「デジアナ空間分譲地ビジネス」は離陸するか?(5/5 ページ)
アノトペンのテクノロジーは、ユーラシア大陸並みのバーチャルなエリアを創造し、それをアナログとデジタルとをつなぐビジネスインフラとして提供しようという広大な構想なのだ――ということはあまり気付かれていない。この事業が持つ可能性は実に壮大だ。問題は離陸できるかにある。
残念ながら、現在までのところ、重さはそこそこでも、見方によれば携帯電話と同じくらいのファットなイメージがあり、誰もが生まれてから今まで見たこともないほど、太くて扱いにくいペンを握って、決してカラフルではなく、すすけた怪しげな専用用紙に手書きメールを喜んで書くとはあまり期待できない。
この手のビジネスでは、「鶏と卵」の論理が常に引き合いに出されることが極めて多いが、今回は、お互い、相手に期待するところが大き過ぎて、巨大な鶏と巨大な卵が、お互い相手をにらんで、まんじりともしない期間がややもすれば長くなりそうだ。
IT偏西風の便りによれば、何と次世代の先進的GPSの識別誤差は約10センチくらいらしい。実現するテクノロジーの違いはあっても、Anoto社の開発した位置特定技術は、既にそんなモノは遙かに超えて、ペン先の周囲1〜2ミリという約50倍〜100倍の精度を実現できていることになる。
セールスマンがGPS携帯電話を身につけて、先日交換した名刺上に書かれた顧客のGPSロケーションアドレスを頼りに、交通機関を乗り継ぎ、徒歩で目的のビルに入り、本人の席までたどり着ける時代がもうすぐやってくる。
それより遙かに高い精度を持ったAnoto社のデジタルペンソリューションに産業界が期待するところは大きい。人類のまだまだ短い過去の歴史においても、すべてのイベントデータは、時間軸と地理軸の両方に同時に位置していることだけは確かだ。ネットワークインフラを活用し、未来の時間軸と地理軸を同時に管理できるAnoto社のデジタルペン技術はGPSシステムに続く次世代の大きなビジネスチャンスにリーチをかけたといえる。
ただ一つ心配事があるとすれば、美しいコンセプトと、論理的アーキテクチャー、そして、それらをサポートする完璧なテクノロジー、破綻のないビジネススキームの存在は、必ずしもビジネスの成功とは直接関係のないことを過去の幾つかの事実が物語っている点だろう。単なる野次馬である筆者にとっても、とてつもなく面白いビジネスがスタートした。
竹村譲(Joe Takemura)氏は、現国立高岡短期大学産業造形学科教授。日本アイ・ビー・エム在籍中は、DOS/V生みの親として知られるほか、超大型汎用コンピュータからThinkPadに至る商品の戦略を担当。今は亡き「秋葉原・カレーの東洋」のホットスポット化など数々の企画で話題を呼んだ。自らモバイルワーキングを実践する“ロードウォーリア”であり、「ゼロ・ハリ」のペンネームで、数多くの著作がある。ライフワークは「ワークスタイル・イノベーション」。2004年3月、日本IBMを早期退職し現職。ブランド戦略やワークスタイル変革を研究中。
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