日本発のオルタナ・タブレット「enchantMOON」は“魔法の紙”になれるか(2/2 ページ)
一見すると普通のタブレットのように見えるが、その開発コンセプトはこれまでに登場したどのタブレットとも異なる「enchantMOON」。“紙の再発明”をうたうenchantMOONは、ユーザーにどんな新しい世界を見せてくれるのか。手帳評論家でデジアナリストの舘神龍彦氏が内覧会で実機を試した。
ペンのインタフェースで実現された“魔法の紙”
実際に使ってみると、確かにこれまでのタブレット端末とは全く異なる印象を受ける。使いたい機能の名称を書き込んでくるっと囲めば(囲む際のペンの軌跡には、ティンカーベルのバトンの先から出てくるようなキラキラしたエフェクトがあらわれる)、機能が立ち上がる作法は確かにenchant(魔法)的だ。
また、既存のスマートフォンやタブレットのようなホーム画面やアイコンがないのも不思議な感覚だ。アイコンは、ゼロックスのパロアルト研究所が生み出したGUIのスタンダードな作法であり、MacintoshやWindowsによって一般に使われるようになった。スマートフォンやタブレットにおけるアプリのアイコンもそこから派生しているが、enchantMOONはこうしたGUIの作法を持つデジタルデバイスの系譜に属していないのだ。
このUIは、まさに紙のノートを思い起こさせる。紙のノートにはそもそも決まったアプリケーションがインストールされているわけではなく、使う人の目的によって、メモ用紙にも日記帳にも手帳にもなる。従来型のメニューやアイコンを廃したのは、開発の起点に紙とペンがあるenchantMOONらしいところといえるだろう。
万人に受け入れられるかどうかは賛否両論があるだろうが、確かに“魔法の紙”的な使い方ができるポテンシャルと存在感は備えているように感じられた。
ただ内覧会で実際に触れた端末は、しばしば動作が鈍くなり、開発者によるとその時点での完成度は90%とのことだった。商用の製品として市場で展開するためには、よりいっそうのブラッシュアップが必要だろう。
また、デジタイザー(ペン)の使いこなしにも、少々慣れが必要な印象を受けた。例えば、ペンのサイド部には消しゴム用のボタンがあり、押しながら描画したものをペン先でなぞると消すことができるのだが、デモ機を試す人の中には、ボタンを押しながら描画しようとする人もいたからだ。もっとも、enchantMOONのイメージビデオを手がけ、コンセプト作りの段階から関わっている樋口真嗣監督は、会場ですらすらとイラストを書いて見せており、慣れれば問題なく使いこなせそうだ。
プログラム機能を使った“デジタルノート術”の可能性に期待
enchantMOONが“紙を超えた紙”になれるかどうかは、MOONBlockと呼ばれるプログラミング機能にかかっているように感じた。MOONBlockはenchantMOONの機能の一つで、プログラムの学習ツールとして利用できるほか、enchantMOON自体の機能を拡張をするために使えるものだ。
紙のノートに“ノート術”という文化があるように、enchantMOONの文化もMOONBlockによって広がっていくのではないかと思うのだ。紙のノートは、ページ面の左寄りに縦のラインを引いて見出しと内容を分けたり、中心のイメージから放射状にアイデアを書き込んでマインドマップのように使ったりすることで、より便利に使うことができる。こうした“ノート術”は、どれも簡単に実現できるものだ。
enchantMOONには、手描きのイラストやWeb画面上の任意の箇所をクリップし、リンク付きでシールのように貼れる機能や、保存した手書きのメモ同士を相互リンクする機能が用意されるなど、アナログとデジタルの良さを生かした機能がある。これにMOONBlockが加わることで、enchantMOONならではの機能を生かしながら、さらなる活用の幅を広げる“enchantMOON環境のノート術”が生まれてくると面白いだろう。
著者紹介:舘神龍彦(たてがみ・たつひこ)
手帳評論家・デジアナリスト。最新刊『使える!手帳術』(日本経済新聞出版社)が好評発売中。『手帳カスタマイズ術』(ダイヤモンド社)は台湾での翻訳出版が決定している。その他の主な著書に『手帳進化論』(PHP研究所)『くらべて選ぶ手帳の図鑑』(えい出版社)『システム手帳新入門!』(岩波書店)『システム手帳の極意』(技術評論社)『パソコンでムダに忙しくならない50の方法』(岩波書店)などがある。誠Biz.IDの連載記事「手帳201x」「文具書評」の一部を再編集した電子書籍「文具を読む・文具本を読む 老舗ブランド編」を発売
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