このひと言で仕事が円滑に――気持ちよく働くための“ありがとう”:田中淳子の人間関係に効く“サプリ”
仕事が忙しくなると、つい、依頼と完了報告の繰り返しになってしまいがちだが、これでは現場が殺伐としてしまう。次の仕事を頼む前に、ちょっと付け加えるだけで部下が意欲的に取り組んでくれるひと言がある。
田中淳子の人間関係に効く“サプリ”:
職場のコミュニケーションに悩んでいる人も多いのではないでしょうか。「上司にこんなことを言ったら怒られるかもしれない」「部下には気をつかってしまうし」――。
本コラムでは、職場で役立つコミュニケーション術をご紹介します。具体例を挙げながら「なるほど! こういうやり方があるのか」「これなら自分でもできるかもしれない」と感じてもらえるよう、筆者が見聞きした出来事をちりばめています。
明日から……ではなく、いますぐに試すことができる「コミュニケーションのヒント」をご紹介しましょう。
あけましておめでとうございます。本年もよろしくお願いいたします。
初詣は済ませただろうか。私は、実家近くの氏神さまと自宅近所の神社の両方にお参りした。
数年前、神社の「お参り作法」を新聞記事で読んで以来、心がけていることがある。「お願いごとばかり言わない」ということだ。
つい、「今年は、○○試験に合格しますように」とか「幸せになれますように」とか、自分の願いごとをつらつら念じてしまうけれど、「その前に、お礼や報告をしなさい」と、その記事には書いてあった。
「この1年、つつがなく過ごせました。ありがとうございました」
「おかげさまで、健康で生活できていることを報告します。ありがとうございます」
そうやって、神様に感謝の言葉をきちんと伝えることが先決であり、もし、願い事があるなら、その上で手短に――。と、そんな記事だった。
これを読んで思い出したのが、サンタクロースへのお願いだ。子供のころ我が家では、サンタクロース宛てに「欲しいもの」を手紙にしたためる約束になっていた。このとき両親からは、「欲しいものを書くだけではダメ。この1年間の振り返りと新年の抱負も書いておくように」と厳命されていたのだ。サンタさんは、「欲しいものだけをねだるような都合のよいことは好まないから」という理由だったように記憶している。
こんな習慣から、「そうか、人に頼みごとをする際は、まず、日頃のあれこれに感謝することが先なのだな」ということが理解できたのだ。
次の仕事を頼む前に、まずは感謝を
神社へのお参りやサンタクロースへのお願いに限らず、つい、報告や感謝を伝え忘れて、次のことに目が行ってしまうということはよくある。仕事でもそうだ。
例えば、上司が部下に仕事を依頼したとき。
「これ、会議用の資料、10部コピーしてくれる?」
「10部、コピーしてきました!」
「じゃ、会議室の机に等間隔で置いておいて。ちゃんと耳をそろえてね」
……
「置いてきました!」
こんな風に、仕事の依頼→完了報告→次の仕事の依頼……が連なってしまう。
このとき、「10部、コピーしてきました!」と報告があった時点で、「ありがとう!」とひと言、言ってから、「じゃ、会議室に置いておいて」と次の依頼を伝えたらどうなるだろう。
部下はほんの少しであっても嬉しいはずだ。
あれこれ頼む、頼むことばかり。そうではなくて、ひとつひとつの区切りが来たら、あるいは、仕事が完了したら、それが「役割として当然のこと」だとしても、感謝や労いの言葉を伝えることは大事だ。
部下や後輩のやる気を高めるのが上手な人は、こういうねぎらいの言葉のかけ方が上手い。
セリフにもバリエーションがある。もちろん、表現上の工夫だけではなく、心から「ありがとう」と思っていることも大事だ。気持ちというのは言動から透けて見えるからだ。
人は、誰かの役に立ちたいと思っているし、誰かからか「助かったよ」「ありがとう」「あなたのおかげで……」と言われたいものだと思う。
もし、何か頑張って行ったとしても、誰からも感謝されない場面を想像してみたら分かるだろう。感謝の気持ちや言葉は、生きる支えになっていると言っても過言ではない。
感謝されないと嘆く前に、自ら感謝を示してみる
だから、私達は、もっともっと「ありがとう」を声に出して伝えるべきなのだ。Face to Faceが気恥ずかしいのなら、メールで伝えてもいい。「いつもありがとう。助かっている」「とても感謝しています」そういう言葉が心にぽっと灯りを灯すものだと思う。
「ありがとう」がたくさん交わされていたら、その職場はとてもよい空気が流れていることだろう。
そういえば、以前、大学の心理学の授業でこんな話を聴いたことがある。
人と人との関係はGive and Takeでできている。だから、誰かに支えてもらいたいと思ったら、まずは自分が誰かを支えるように動くことだ。物理的とか金銭的な支えを指しているわけではなく、精神的な支えでも十分だ。だからもし、「ありがとう」と言ってほしければ、自分が先に「ありがとう」という。誰かの役に立っていることを実感したければ、自分を助けてくれた誰かにそれを惜しまず伝える。自分のTakeは、自分からのGiveで成り立つのだよ――。そんな趣旨のことをおっしゃっていた。
「感謝されない」と嘆きたくなることがあれば、まずは自分から、誰にでも感謝の気持ちを伝えていくことから始めればよいのかもしれない。
一緒に仕事をする仲間だけではない。家族、友達、身近な誰かに「ありがとう」を伝える。ときどき「感謝なんて言わなくても分かるはず」とうそぶく人がいるけれど、思っているなら言葉にしてきちんと相手に届けるべきだ。
お互いにねぎらい、感謝し、「ありがとう」を伝え合うことで、人間関係はもっともっと心温まるものになるに違いない。温かい人間関係があるからこそ、よい成果も生まれるのである。
著者プロフィール:田中淳子
グローバルナレッジネットワーク株式会社 人材教育コンサルタント/産業カウンセラー。
1986年上智大学文学部教育学科卒。日本ディジタル イクイップメントを経て、96年より現職。IT業界をはじめさまざまな業界の新入社員から管理職層まで延べ3万人以上の人材育成に携わり27年。2003年からは特に企業のOJT制度支援に注力している。日経BP社「日経ITプロフェッショナル」「日経SYSTEMS」「日経コンピュータ」「ITpro」などで、若手育成やコミュニケーションに関するコラムを約10年間連載。
- 著書:最新の著書は「ITマネジャーのための現場で実践! 若手を育てる47のテクニック」(日経BP社)。「速効!SEのためのコミュニケーション実践塾」(日経BP社)、「はじめての後輩指導」(日本経団連出版)、「コミュニケーションのびっくり箱」(日経BPストア)など。
- @IT自分戦略研究所の連載「田中淳子の“言葉のチカラ”」はここから。
- シゴトに効く姉妹連載「岩淺こまきのオン/オフで使えるプレゼン術」はここから。
- ブログ:「田中淳子の“大人の学び”支援隊!」
- Facebook/Twitterともに、TanakaLaJunko
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