相手が「動いてくれない」と思ったら、自分の“ここ”を変えてみる:田中淳子の人間関係に効く“サプリ”
人が思ったように動いてくれないとき、私たちはそれが相手の考えや能力のせいだと思ってしまいがち。でも、ここで反省すべきなのは……。
田中淳子の人間関係に効く“サプリ”:
職場のコミュニケーションに悩んでいる人も多いのではないでしょうか。「上司にこんなことを言ったら怒られるかもしれない」「部下には気をつかってしまうし」――。
本コラムでは、職場で役立つコミュニケーション術をご紹介します。具体例を挙げながら「なるほど! こういうやり方があるのか」「これなら自分でもできるかもしれない」と感じてもらえるよう、筆者が見聞きした出来事をちりばめています。
明日から……ではなく、いますぐに試すことができる「コミュニケーションのヒント」をご紹介しましょう。
もう20年くらい前だろうか。あるプロジェクトに参加していた私は、マネージャーとソリが合わなくてもんもんとしていた。
プロジェクトの現状に強い危機感を覚えていた私は、まとめ役の彼に訴えたが、「それは大変だ」というだけで一向に動いてくれない。日々、そのことが頭の大半を占めているのに、どうしたらいいか分からないという苦痛の日々が続き、四六時中ため息をついていた。
そんなとき、プライベートで仲の良い友人に、「なぜだかよく分からないけれど、全然動いてくれない人がいて……」と愚痴をこぼした。そして、「もう! あの人、何にも考えていないんだから!」と憤慨しながら訴えると、この友人はのんびりとこう言った。
「淳子さん、何にも考えていない人なんていないよ。その人は、あなたが考えてほしいことを考えていないだけでしょう?」
はっとした。
そうか、そうだ。人はつい、「あいつは何にも考えていないんだから!」と決めつけがちだが、何も考えない人なんていない。それは、私が期待したように相手が考えていないか、そう考えているようには見えないだけだ。そんなふうに思うと、気分がすっと楽になった。
人が思ったように動いてくれないとき、私たちはそれが相手の考えや能力のせいだと思いがちだ。しかし、ここで反省すべきは、相手が動きたくなるよう働きかけられない自分の能力や考え方、相手へのアプローチ手法なのだ。
よく言うではないか。
他人は変えられないが、自分は変えられる。
事実は変えられないが、その物事の捉え方は変えられる。
動かしたい相手がいるのであれば、相手がどう動いてくれるかを考え、自分のアプローチを変えるしかないのだ。
相手を理解し、同じものの見方をしてみると
先輩からこんなふうに言われたことがある。
「誰かとうまくいかない時、議論や考えを“戦わせる”と思うから余計にうまくいかないのではないのかな。だって、それは、淳子さん側の“ものの見方”でしか状況を捉えていないから。相手を理解し、自分も同じ“ものの見方”をしてみると、なぜ、相手が思った通りに動いてくれないのかが少しずつ分かってくると思うよ」
考えてみれば、私だって誰かから、「まったく、何にも考えていないんだからっ!」と憤慨されているかもしれない。私の考えや行動が、相手にとって気に入らないものになっていることもあるだろう。自分はちゃんとやっているつもりでいても(誰だって、自分はちゃんとやっていると思っているものだ)、それが他者の物差しに合っていないケースは多々ある。
「あの人、なにも考えていない」と思った時には、「あの人、私が考えてほしいようには考えていないのだな」と解釈し、その上で、「相手の“ものの見方、捉え方”がどうなっているか」と、相手側の視点でものごとを捉えるようにするといいだろう。
そのために必要なのは、とにかく話を聴くことだ。
こんな例があった。
ある組織の人と話した時のこと。
上司は部下の仕事ぶりに苦言を呈していた。「やる気がない、主体性がない、自分で考えて動かない」など、ネガティブな評価ばかりが出てくる。部下を見ると、上司が言うほど低いレベルではなかったが、少し「受け身」な印象を受けた。なぜ受け身になるのかが気になって何人かと話したところ、状況が見えてきた。
この上司が、いわゆる“できる”人で、仕事についても、先行きをずっと見通せるタイプだったのだ。だから、部下に仕事を振るときにも、先々のリスクを想像できてしまうがゆえに、「こうなったら、ああする、ああなったら、こうする」と事細かに指示を与えていた。こうなると部下は、自分で考えたり工夫したりするのをやめてしまう。余計なことを考えて提案するより、上司のアイデアを聴き、それを粛々と丁寧に実現するほうが何かとうまくいくからだ。
私が気づいたことを上司たちに伝えてみた。「どうも、上司が先読みして細かく伝えていることが、部下の主体性を阻害する要因になっているような気がしました」。すると、「え? 俺たちが悪いのか。そうかぁ、その発想はなかったけれど、言われてみればそうかもしれない」と素直に反省していた。
ものごとには、それぞれの立場からの見え方がある。まずは相手をよく理解することから始めたいものだ。
著者プロフィール:田中淳子
グローバルナレッジネットワーク株式会社 人材教育コンサルタント/産業カウンセラー。
1986年上智大学文学部教育学科卒。日本ディジタル イクイップメントを経て、96年より現職。IT業界をはじめさまざまな業界の新入社員から管理職層まで延べ3万人以上の人材育成に携わり27年。2003年からは特に企業のOJT制度支援に注力している。日経BP社「日経ITプロフェッショナル」「日経SYSTEMS」「日経コンピュータ」「ITpro」などで、若手育成やコミュニケーションに関するコラムを約10年間連載。
- 著書:最新の著書は「ITマネジャーのための現場で実践! 若手を育てる47のテクニック」(日経BP社)。「速効!SEのためのコミュニケーション実践塾」(日経BP社)、「はじめての後輩指導」(日本経団連出版)、「コミュニケーションのびっくり箱」(日経BPストア)など。
- @IT自分戦略研究所の連載「田中淳子の“言葉のチカラ”」はここから。
- シゴトに効く姉妹連載「岩淺こまきのオン/オフで使えるプレゼン術」はここから。
- ブログ:「田中淳子の“大人の学び”支援隊!」
- Facebook/Twitterともに、TanakaLaJunko
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