解決に向けてとことん悩む:あせらない練習
誰でも将来は不安です。見えない将来におびえる人は、簡単に頭から不安要素を追い出すことはできないでしょう。そんなときは、不安要素を1つずつ排除していくことをおススメします。
集中連載「あせらない練習」について
本連載は、斎藤茂太著、書籍『あせらない練習』(アスコム)から一部抜粋、編集しています。
休みなしに働いているわりには成果が上がらなかったり、あれもこれもと欲張ってやるわりには何もモノにできなかったり――。周囲に振り回されて自分自身を見失っている人、あなたの周りにもいませんか? そういう人の心の中には、いろいろな情報や思いがグチャグチャとあるだけなのかもしれません。
・頭のなかのあせりは、脳を休ませるとだんだん消えていく
・「その場しのぎ」をやめれば、あせる気持ちから解放される
不安やイライラは、ちょっとした心の練習でなくなります。あせらないで頭と心さえスッキリさせれば、筋道の通った思考と気持ちの整理もきちんとでき、目的別にゆったりと行動することができるようになります。
本書では、どうしてもあせってしまいがちな人の頭と心をスッキリさせる練習方法を、心の名医であるモタ先生の幸せメソッドにならって紹介します。
悩むなら、あせらず解決に向けてトコトン具体的に悩んでみる
「将来の自分を考えると、怖くてしょうがない。むやみに胸がドキドキして、何をしていてもあせってしまって落ち着かない」
そう言って、不動産会社に勤める男性はため息をつきました。彼はどうやら、将来の不安要素を数えては、身動きがとれないほどの恐怖心を感じてしまうようです。「未来の金縛り」にあっている、そんな様子でした。
誰だって将来は不安です。とくに近年は、不況のあおりを受けて、規模の大小にかかわらず企業倒産や企業スキャンダルが相次いでいるし、国の財政は傾きっ放しで年金や保健医療に関する不安は広がる一方だし、不穏な事件が続いて世の中は揺らいでいるし、不安が増して当然という見方もできるでしょう。彼も、
「会社がある日突然、倒産したらどうしよう」
「いつリストラにあうか分からない」
「退職金はもらえないかも。年金も支給されなくなるかも。住宅ローンさえ払えなくなったらどうしよう」
「『ダメな父親だ』と、妻子から見放されたらどうしよう」
「ストレスに押しつぶされて、病気になったらどうしよう」
「親が健康を損ねたら、たちまち介護の問題に直面する。どうしよう」
など、暗い将来ばかりを思い描いているようです。
気持ちは分かりますが、一寸先は闇のなか、自分がどうなるのかが見えるわけはありません。不安が現実になるかもしれないし、すべて取り越し苦労で実際は平穏無事な日々が続くかもしれない。だから、心配したってしょうがないのです。振り返って、若いころの自分を思い出してみてください。今という時代が、今の自分が、こうなっていると想像していたでしょうか?
時代はすさまじい勢いで移り変わり、自分自身もそのなかで変わってきたと思いませんか? 私自身、青年のころは「テレビを観る日常」すら想像できませんでした。それに戦火のなかにあったときは、将来の不安どころか、今現在の恐怖と闘うのが精一杯でした。将来をどんなに心配しても、未来の時間をコントロールするのは不可能と言っても過言ではないでしょう。
もっとも、見えない将来におびえる人は、そう簡単に頭から不安要素を追い出すことはできないかもしれません。そんな場合は、不安要素の1つ1つをつぶしていく思考をすることをおススメします。
解決に向けて「具体的に悩む」
昔から「備えあれば憂いなし」と言うように、心配なことに対する備えさえしていれば、「どうしよう」という言葉だけが頭のなかでいたずらにグルグル回ることもなくなるでしょう。
何につけ、「悩むために悩む」ほどムダなことはありません。同じ悩むなら、解決に向けて「具体的に悩む」ことが大切なのです。
不動産会社の彼にしても、目的を持って悩むだけで「会社がいつ倒産しても、自分がいつリストラに遭っても困らないように、名刺がなくても仕事ができるだけの技量を磨く」とか、「退職金や年金がもらえないことを想定して、預貯金もしくは投資に励む」「家族との時間を大切にする」「健康にいい生活習慣を身につける」「介護に関する情報を仕入れておく」など、すぐに解決策は出てきます。
これで心のなかのあせりは消えていき、将来の不安に備えて行動する元気がわいてくるはずです。
過去を二度とやり直せないのと同様、未来の時間を知ることもまた不可能です。いくら考えても答えが出ない問題に取り組むのは、もうやめにしましょう。
ある程度の予測をして準備しておくことは大切ですが、思い通りにならないのが未来という時間です。明日は明日の風が吹くのですから、あせらず吹いてからその風とどう向き合うかを決めても、遅くはありません。
(次回は、「あせらずに行動する」について)
著者プロフィール:
斎藤茂太(さいとう・しげた)
1916(大正5)年に歌人・斎藤茂吉の長男として東京に生まれる。医学博士であり、斎藤病院名誉院長、日本ペンクラブ理事、日本旅行作家協会会長などの役職を歴任。多くの著書を執筆し、「モタさん」の愛称で親しまれる。「心の名医」として悩める人々に勇気を与え続け、そのユーモアあふれる温かいアドバイスには定評があった。2006(平成18)年に90歳で亡くなったが、没後も著作は多くの人々に読み継がれている。
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