、PlayStation VR、HTC Vive……(1/3 ページ)

2016年は「VR元年」となりそうです。VRって何? 何がスゴイの? なぜ今話題なの? これからどうなるの? そんな素朴な疑問にVRアプリ開発者が答えます。

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そもそもVR(Virtual Reality)とは何か

 「VR(Virtual Reality)」は日本語で「仮想現実」といった訳語が定着していますが、それぞれの英単語の意味をそのまま訳すと「現実同然」といった意味になります。

 ITmedia読者の方なら「仮想メモリ(Virtual Memory)」や「仮想マシン(Virtual Machine)」と言ったコンピュータ用語をご存じかと思いますが、これらの言葉はHDDやSSDなどメインメモリではないものを「メモリ同然」として扱ったり、プログラム上でコンピュータハードウェアをエミュレーションして「マシン同然」として扱えるものを指しています。

 VRもそれと同じように、広義では「現実同然として扱える事象全て」を指す言葉です。現実世界を模したものは、全てVRと呼んでも差し支えはないでしょう。

VR
VRブームの火付け役となった「Oculus Rift」の利用イメージ(同製品の製品情報ページより)。ヘッドマウントディスプレイをかぶると、視界いっぱいに現実のような映像空間が広がります。目の前にスクリーンの四角が存在する従来の映像体験とは異なり、強い没入感が得られるのがポイントです。さらにさまざまなセンサーと組み合わせることで、仮想空間を自由に移動するような体験も可能となります

 大学の研究施設では、部屋自体をバーチャル空間にすることが可能なシステムも既に存在します。例えば、筑波大学エンパワースタジオのVRシステム「Large Space」では、人間を吊り下げるワイヤー、奥行きのある映像を壁面全周と床面に表示するプロジェクター、そして複数人の動きをリアルタイムでトラッキングするモーションキャプチャーシステムの組み合わせにより、空間そのものを別世界に置き換えたような体験ができます。

 このように、ひとくちにVRと言っても、その実現方法はさまざまです。

筑波大学エンパワースタジオ
筑波大学エンパワースタジオの巨大VRシステム「Large Space」。写真は「エンパワースタジオ公開シンポジウム」のワイヤー駆動モーションベース体験(http://www.emp.tsukuba.ac.jp/wp/archives/1548)

VRの何がスゴイのか

 VRは「全く別の世界を再現すること」が目標の分野です。最終的には視覚、聴覚、触覚、味覚、嗅覚の五感と、平衡感覚などの人間が持つさまざまな感覚に働きかけて別の世界を現実さながらに体験できるようになることがVRの到達点です。

 物語や映像、ゲームを通して「他人事(ひとごと)」として想像上の世界を体験するのとは異なり、「自分が見て聴いたこと」として人工世界に入り込むことができるのが、VRの特徴であり、すごさとなっています。そのため、VRは映像作品やゲームのコンテンツに限らず、医療、観光、教育、自動車、航空宇宙産業、モノ作り、軍や警察、広告など、幅広い分野での応用が考えられます。

先端コンテンツ技術展のVR展示
2015年7月に開催された「第1回 先端コンテンツ技術展」のVR体験例。インタラクティブデザインなどを手掛けるPROTOTYPEは、Oculus Riftを用いてバイクの高速走行を疑似体験できる「GODSPEED VR」を出展していました。Oculus Riftによって時速400キロで走行するバイクのCG映像を視界全体に映し出しながら、実際にまたがれるバイク筐体、ヘッドフォン、振動装置、大型ファンなどを組み合わせることで、走行時の音やバイクの振動、ライダーに吹き付ける風までも再現しています

なぜ今VRが話題なのか――火付け役となったOculus Rift

 最近話題の「VR」は、ほとんどの場合ヘッドマウントディスプレイ(以下、HMD)によって実現されたものを指します。

 しかし、VRを抜きにしたHMD自体はそれほど目新しい物ではありません。映像鑑賞用にソニーの「HMZ-T」シリーズがあり、さらにその前はゲーム用としてPlayStation 2向けに発売されたソニーの「PUD-J5A」、任天堂が発売したゴーグル型のゲーム機である「バーチャルボーイ」や、タカラが発売した「ダイノバイザー」などがありました(正確にはバーチャルボーイは「ヘッドマウント」していませんが)。

HMZ-T3
2013年11月に発売されたソニーの3D対応HMD「HMZ-T3」。かぶると、仮想視聴距離約20メートルで約750型の大画面が映し出されます。ただし、VR対応HMDのように、視界全体をおおう映像体験ではありません

 HMDによるVRがここまで広まった理由は、「Oculus Rift」を抜きにして語ることはできません。仮想空間を表現するディスプレイという概念はコンピュータグラフィックス黎明期から存在し、さまざまな研究が行われてきましたが、個人でも購入できる製品としてのVR対応HMDは、Oculus Riftがその火付け役と言えます。

 それまでのHMDは、視界を占める映像の範囲(視野角)が狭く、およそ45度程度のものが主流でした。つまり、HMDをかぶっても目の前に四角いスクリーンが表示されるだけで、狭いスペースで映画館のような大画面を楽しめるというメリットはあるものの、VRを体験するためには没入感が全く足りませんでした。

 それに対して、当時10代の学生だった米Oculus VR創業者のパルマー・ラッキー氏が2011年に作ったPCとつなぐHMDのプロトタイプは、球面レンズを用いて90度というとても広い視野角を実現していました。球面レンズなので通常は映像がゆがんでしまいますが、映像自体をレンズに合わせてゆがませてディスプレイに表示することで、視界いっぱいに広がる自然な映像体験を可能にしたのです。

 また、頭の向きをセンサーで測定してカメラの向きに反映する「ヘッドトラッキング」の仕組みも実装していました。ヘッドトラッキングによって、HMDをかぶったユーザーが上を見ると青空が見え、下を見ると自分の足と地面が見えるといった操作にも対応し、視界いっぱいに広がる映像と合わせて、強い没入感が得られるようになっています。

Oculus Rift初期イメージ
Oculus Riftの開発初期に公開されたプロモーションビデオより。広視野角レンズと低遅延のヘッドトラッキングで、VR対応HMDの可能性を示しました

 当時10代の学生が作ったHMDのプロトタイプを見たOculus VR現CEOのブレンダン・イリベ氏や、同現CTOのジョン・カーマック氏の後押しを受け、Oculus Riftを開発・生産するためのクラウドファンディングが2012年8月にKickstarterで行われました。

 当時としては珍しかった広視野角のレンズと低遅延のセンサーによるヘッドトラッキングを搭載したOculus Riftは高い関心を集め、目標額の974%という超が付くほどの大成功を収め、世に出ることが決まります。筆者もバッカー(支援者)の1人です。

Kickstarter
Oculus Rift Kickstarterのページ。クラウドファンディングで圧倒的な支持を受け、開発がスタートしました
Kickstarter時にOculus VRが公開していたプロモーションビデオ

 2013年に完成したOculus Riftの第1世代アプリ開発者向けキット「Development Kit 1(DK1)」は、世界中のゲーム開発者の祭典であるGame Developers Conference(GDC)や、世界最大のゲーム見本市であるE3などに展示され、その圧倒的な視野角と低遅延のヘッドトラッキングによりクラウドファンディングには見向きもしなかった人々からも注目を集めます。

 またソフトウェアの開発環境も公開されたことで、ジェットコースターなどの臨場感あふれるアプリが作られ、ゲーム業界以外の人々にもそのすごさが伝わり始めます。

Oculus DK1
Oculus Riftの初期開発キット(DK1)。画面解像度は1280×800(片目640×800)、パネルは液晶、リフレッシュレートは60Hz対応というスペックで、300米ドルでした
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