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新しい「MacBook Air」と「iPad Pro」に触れて感じた“違い”本田雅一のクロスオーバーデジタル(2/3 ページ)

「MacBook Air」と「iPad Pro」の新モデルが登場。「モバイル環境で使われるパーソナルコンピュータ」という領域では重なる要素を持つ、この2製品について実機に触れた印象をお伝えする。

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「Appleが考えるモバイル型コンピュータの未来」を投影したiPad Pro

 一方のiPad Proは、まさに刷新という言葉がぴったりの大幅なアップデートになった。機能的な面だけでいえば、Face IDが使える深度検出対応インカメラに、iPhone XS/XS Max/XRと同じ26mm画角相当の1200万画素アウトカメラが搭載されたことや、ギリギリまで拡大されたディスプレイといったところが特徴だろう。

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新しいiPad Pro。左が11型、右が12.9型のモデルだ。いずれも従来よりコンパクトになっているが、画面がギリギリまで広げられているため、表示面積は増えている
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iPad ProにはUSB Type-Cが採用された。Lightningは廃止に
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Smart Keyboardとの接続端子は側面から背面に変更されている
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新しい「Apple Pencil」はマグネットで側面に吸着し、ワイヤレス充電となった

 しかし、新しい構造となったキーボード兼カバーの「Smart Keyboard Folio」をはじめ、iPadを“パソコンライクに使用”した場合のフィーリングは、スペックなどの数字以上に良くなっている。第1世代のiPad Proが登場した当初から比べると、iOSも3回のメジャーアップデートがあり、その間に作業性は大きく向上した。

 Smart Keyboard Folioは、従来よりもキータッチがシャープになり、十分に深いストロークとともに快適な文字入力が可能だ。11型モデルは約17mmのキーピッチと狭めだが、12.9型モデルならば一般的なキーボードと同じ感覚で入力できる。

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12.9型モデルのはノートPCと交互にタイプしても、ほとんど違和感がなく、文書の生産性も高いと感じられた。応答性の高さ、パフォーマンスはMacBook Air以上かもしれない

 iPad Proの背面全体を覆いつつ、マグネットで固定する新しい装着法は、本体角度を2種類に変えられる点も含め、以前より格段に使いやすくなっている。

 ファブリックでラミネートする構造に変化はないため、1年ほど使い続けたとき、どこまでの耐久性を発揮しているかまでは分からない(以前のSmart Keyboardは長期間使った後の劣化が大きかった)が、少なくとも使用感に関しては大きく向上し、Windows搭載の2in1機と肩を並べるレベルになってきたと感じた。

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Smart Keyboard Folioを開いた様子と、新しいApple Pencil

 ウィンドウを分割しての作業や、異なる2つのアプリ間でのドラッグ&ドロップによるデータ連携、通知を起点にした即時応答するユーザーインタフェースなどの機能が搭載されていることに加え、Microsoft Officeがほぼフル機能で動作するなど、一般的なオフィスワークを含めた作業でためらうことはかなり減った。

 日本語環境においては、Macの方がより柔軟な日本語入力環境を実現できているため、文章入力を中心とした仕事には向いている。iOSの日本語入力……特にサードパーティー製入力メソッドのインタフェースは大幅に更新すべきだが、言い換えればそれ以外の点ではiPad Proでも、ノートPCと同等の生産性を得られるようになってきた。

 一方で、操作に対する応答性という意味では、iPadはユーザー体験の質が高いという側面もある。実際にコンピュータを使ってほとんどの仕事をこなす筆者の立場からしても、今回はMacBook Air(あるいは同様の可搬性を持つパソコン)とiPad Proのどちらがベストな選択肢なのか迷うところだ。

 なぜなら、これまで一直線に汎用(はんよう)のコンピューティング能力を高めてきたパソコンに対して、iPad Proは対極ともいえる進化をし始めているからだ。

非対称のプロセッサ機能・性能強化

 Appleは特別にアナウンスをしていないものの、恐らくプロセッサ全体の処理能力としては今回発表されたMacBook Airよりも、大幅に薄型化されたiPad Proの方が高いと思われる。

 Apple自身で開発した「A12X Bionic」は、従来機より90%もメインプロセッサの能力が高まっており、GPUパフォーマンスに至っては2倍に増加した。100億トランジスタを集積したこのSoC(System on a Chip)は、7nmプロセスで生産され、4つの高性能コアと4つの高効率コアによる合計8コアのプロセッサ、7コア構成のGPU、iPhone XSシリーズなどと同様の「Neural Engine」(ニューラルネットワーク処理専用に設計された信号処理プロセッサ)が内蔵されている。

 つまり、用途が異なる4種類のプロセッサコアが混在していることになる。ARMベースのコアが高性能と高効率の2種類となっているのは電力効率を高める上でのトレンドだが、統合するGPUや独自のニューラルネットワーク処理プロセッサであるNeural Engineに多くのトランジスタを割り当てているのは、Apple自身の方針と考えるべきだろう。

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新しいiPad ProはSoCに「A12X Bionic」を採用。統合するGPUや独自のニューラルネットワーク処理プロセッサである「Neural Engine」に多くのトランジスタを割り当てている

 iPhone XS発表時のコラムでも述べたように、これは一般的なコンピュータ処理能力の向上よりも別の軸に、大きな進化を求める方がより効果的にユーザー体験を高められとAppleが考えているからだろう。

 プロセッサの設計とiOS、それにデバイス全体の設計、将来に向けたロードマップ、あるいは開発者向けの環境整備やサポートまでを自分たちだけでカバーしているAppleならではの強みを発揮しやすい方向ともいえる。

 現時点ではARアプリ、あるいはエッジAIで写真の分類、検索を行うといった用途で、主にその思想の違いが現れているが、将来、iOS向けアプリに「Core ML」(機械学習モデルを構築する際に用いるライブラリ)を活用したものが増えてくれば、より明確にMacとの違いが出てくるだろう。

 これは、どちらの方が良い、優れているという話ではなく、あくまでもパーソナルコンピュータという製品の作り方、進化させていくやり方の違いだ。

 Appleの発表会では、Adobe Systemsの担当者も登壇し、iPad Pro上で「Photoshop CC」を動かし、150以上のレイヤーを重ねて合成する様子をデモした。5.9mmの薄型筐体にもかかわらず、ほとんどタイムラグを感じさせずに拡大縮小など自由自在に操作しながら時間的な遅れなく表示される様子や、「Apple Pencil」やタッチ操作に対応したユーザーインタフェースを見る限り、iPad ProとMacの間にあるのは「目的を達成するためのアプローチの違い」だけだ。

 言い換えるならば、パソコン世代ではない、スマートフォン世代の人たちにとっては、新しいiPad Proの方が、個人の生産性を高める道具として適切なものに見える。そんなところにまで、MacとiPad Proの間は詰まってきているのかもしれない。

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