嫌われている人と上手に付き合う:あせらない練習
誰にでも、苦手な人はいます。好むと好まざるにかかわらず、部下は上司を、上司は部下を選べないし、取引先の人ともいい人間関係を築かなければなりません。逆風はやがて順風に。あせらずに逆境を受け入れてみよう。
集中連載「あせらない練習」について
本連載は、斎藤茂太著、書籍『あせらない練習』(アスコム)から一部抜粋、編集しています。
休みなしに働いているわりには成果が上がらなかったり、あれもこれもと欲張ってやるわりには何もモノにできなかったり――。周囲に振り回されて自分自身を見失っている人、あなたの周りにもいませんか? そういう人の心の中には、いろいろな情報や思いがグチャグチャとあるだけなのかもしれません。
・頭のなかのあせりは、脳を休ませるとだんだん消えていく
・「その場しのぎ」をやめれば、あせる気持ちから解放される
不安やイライラは、ちょっとした心の練習でなくなります。あせらないで頭と心さえスッキリさせれば、筋道の通った思考と気持ちの整理もきちんとでき、目的別にゆったりと行動することができるようになります。
本書では、どうしてもあせってしまいがちな人の頭と心をスッキリさせる練習方法を、心の名医であるモタ先生の幸せメソッドにならって紹介します。
嫌われている人と上手につき合うと、あせらない自分に出会える
誰にでも、苦手な人はいます。学生時代までは、そういう人と無理してつき合う必要はなく、気の合う仲間とだけつき合っていられるので、人間関係はとてもラクです。
ところが、社会人になるとそうはいきません。部下は上司を選べないし、上司も部下を選べません。プロジェクトチームの一員になれば、苦手な人の1人や2人は必ずいます。取引先の人やお客さまなどとも、好むと好まざるにかかわらず、いい人間関係を築いていかなければなりません。
この「苦手な人とも上手につき合わなければならない」ことが大きなあせりとストレスとなって、悩んでいる人は大勢います。
では、なぜ人間関係が大きなストレスになるのでしょう? 答えは簡単です。苦手な相手が大きな波となって押し寄せてくるにもかかわらず、「できればつき合いたくない」とあせってしまうからです。つき合わずにすませることができない以上、どんなに抵抗してもムダなのに……。
ここは1つ、発想の転換が必要です。どれほど苦手な人であっても、背を向けて逃げたり、嫌悪感もあらわにぶつかっていったりせずに、
「どれ、懐にもぐりこんでやろう」
と思えばいいのです。
誰かを苦手とする場合、そこには必ず理由があります。おそらく、
- どんな人だか分からない
- 風貌からくるイメージが悪い
- 過去に何度か、イヤな思いを味わわされたことがある
- 評判が悪い
- 自分とは全く異なる価値観の持ち主である
といったところでしょう。人はどうしても、自分に共感してくれる人に好感を持つので、相手と深くつき合っていようが、一度も会ったことがなかろうが、その共感を得られそうもない人を直感的に排除しようとするのではないでしょうか。
となれば、「共感を得たい」なんて気持ちそのものを失くしてしまうのみ。そのかわり、相手に対して興味を持ってみるのです。その際、
「世の中には、人の数だけ価値観がある。考え方も感じ方も違う。しかも、持っている知識や経験は人それぞれ。好きも嫌いもなく、たくさんの人とつき合えば、人間関係が広がるだけではなく、自分の世界も広がる」
と、あせらずに強く思うことです。
それによって、相手に対する苦手意識よりも好奇心が強まり、すんなり懐に飛び込んでいけるようになります。相手の波に乗ってしまえるのです。
もう1つ、苦手な人と会う場合は笑顔で挨拶することをお忘れなく! 自分に暗示をかけるように、「私はあの人が好き! 絶対に、好きになれる!」と思えば、会うのをイヤがっていたマイナス要素が消え、自然と笑顔がわきあがってきます。
笑顔を向けられてイヤな気持ちになる人はいません。たいていの場合、相手の警戒心もゆるみ、スムーズに話に入れるはずです。
好き嫌いなく誰とでもつき合える人は、間違いなくトクをします。いろいろな人を通して見聞が広がることはもちろん、さまざまな価値観や考え方に触れながら自己主張するなかで自分の人間性をも磨くことができます。加えて、いわゆる嫌われている人とも上手につき合えるとなると、自分自身の株を上げることも可能です。
苦手な人とも仲良くなることは、人間関係におけるあせりをもなくしてくれるでしょう。
(次回は、「苦しみを味わいつくす」について)
著者プロフィール:
斎藤茂太(さいとう・しげた)
1916(大正5)年に歌人・斎藤茂吉の長男として東京に生まれる。医学博士であり、斎藤病院名誉院長、日本ペンクラブ理事、日本旅行作家協会会長などの役職を歴任。多くの著書を執筆し、「モタさん」の愛称で親しまれる。「心の名医」として悩める人々に勇気を与え続け、そのユーモアあふれる温かいアドバイスには定評があった。2006(平成18)年に90歳で亡くなったが、没後も著作は多くの人々に読み継がれている。
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