リチウムに代わる「ナトリウムイオン電池」:キーワード解説
電力を有効に利用するうえで蓄電池が果たす役割は大きい。現在はリチウムイオン電池を内蔵した製品が主流で、家庭用から電気自動車まで用途は広い。ただし素材になるリチウムがレアメタルで高価なために製造コストが下がりにくい。安価なナトリウムを使った電池の開発が進んできた。
NEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)が2013年にまとめた「二次電池技術開発ロードマップ」には、次世代の電池として5種類の技術が挙げられている(図1)。蓄電池の小型化や低価格化の面で重要なエネルギー密度(重量あたりの電力量)を高めることが大きな目的だ。
現時点で実用化されている技術では、リチウムイオン電池のエネルギー密度が最も優れている。家庭用の蓄電池や電気自動車用のバッテリーにはリチウムイオン電池を内蔵したものが多い。最新の製品ではエネルギー密度が150〜200Wh/kg(ワット時/キログラム)まで向上している。
例えば電気自動車の「日産リーフ」に搭載しているリチウムイオン電池のエネルギー密度は150Wh/kg程度で、バッテリー全体の蓄電容量は24kWh(キロワット時)ある。もしエネルギー密度が2倍になれば、同じ重量のバッテリーで2倍の距離を走ることが可能になる。次世代のリチウムイオン電池ではエネルギー密度が500Wh/kgのレベルに達する見込みだ。
ただしリチウムイオン電池には大きな問題点がある。リチウムが世界の一部の地域でしか産出できないレアメタルに属することだ。当然ながら価格が高く、安定供給にも不安がある。そこで国内の大学や研究機関がリチウムに代わる素材を使って、新しい電池の技術開発に取り組んでいる。有力な候補の1つが「ナトリウムイオン電池」である。
ナトリウムイオン電池の原理はリチウムイオン電池と似ている。電池のプラス極とマイナス極のあいだをナトリウムイオン(Na+)が移動して、充電と放電が可能になる(図2)。リチウムイオン(Li+)と同じ役割をナトリウムイオンが果たす。
現在のところ最大の課題は、大量のナトリウムイオンを吸着・放出できる性質をもった電極(プラス極とマイナス極)を開発・製造することにある。東京理科大学では鉄やマンガンなどを組み合わせたナトリウム酸化物をプラス極に利用する技術を開発した。マイナス極にはリチウムイオン電池と同様に炭素材料を使って、リチウムイオン電池を上回る高いエネルギー密度(500Wh/kg前後)を達成している。
東京大学と長崎大学の共同研究チームはマイナス極にチタンと炭素を組み合わせたシート状の化合物を適用する方法で、ナトリウムイオン電池のプロトタイプを作成した(図3)。詳細なデータは公表していないが、大量のナトリウムイオンを吸着・放出できる特性を確認している。吸着・放出のスピードを高めることが可能で、急速充電にも対応することができる。
このほかの大学や研究機関、電池メーカーのあいだでもナトリウムイオン電池の開発が進んでいる。2020年までには実用化が見込まれていて、リチウムイオン電池を代替する安価な蓄電池として期待が高まる。将来は太陽光や風力のように天候によって出力が変動する電力を安定して供給する用途にも使われる可能性は大きい。
関連記事
- 2種類の蓄電池が太陽光と風力に対応、離島で電力の安定供給を図る
太陽光発電と風力発電は天候によって出力が変動するが、その変動パターンには大きな違いがある。特性の異なる2種類の蓄電池を使い分けて、太陽光と風力の出力変動を吸収する実証事業が島根県の隠岐諸島で始まる。離島の再生可能エネルギーを拡大するために、日本で初めて取り組む。 - 1万本以上のリチウムイオン蓄電池で、太陽光発電による電力融通を可能に
日本でも最先端のエネルギー管理システムを構築する「柏の葉スマートシティ」では、大容量の蓄電池システムを導入して太陽光発電の電力を最大限に活用する。1万本を超えるリチウムイオン蓄電池が充電と放電を繰り返しながら、地域内のビルで使用する電力のピークを抑える仕組みだ。 - 海水からリチウムの抽出に成功、日本の原子力研究機関が世界初
電気自動車をはじめ蓄電池の分野で利用量が急増しているリチウムはレアメタルに分類されていて、日本では100%を輸入に頼っているのが現状だ。その貴重なリチウムを海水から分離・回収することに世界で初めて、日本原子力研究開発機構が成功した。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.