「ChatGPT」が登場してから、瞬く間に注目の的になった生成AI。AIによる業務課題の解決に期待が集まる一方で、「PoC(概念実証)疲れ」という言葉に象徴されるようにAIシステムの実装や社内での定着に難儀するケースが散見される。
「AI活用」を推進してきたベンダーやシステムインテグレーター(SIer)は、こうしたユーザー企業の課題に真正面から向き合わなければならない。生成AIが巻き起こした変革の波を前に、「ITパートナー」は何を提供すべきなのだろうか。
問いの答えを求めて、「Microsoft Copilot」などの生成AI製品を日本企業に提供している日本マイクロソフトと、同社が選ぶ「Microsoft Japan Partner of the Year 2024」において「AI Innovation」部門を受賞したヘッドウォータースを取材。AI時代のトレンド、ベンダーやSIerが果たすべき役割、ユーザー企業を含めた三位一体で目指すAI導入の理想像について聞いた。
「AIに全振りしていると言っても過言ではありません」――日本マイクロソフトの木村靖氏はこう切り出す。Microsoftのサティア・ナデラCEOも「Microsoftのあらゆる製品に、製品を一変させるようなAI機能を搭載していく」と述べており、AIのUI(ユーザーインタフェース)となる「Copilot」は、「Microsoft 365 Copilot」や「GitHub Copilot」などで活用が進んでいる。
AIのビジネス活用をけん引してきたMicrosoftがいま推進しているのが「AIエージェント」だ。「Copilot Studio」によって独自のCopilotやAIエージェントが構築できるようになった。「Azure AI Foundry」と連携すれば、より高度なAIエージェントの開発・運用が可能になる。
「従来のAIは、単純な指示に応えるチャットbotのような存在でした。これからはAIエージェントが自律的にタスクをこなすようになり、その先には複数のAIエージェントが連携して複雑な業務を遂行する世界『Agentic World』が迫っています。AIエージェントの領域でMicrosoftがリーダシップを取りたいのです」
木村氏は「2028年までに13億以上のAIエージェントが稼働する」という予測を紹介しながら「退屈な業務はAIエージェントに任せ、人間は創造的で楽しい仕事に集中できる世界を目指しています」と展望を話す。
そんなビジョンを体現しているのがヘッドウォータースだ。同社はAIシステム開発に強みを持つSIerで、実績や技術力を第三者機関による監査を通じて証明するパートナー認定制度の最上位「Specialization」を取得。日本マイクロソフト主催のアワード「Microsoft Japan Partner of the Year 2024」のAI Innovation部門で表彰されるなど、その腕前は折り紙付きだ。
ヘッドウォータースの西間木将矢氏は「CopilotやAzure OpenAIを使ったAIエージェントを多数構築してきました」と言い、代表例として大和証券が導入した「AIオペレーター」を紹介する。
大和証券は、コンタクトセンターにおける電話対応の一部を生成AIに置き換えることで「待ち時間の短縮」「人手不足の解決」といった成果を狙ってAIオペレーターを開発した。セキュリティや回答精度など金融機関として譲れないラインを決め、ヘッドウォータースを含む数社とAIシステムを共創。「マーケット情報を回答するAIエージェント」「FAQに対応するAIエージェント」など複数のエージェントを組み合わせた。2024年秋のリリース当初は1日当たり数百件の問い合わせにAIオペレーターが対応していたが、その数は増加の一途をたどっているという。
「金融機関という性格上、AIオペレーターが誤った情報を答えるわけにはいきません。外部ソースから取得したマーケット情報を間違いなく伝える仕組みや、お客さまの個人情報を保護する仕組みを整備しました。現場の方々からは『AIにもっと任せたい』という声が上がっているようです。人間のオペレーターが付加価値の高い業務に集中できる仕組みをつくれました」(西間木氏)
大和証券の例は、AIによる課題解決を実現した理想的な姿だ。しかし、成功する企業ばかりではない。木村氏は「多くの企業が生成AIの導入を試みていますが、PoCを繰り返してばかりでビジネス実装までたどり着けないケースが散見されます。これは、Microsoftのパートナーが支援する企業も例外ではありません」と明かす。
PoC疲れに陥る企業とAI活用に成功する企業の分岐点はどこにあるのか。西間木氏は、成果を出している企業の特徴として、「『AIで業務を変える』というミッションが揺らがない」という点を挙げる。挑戦するマインドがあっても、目的がぶれてしまうと何度試しても成果につながらず挫折してしまいやすい。
SIer側にも課題がある。木村氏は「依頼されたITシステムを納入する従来の受託型を続けていてはAIの定着や活用を支援し切れなくなる可能性があります」と指摘。AIは日進月歩で、「完成したから終わり」とはいかない。AIの利用が当たり前になるような社内カルチャー変革を起こし、ユーザー企業が自走できる状態に達するまでサポートする定着支援や伴走支援が求められている。
こうなると、SIerが1社だけで取り組むには限界がある。西間木氏は「AIベンダー、SIer、ユーザー企業が三位一体で取り組む枠組みとして『生成AI事業化支援プログラム』がうまく機能しています」と評価する。
生成AI事業化支援プログラムは、生成AIの活用を広めることを目的として日本マイクロソフトが始めた国内独自の施策だ。参画するパートナー企業に対して、「Azure OpenAI」やCopilotなどMicrosoftの生成AIサービスに関する最新情報を提供したりAIビジネスの構築、案件創出を支援したりしている。
Microsoftの日本におけるパートナーエコシステムは拡大を続けており、AI領域のSpecializationパートナー数は2年間で15倍に、AI関連の認定資格取得者数は4.5倍に増加した。生成AI事業化支援プログラムの参加パートナーは230社を突破し、数々のユースケースが生み出されている。
同プログラム最大の特徴は「パートナーの連携」を掲げている点にある。
「かつてのパートナービジネスは、ライセンス販売などコモディティ化した領域での『競争』でした。しかし、生成AIは新しい市場であり拡大していきます。成功パターンは一つだけではありません。パートナーがユースケースを公開し合い、共に学び、各社の得意分野を持ち寄ってユーザー企業の課題を解決することで生成AIを広めていく『共創』が必要です」(木村氏)
生成AI事業化支援プログラムの下に集まったパートナー企業――戦略を立案するパートナー、業務への実装方法を設計するパートナー、AIシステムをプロコードで開発するパートナー、定着を支援するパートナーなどがタッグを組んでAI活用を後押しする。そんな構想がすでに実を結んでいる(※)。
パートナー企業にとって、生成AI事業化支援プログラムはどう映っているのか。西間木氏は「非常にありがたいです。日本マイクロソフトが提供する技術トレーニングセッションに参加することで、新しい技術領域にチャレンジするモチベーションになっているメンバーも多くいます。新たな技術に挑戦し続けるという組織カルチャーの醸成に一役買っています」と力説する。
西間木氏は同プログラムの一環である技術イベントの「AI Pitch DAY」を高く評価する。ユーザー企業を招き、事前に設定された業種・業務課題に対し複数パートナー企業が解決策をプレゼンするイベントだ。“テスト問題”ではなく「本物の課題」が題材だからこそ真剣さが別物だと西間木氏は言う。
「お客さまは、AIに強いパートナーを知りたい。パートナーは、新しい顧客と出会いたい。両社をマッチングする場として毎回満員御礼となるほど人気です」(木村氏)
パートナー企業が会場で発表している様子はオンラインで配信しており、ライブで600人以上が視聴することもあるという。西間木氏は「顧客ニーズ、他社の動向、技術トレンドを一度に把握できるので、とても楽しいです。生成AI事業化支援プログラムのイベントに参加することが当社の事業戦略における重要なマイルストーンになっています」と強調する。
日本マイクロソフトのプログラムを徹底的に活用しているヘッドウォータース。同社が顧客への提供価値を最大化するために活用しているが、Microsoftの「Azure Accelerate」(旧Azure Innovate)だ。Specializationパートナーに技術的・資金的な支援を提供するもので、木村氏は「高い技術力を持つパートナーがその真価を発揮できるように、グローバルで潤沢な予算を用意しています」と説明する。
「PoCを成功させて実装や定着に進展させるためには、お客さまの課題を発掘するワークショップや開発体制の強化といったプラスアルファの活動が必要です。パートナープログラムを利用することで戦略的かつ積極的に活動できるようになりました。お客さまの満足度も高く、次のビジネスにつながっています。Specializationを取得して本当に良かったです」(西間木氏)
日本マイクロソフトが掲げる世界観に共鳴し、高いレベルで実行しているヘッドウォータースの原動力は何か。西間木氏は次のように語る。
「当社の根底には『テクノロジーで世の中を変えたい』『新しいことに挑戦したい』というマインドセットがあり、数カ月ごとに技術革新が起きるようなAI時代にマッチしています。社内で試し、技術ブログで発信し、新しい波が来たら次に移れる柔軟性につながっているのです。このカルチャーが経営層から現場まで根付いています」
ヘッドウォータースの思想と日本マイクロソフトの施策がかみ合ったことで、AI活用の輪を広げる活動に勢いが生まれた。木村氏は「ヘッドウォータースは、戦略策定から定着まで支援できる技術力があります。さらに、そこで得た知見やユースケースを他のパートナーに率先して共有しようとする姿勢が素晴らしいです」と称賛する。
西間木氏は「私たちは、お客さまのAI活用を成功させたいんです」と力を込める。どのSIerもきっと同じ気持ちだろう。木村氏も大きくうなずく。日本マイクロソフトを軸にして、AIベンダー、SIer、ユーザー企業がつながる世界が出来上がりつつある。
「AI市場は必ず伸びます。日本マイクロソフトは、お客さまの課題解決に役立つAI技術を提供すると同時に、AIに挑戦するパートナー企業を支援するプログラムを推進し続けます。技術の進化にもパートナーの成長にも期待してほしいですね」(木村氏)
※生成AI事業化支援プログラムの参加パートナー企業による取り組み事例は下記をご参照ください。
・大和証券と協働し、AIオペレーターを開発 〜 生成AI活用による顧客体験(CX)変革を実現 〜
・富士通とヘッドウォータース、日本航空客室乗務員のレポート作成業務効率化に向け業務特化型オンデバイス生成AIソリューションの実証実験を実施
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提供:日本マイクロソフト株式会社、株式会社ヘッドウォータース
アイティメディア営業企画/制作:ITmedia AI+編集部/掲載内容有効期限:2025年9月2日