OpenAI Japan瀬良氏と語る、AIエージェント「Codex」がもたらす“働き方の再定義” ビジネスパーソンが「作業者」から「監督者」になる日:ITmedia AI+編集長対談
AIは「相談役」から実務を担う「作業者」へ。OpenAIのAIエージェント「Codex」は、PC内のファイルを直接操作して煩雑な業務を代行することができるという。Codexは、エンジニアの枠を超えてビジネスパーソンの日常をどう変えるのか。
ChatGPTに資料の要約や文章の壁打ちを頼むビジネスパーソンは多い。しかし、PC内の大量のPDFを突合したり、提案書とExcelを横断チェックしたりする作業までAIに任せている人はまだ少ないはずだ。AIは相談相手になったが、作業環境に入り込んで手を動かす存在にはなり切れていない。
一方、ソフトウェア開発の最前線はすでに次の段階に入った。人間がコードを書いてAIが補助する時代から、AIにゴールを渡して作業を任せる時代への移行だ。OpenAIのソフトウェア開発全般を支援する開発エージェント「Codex」は、その変化をリードする存在として注目を集めている。週間アクティブユーザー数は2026年4月上旬の300万人から、わずか2週間で400万人を突破するなど現在も急速に普及が進んでいる。
では、ChatGPTを日常使いする非エンジニアにとって次の一手はどこにあるか。開発現場で先行するCodexは、多くのビジネスパーソンの日常業務をどう変え得るのか。ITmedia AI+編集長の井上輝一が、OpenAI Japanでプラットフォーム関連の開発業務と日本の開発者支援を担う瀬良和弘氏に「AIエージェント時代の働き方」を聞いた。
Codexとは何か 「相談するAI」から「作業するAI」への転換
Codexはコードを書くだけのツールではない。設計から実装、テスト、レビューまでユーザーの指示に基づき一気通貫で作業を進めるAIエージェントだ。
もともと開発者がローカル環境で作業する前提で生まれたCodexは、クラウド利用を主としたChatGPTとは異なる強みを持つ。クラウド連携はもちろん、ローカルファイルを参照した作業にも非常に優れているのが特徴だ。詳細について瀬良氏はこう話す。
「PDFなどの多様なファイルが多数ある状況では、アップロード自体が非現実的です。Codexなら大容量データや膨大なファイル群でも、ローカル環境を直接参照して作業できます」
クラウドに上げる前提を取り払って、いつものデスクトップ環境をそのままAIの作業空間に変える。これがCodexの重要な設計思想の一つだ。
CodexはCLI(ターミナルなどのいわゆる“黒い画面”)やIDE(Visual Studio CodeやJetBrains IDEなど)への組み込み、2026年2月に登場したmacOS用Codexアプリ、同年3月に登場したWindows用Codexアプリと、利用スタイルの幅を広げてきた。中でもデスクトップ版のCodexアプリの意味は大きい。CLIやIDEは「1ウィンドウ=1タスク」が主流だった。しかし、デスクトップ版のCodexアプリは複数タスクを並列実行させて、進捗(しんちょく)を一覧で確認し、それぞれのタスクに対して追加の指示を簡単に出せる。AIに「同時並行で仕事を回させる」前提の設計だ。
非エンジニアの参入障壁もここで一段下がる。「CLIのような黒い画面(ターミナルウィンドウ)や英語前提の開発者向けのツールの知識が必要だと、それだけで心理的障壁になる」と語る井上の意見は、多くのビジネスパーソンが持つ本音だろう。瀬良氏によると、デスクトップ版のCodexアプリの狙いはまさにその壁を取り払うことにある。
デスクトップ版のCodexアプリをローカルで使う場合、ターミナルの起動もGit/GitHubの操作も必要ない。フォルダを指定して、やってほしいことを書くだけで作業が始まる。瀬良氏は「これまでエンジニアが実践してきた高度な自動化に非エンジニアでも容易に取り組める環境を構築できます」と話す。
開発現場のCodex普及を後押ししたのは、AIモデルの飛躍的な進化だ。OpenAI社内でも、最新モデルの進化に合わせて2025年後半からCodexが業務に本格的に組み込まれ始めたという。度重なるアップデートを経て、Codexは「タスク遂行を任せられる」自律的エージェントの水準に到達した。2026年に入ってからこれまで以上にユーザー数が増えているのも、性能の進化をいち早く実感したエンジニアの口コミが一因だ。
AIに実作業を任せる価値は言葉だけでは伝わりにくい。しかし「実際に少し触るだけで『ツールの真の価値』への解像度が上がる」(瀬良氏)という。この体験を通じたボトムアップの波は、エンジニアの枠を超えて非エンジニアの日常業務にも波及する。これが同社の考えだ。
非エンジニアが踏み出す「最初の一歩」
では、非エンジニアがCodexを試す際、何から始めればいいか。瀬良氏が挙げる「入り口」の活用例を聞くと、ローカルファイルを直接操作できるだけで日々の煩雑な作業をこれほど肩代わりしてもらえるのかと驚かされる。
井上が「複数のPDFから情報を抜き出してExcelに転記する作業や、煩雑な業務を日本語で指示して代行させています」と自身の活用方法を語ると、瀬良氏は深くうなずく。瀬良氏によると、身近な業務でも、メールに添付された複数のPDFやPowerPoint、Excelのファイルを分析・要約させたり、オンライン会議の録画や文字起こしから議事録のドラフトを作成させたりするなど非エンジニアにとって実用的なCodexの活用例は豊富にあるという。
ファイルを1つずつ開いて目視で情報を拾ったり操作したりする労力は不要になり、フォルダを指定して一括処理を委ねるだけで済む。瀬良氏は「日々のタスクの中に『実はこれ、Codexでできるんじゃないか』と思う作業はたくさんあります」と笑顔で語る。
例えば、過去1年分の広告出稿結果を表す複数のデータファイルをCodexが分析して、見やすいグラフアプリへと構築するといったことも可能(上:Codexの作業画面、下:完成したダッシュボード)《クリックで拡大》
最初から完璧なプロンプトを書く必要はない。「ここまでやってください」と指示して、結果を見て「では次にこれを」と段階を踏む。ChatGPTで身に付けた対話のリズムはそのままCodexに持ち込める。違うのは、AIの操作対象がチャットのテキストではなく、作業対象として選択したフォルダ(「プロジェクト」と呼ぶ)内のコードやファイルに広がる点だ。
AIにPC上で操作を任せると「予期せぬ操作をされないか」と懸念する人も多いかもしれない。しかし、小さいタスクから任せながら徐々に運用ルールを整備することで、そのような問題は避けられる。井上が「あらかじめ『ここはユーザーに必ず確認すること』と指示しておけば、Codexはその時点で作業を止めて人間の判断を仰ぎますよね。任せ切りではなく要所で同意を求めてくる、まさに同僚に近い振る舞いです」と使用感を語ると、瀬良氏もその運用に賛同を示す。
コーディング以外への広がり 業務改善からレガシー環境への適応まで
企業の現場では、すでにCodexが業務改善に結び付いている。
サイバーエージェントの一部の制作現場では、クリエイティブ制作の進行管理にもAIが活用されている。社外とのメールや複数のドキュメントが入り組むプロセスにおいて、強固なセキュリティ環境を構築した上で、CodexなどのAIが複数にまたがる複雑な文脈を踏まえて対応できる可能性が広がっている。現場からは「これまで自動化が難しかった領域にも改善の余地が見えてきた」といった声もあり、業務効率化の取り組みが進められている。
複雑なITインフラを持つNTTデータグループは、経験豊富なエンジニアでも難航するシステム障害の原因特定をCodexによって約30分で完了できた。これを機に「Codexはコーディング以外の業務にも応用できる」との認識が社内で広まったという。現在はソフトウェア開発だけでなく、全スタッフ部門のビジネスユーザーを対象にCodexハンズオンを開催して業務適用を進めている。
ある製造業の企業では、「Excel方眼紙」で管理された仕様書を構造化データに変換する実証実験が進んでいる。井上が「Codexは整然としたデータ環境を前提とせず、日本企業に根付く既存の業務環境にこそ刺さるのでは」と問うと、瀬良氏は「AIというと整った環境でなければダメだと思われがちですが、Codexは、長年運用されてきた多様なIT環境でも活用が増えています」と語り、同意を示す。雑然とした現実を受け入れ、作業に落とし込む適応力こそがCodexの強みだ。
各社の取り組みに共通するのは、最初から一度に完全自動化を目指さない点だ。一部プロセスの省力化から着手して「一度で完璧を求めず、小さく始めて少しずつ改善を重ねればいい」(瀬良氏)。こうした導入ハードルの低さもCodexの魅力だ。
「AGENTS.md」と「スキル」を使った品質担保
業務に組み込む際の下準備にも触れておきたい。瀬良氏が挙げるのが「AGENTS.md」というテキストファイルだ。ここにプロジェクト固有のルールや作業手順を書いておけば、Codexは作業開始前に「AGENTS.md」を読み込む。井上が「指示は日本語で書いても問題ないか」と尋ねると、瀬良氏は「もちろん問題ありません」と答えて、「分量は数百行にとどめ、重要な指示ほど先頭に書くのがコツです」とアドバイスする。巨大ドキュメントを丸ごと貼り付けるのではなく、必要な情報の場所を地図として示すだけで足りるという。
定型業務なら、「スキル」として作業手順をパッケージ化するのも有効だ。作成したスキルはチームやコミュニティーで共有可能となっており、毎回同じプロンプトを入力する手間なく誰でも簡単に実行できるようになる。検証用スキルを作っておいて作業の最後に実行させるなどのルールを設ければ、人間が毎回細かく指示を出さなくてもAIの作業品質を保てる。
安全性の担保には、危険度に応じてAIが承認要否を判断する仕組みやサンドボックスモードが用意されている。とはいえ瀬良氏は、初心者にはまず自分が把握できる範囲の作業から始めることを勧める。コントロール範囲を超えた業務をいきなり任せない。これがCodex活用の出発点だ。
人間は「作業者」から「監督者」へ
Codexがもたらす変化について、瀬良氏は自身の開発体験を交えて語る。同氏はソフトウェア開発キット「Agents SDK」の開発も担当していて、現場でCodexを駆使している一人だ。同SDKのTypeScript版の開発は本来ならより大きな体制と期間を要する規模だったが、「私ともう一人の開発メンバー、そしてCodexの『3人』で、短期間でリリースできました。品質も十分な水準でしたね」(瀬良氏)。AIがチームメンバーとして加わることで生産性が大きく向上することを、開発元自身が体現している。
AIによって創出された時間を、より大きな価値につながる仕事へ振り向ける視点も欠かせない。井上が「AIで余力が生まれた分、新しい企画や改善に取り組めるようになったという声も増えていますね」と語りかけると、瀬良氏は「単純作業や反復業務をAIに任せられるようになった今こそ、人間は『何に注力すべきか』という戦略を考え、より高度な判断や創造的な領域へシフトしていくことが大切です」と説く。
AIが実務をこなすからこそ、「今それをやるべきか、他に優先度の高い仕事はないか」を判断する力が問われる。求められるのは作業者としての手数ではなく、監督者としての意思決定の質とスピードだ。
ここまで見てきたように、Codexがもたらす変革はコーディングの効率化にとどまらない。PC内のファイル操作、ローカルとクラウドの行き来、そして「タスクを完了させる」ことに特化した設計。これらは、Excelを用いた業務オペレーションをはじめ、ナレッジワーク全般で強力な効果を発揮する。
非エンジニアにとって、開発ツール由来のCodexは導入障壁が高く感じるかもしれない。しかし瀬良氏は、「ChatGPTを『相談役』にしてきた非エンジニアにこそ、この変化をいち早く体験してほしい」と呼び掛ける。
AIはチャットで会話する相手から、タスクを任せる相手へ。開発現場が先行して踏み込んだその変化は、いずれナレッジワークに関わる全てのビジネスパーソンの机上にやって来る。Codexの普及スピードを見る限り、その変化は想像以上に近い。
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提供:OpenAI Japan合同会社
アイティメディア営業企画/制作:ITmedia AI+編集部/掲載内容有効期限:2026年6月14日








