トヨタ「ReBORN」が信長と秀吉になった理由:困っている人のための企画術(2/2 ページ)
企画がうまくいくためは、あまり「自分だけでやる」ということに固執しすぎず、周りの意見をどんどん取り入れたほうがいい。もちろん、よくない意見は取り入れないよう見極めるのも企画のうちです。
最終的にうまくいったかどうかは、もちろん人によって意見が分かれるでしょう。信長と秀吉にしたので、もともと東北とはあまり関係がない彼らが、なぜ東北をドライブするのかという理由を描く必要がでてきましたし、かつての戦国時代に新しい日本をつくりあげた彼ららしい視点を提示しなければならなくなったので、企画に深みがでてきました。
また、登場人物が東北と関係なくてもいいということになりましたので、信長と秀吉以外にも、お市の方や千利休、狩野永徳など、戦国時代のさまざまなスターの生まれ変わりを登場させることもできるようになりました。
それに何より、トヨタの人たちが、信長と秀吉であることをとても喜んでくれました。というのも、信長と秀吉は、いまでいう愛知県の出身。同じく愛知に基盤があるトヨタにとっては、とても感情移入しやすいキャラクターだったというわけです。
強引に、信長と秀吉にした結果、「意味がよく分からない」という批判も、確かに世の中にはありました。しかし、その強引さのおかげで、得たものもかなりあります。
1人の人がきちんと整合性をもって考えたものよりも、他の人に違う意見を言われて無理矢理それを取り込み、成立させようとして、かえって企画にふくらみや広がりがでてくる、ということはあると思います。
あのろくでもない、すばらしきコピーの誕生秘話
もう1つの例は、サントリーBOSSのCM「宇宙人ジョーンズ」シリーズのキャッチフレーズです。
このとき私が最初に書いたのは、「このすばらしき、ろくでもない惑星。」というコピーでした。宇宙人ジョーンズが地球調査を続けていく中で、彼はこの惑星の「すばらしさ」と「ろくでもなさ」を、おそらく両方発見していくだろう。そしてそれは、この惑星で生きるわれわれすべての、この惑星に対する感想でもある。それをそのままコピーにしてみたらどうか、という発想です。
しかし、このコピーを見たグラフィック広告を担当しているコピーライターの照井晶博さんが、「すばらしき」と「ろくでもない」の順番を入れ替え、「惑星」を「世界」に変えて、「このろくでもない、すばらしき世界。」というコピーにした。
受け手にとって後ろに肯定的な言葉がきたほうが読んだあとの印象がいいだろうということで、「すばらしき」を後ろに回し、また、CMと離れたところでも機能するコピーにするためには、「惑星」だと限定的すぎるということで、「世界」にしたそうです。そうしていまの形になった。
これも変更したことで、よくなったのかそうでもないのか、人によって意見が分かれるかもしれませんが、TCC(東京コピーライターズクラブ)というコピーの賞で、このコピーをふくむシリーズCMがグランプリを受賞し、それなりに評価されているコピーにはなっているのだと思います。シリーズがはじまり8年以上たっても使われ続けているコピーになっていることは、確かなのです。
著者プロフィール:
福里真一(ふくさと・しんいち)
ワンスカイ CMプランナー・コピーライター。1968年鎌倉生まれ。一橋大学社会学部卒業。92年電通入社。01年よりワンスカイ所属。
これまで1000本以上のテレビCMを企画・制作している。主な仕事に、吉本興業のタレント総出演で話題になったジョージア「明日があるさ」、樹木希林らの富士フイルム「フジカラーのお店」、トミー・リー・ジョーンズ主演によるサントリーBOSS「宇宙人ジョーンズ」、トヨタ自動車「こども店長」「ReBORN 信長と秀吉」「TOYOTOWN」、ENEOS「エネゴリくん」、ダイハツ「日本のどこかで」、東洋水産「マルちゃん正麺」などがある。
ACC(全日本CM放送連盟)グランプリ、TCC(東京コピーライターズクラブ)グランプリ、クリエイター・オブ・ザ・イヤー、など受賞。その暗い性格からは想像がつかない、親しみのわくCMを数多くつくりだしている。
著書に『電信柱の陰から見てるタイプの企画術』(宣伝会議)がある。
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