誤解だらけの「ホログラム」 それっぽい映像表現との違いは?(1/2 ページ)
最近の映像表現でやたらと目にする「ホログラム」という言葉。しかし、本来の意味で正しく使われていることがほとんどないのをご存じだろうか。
表現をPC用ディスプレイやテレビ、スマートフォンに縛り付けられるのは、もはや窮屈だ。そのためか最近、「ホログラム」という言葉を使った映像表現が増えている。しかし、そのほとんどは本当はホログラムではない。
では、ホログラムとそうでないものは何が違うのか、「本物のホログラム」と「ホログラム的なもの」は、それぞれどういった世界を目指そうとしているのか、解説してみよう。
本物の「ホログラム」とは何か
冒頭で述べたように、ちまたでホログラムと呼ばれているもの、特に最近、映像表現として使われているもののほとんどは、実際にはホログラムではない。
例えば、Microsoftのヘッドマウントディスプレイ「HoloLens」とそのプラットフォームである「Windows Holographic」も、「ホログラフィックエンターテインメント」をうたい文句にしているDMMの劇場施設「DMM VR THEATER」も、本来の定義から言えばホログラムとは全く異なるものである。
こうした映像表現をホログラムと呼ぶのは、映像が空間に浮かび上がっているからだろう。SFでいうなら、「スター・ウォーズ エピソード4(新たなる希望)」でR2-D2から表示されるレイア姫の映像であり、「スタートレック」シリーズの「The Next Generation」以降で登場する「ホロデッキ」もそうしたイメージだ。紙幣やクレジットカードには「虹色でキラキラした印刷」が貼り付けられていて、見る方向で映像の見え方が変わり、立体的に見える。これもホログラムと呼んでいる。
だが「空間に浮かび上がったり、重なったりするもの」は、あくまで「ホログラムを思わせる表現」ではあるものの、本来のホログラム・ホログラフィック技術とは異なるものである。本当にホログラムと言えるのは、むしろ「虹色でキラキラした印刷」の方だ。
では本来のホログラフィック技術とは何か?
実はそもそもホログラフィックとは、映像の表示方法ではなく、記録方法を含む技術を指すものなのである。
通常の映像では、光の強さと色が記録される。光の色とは光の波長の違いだし、強さとは振幅の大きさなので、映像は「光の振幅と波長を記録したもの」なわけだ。一方ホログラムでは、振幅と波長に加え「位相」が記録される。
もうちょっと分かりやすく言おう。通常の映像は、物体に光が反射したものが記録媒体(写真の場合にはフィルムやセンサーであり、人間の目なら網膜だ)に映ったものを記録している。すなわち「平面の映像」を記録しているわけだ。人間が立体的に感じるのは、目が2つあり、それぞれで受け取った映像を脳内で処理しているからである。
ホログラムでは、通常の光に加え「参照光」というものを使う。すると、記録媒体には両者の光の干渉縞を記録することになるのだが、結果、1枚の記録媒体に、物体の像を平面の影としてでなく「立体」として記録できる。それを表示すれば、人が見る方向を変えることで写っている物体が「立体的」に見える、という仕組みだ。
ホログラムの「Holo」とはギリシャ語で「全て」という意味であり、写真=フォトグラフィーから転じて、全てを記録する、というような意味合いで「ホログラフィー」という語が生まれた。
2枚の映像から得られる立体は、情報量が少なくても立体に見える、という利点がある一方で、ある視点から見た場合の立体像にすぎないため、例えば回り込んで横から見ることはできない。だがホログラムでは立体像として映像が記録されているため、動いてもきちんと立体に見える。
一方で、ホログラムは原理上データ量が増えるうえに、より高い解像度を再現できるディスプレイデバイスがないと、カラーかつ動画のホログラム映像を記録するのは難しい。高精度なホログラムはまた、記録にも再生にもレーザー光を使うため、機材も特殊で大きくなりがちだ。
ホログラフィーの記録と再生の仕組み。レーザー光を干渉させるために暗室内で行われる。(a)に示すようにレーザー光を2つに分けて、一方を被写体に、もう一方を写真乾板などの記録媒体に照射する。記録媒体には、被写体から反射した物体光と直接記録媒体に照射した光(参照光)とが干渉して生じる明暗の縞しま模様(干渉縞)が記録される。この干渉縞が記録された記録媒体をホログラムと呼ぶ。再生においては、5図(b)に示すように、記録時に用いた参照光と同じ特性を有する光(照明光)をホログラムに対して参照光と同じ方向から照射する。照明光はホログラムに記録された干渉縞によって回折されて物体光と等価な光となり、被写体の存在した位置に被写体の光学像を形成する(NHK技研R&D No.151「ホログラフィー立体表示用デバイスの研究動向」より)
独立行政法人情報通信研究機構(NICT)が2008年に開発したカラー電子ホログラフィ対応の立体映像システム。レーザー光を使わずに通常の照明で被写体を撮影し、リアルタイムでホログラフィを再生表示する。本技術では、暗室以外の場所でも被写体のホログラムをリアルタイムで取得し、その場でカラー動画の立体映像を表示可能だ(NICT報道発表「実写立体像の再生が可能なカラー電子ホログラフィを開発」より)
ちなみに、紙幣などに使われているのは「レインボーホログラム」と呼ばれるもので、自然光だけで表示できることを前提としたものだ。その原理上、左右もしくは上下どちらかでしか視野を変化させられない。偽造が比較的難しいため、カードや紙幣で使われている。
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