疲れた脳に仕事をさせようとしてもムダ:あせらない練習
人は、眠らなくては生きていけない動物です。大量のエネルギーを消費する脳の元気を保つために睡眠は必要です。働かせても成果が出ない脳には、あせらずにお休みをあげましょう。
集中連載「あせらない練習」について
本連載は、斎藤茂太著、書籍『あせらない練習』(アスコム)から一部抜粋、編集しています。
休みなしに働いているわりには成果が上がらなかったり、あれもこれもと欲張ってやるわりには何もモノにできなかったり――。周囲に振り回されて自分自身を見失っている人、あなたの周りにもいませんか? そういう人の心の中には、いろいろな情報や思いがグチャグチャとあるだけなのかもしれません。
・頭のなかのあせりは、脳を休ませるとだんだん消えていく
・「その場しのぎ」をやめれば、あせる気持ちから解放される
不安やイライラは、ちょっとした心の練習でなくなります。あせらないで頭と心さえスッキリさせれば、筋道の通った思考と気持ちの整理もきちんとでき、目的別にゆったりと行動することができるようになります。
本書では、どうしてもあせってしまいがちな人の頭と心をスッキリさせる練習方法を、心の名医であるモタ先生の幸せメソッドにならって紹介します。
人間には、睡眠が必要
人は、眠らなくては生きていけない動物です。なぜ、睡眠が必要だと思いますか? それは、大量のエネルギーを消費する脳の元気を保つためです。
眠らずに脳を連続で酷使しているとオーバーヒートし、脳細胞が壊れやすい状態に陥ります。そうして脳細胞が壊滅的ダメージを受けると、生命維持も危うくなります。それを防ぐために、積極的に脳の働きを抑え込んで疲れを回復させ、再び積極的にもどしてやる機能が必要になります。それが睡眠です。
つまり睡眠には、人が活動するために必要なエネルギーを確保すると同時に、そのエネルギーを使って活動させるべく脳を起こす、という2つの作用があるわけです。体の疲れだけなら少し横になっているだけで回復しますが、脳の疲ればかりは眠らないととれない。だから人には、睡眠が必要なのです。
もっとも、生物界において眠りは命がけの行為です。意識レベルが下がり、外界の危険に対して非常に無防備になるからです。それでも眠らなければならないので、睡眠には無上の「快楽」が付与されている、とする説もあります。睡眠だけではなく、食欲にしろ性欲にしろ、人が生きていくために必要な行為にはちゃんと、この「快楽」という報酬が与えられているそうです。
私が何を言いたいかというと、疲れた脳に仕事をさせようとしてもムダだ、ということです。考えに考えて、それでも結論が得られない、あるいはいいアイデアが浮かばないようなときは、脳はすでに「働けない」状態になっていると見ていいでしょう。
それ以上働かせても、まさに「下手の考え休むに似たり」というような状況に陥ります。どのみち「休んでいるのも同然」の働きしかできない脳なら、ちゃんと休んだほうがトクだと思いませんか? 働かせても成果が出ない脳には、お休みをあげるに限るのです。
私自身、若いころは原稿用紙の前で、何時間もうなっていたことがよくありました。「締め切りを守るためにはさぼってはいけない」という気持ちが強かったせいか、頭が疲れているのにムリにでも働かせ、1枚でも多くの原稿を書こうと努力をしていました。でも、いまは「煮詰まったら休む」ことにしています。
それが夜ならば、その日はあきらめて眠ってしまいますし、昼間で別に眠たくなければ、お茶を飲んだりテレビを見たり、音楽を聴いたり。とにかく、いままで使っていた脳の部分にお休みをあげて、ほかの部分を働かせるのです。こうして休んでみると、「どうして煮詰まっていたのだろう?」と不思議に思うほど、ぐんぐん筆が進んでいくことが多々あります。
こんなことを経験的に学んだ結果、私は「頭を休ませる」コツのようなものを会得したように思います。
脳は適当に休ませたほうがよく働く
世の中には、仕事切れの悪い人が多過ぎるように思います。デスクにしがみついていなければ、自分が怠けているような強迫観念に襲われるのかもしれません。
また、「休む暇もない」忙しさから、あせってしまって文字通り休むことを忘れてしまう人もいるでしょう。
けれども、それでは逆効果です。脳は適当に休ませてやったほうが、よく仕事をします。ひっきりなしに頭を使うより、脳が一番よく働くペースをつかんで、酷使しては休み、酷使しては休み――を繰り返していくことが、頭を常にクリアに保つ唯一の方法とも言えるでしょう。
ちょっとくらい休んだところで、日によっては早寝をしたところで、仕事の出来上がりが大きく遅れることはないはず。勇気を出して休んだほうがむしろ、予定より早く仕上がることも少なくないでしょう。
ただし、脳がノリノリで働いているときは、無理をして休ませなくても大丈夫。そういうときは脳も「喜んでがんばっている」ので、「疲れた」なんて弱音は吐きません。大いに、休みなしで働かせてあげてください。
(次回は、「体を動かすことが、脳にとって一番の疲労回復法」について)
著者プロフィール:
斎藤茂太(さいとう・しげた)
1916(大正5)年に歌人・斎藤茂吉の長男として東京に生まれる。医学博士であり、斎藤病院名誉院長、日本ペンクラブ理事、日本旅行作家協会会長などの役職を歴任。多くの著書を執筆し、「モタさん」の愛称で親しまれる。「心の名医」として悩める人々に勇気を与え続け、そのユーモアあふれる温かいアドバイスには定評があった。2006(平成18)年に90歳で亡くなったが、没後も著作は多くの人々に読み継がれている。
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