話す相手に“軽く”見られないためのコツ:表現のプロが教えるスピーチの兵法(2/2 ページ)
この人は信頼できる――。話す相手にはそんな印象を持ってもらいたいもの。そのためには会話中の過度な瞬きや頷きはNGです。今回はこんなクセを直すためのトレーニング法を紹介します。
頷きの多さは軽い印象を与える
瞬きのコントロールをマスターした方は、悪いくせのもう1つの代表例「頷き」の改善をマスターしましょう。
会話をするなかで、相手の話を聞きながら「うん、うん」と何度も頷いていませんか? 自分が話しながら頷いていませんか? これらは軽い印象を聞き手に与えます。
私もかつてこの頷きをしていた1人。視聴者の方からご指摘をいただき、自分の話しぐせに気がついたのです。
夕方のニュース番組を担当していたときのことです。男性アナウンサーと2人でキャスター役を務めていました。番組のなかでは、男性アナウンサーと私が画面に映っているものの、男性アナウンサーのみに原稿があり、私には台詞がない場面がありました。このとき、「ただ座っているのでは芸がない」と思った私は、男性アナウンサーが伝えるニュースに対して、相手の話を聞くときのように「うん、うん」と頷いてみたのです。
その姿を見た視聴者の方から、こんな苦情のお電話をいただきました。「矢野さんが何度もうん、うんと頷くのが目障りです。赤べこじゃないんだから……」。
「赤べこ」は福島県会津地方の郷土玩具。真っ赤な牛の人形で、ポンと頭を触わると、顔が上下に振り子運動を繰り返します。録画したVTRを確認すると、テレビ画面のなかで男性アナウンサーの話に何度も一生懸命に頷く私の姿はまさに赤べこでした。
頷きの動作そのものがいけないのではなくて、「何度も」というのがいけません。何度も頷くからこそ、本来伝えたい話の内容にたいして顔を上下に振る動きがノイズとなり、目障りに感じられるのです。つまり、頷くときは「回数」が重要なのです。私が見てきたなかで一番多いのは、納得したときほど2回3回と複数回頷いてしまう方です。
頷くときは、何度も頷くのではなく、大きく1回だけ「うん」と顔を上下に振りましょう。その力強いぶれない1回の動きが相手に信頼感を与えます。
ニュースを伝えるアナウンサーである私が赤べこのような動きをしていたのでは、ニュースの中身に対する真実味が損なわれてしまいます。よかれと思って行なっていたコミュニケーションスキルの頷きが、ちょっとしたコツを知らなかったためにかえって信頼性を欠いてしまっていたのです。
自分が話している様子をチェックする場をもとう
相手の話を聞くとき、自分が話すときに、よかれと思ってしていることが、かえって価値を下げることがあります。そうならないためには、自分の話し方を客観的に見る視点が必須です。そのためにわれわれスピーチコンサルタントという職業が存在していますが、手軽なところで、ご自分がスピーチをしている場面を撮影してみてもよいでしょう。
「そんなの見たくない」と言っている場合ではありません。恥ずかしい話しぐせがあるのを知らないのは自分だけで、周囲は毎日見せられているのかもしれません。
自分を客観的にとらえる機会をつくり、自分のくせを自覚してみてはいかがでしょうか。
今月のポイント
頷くときは2回3回と何度も頷かず、大きく1回だけ。顔を上下に振ることを意識して、相手に信頼感を与える。
著者プロフィール:矢野香
キャスター歴17年。主にニュース報道番組を担当。大学院では心理学の見地から「話をする人の印象形成」を研究。現在は、政治家・経営者・管理職を中心に「信頼を勝ち取るスキル」を指導。著書に『その話し方では軽すぎます! 〜エグゼクティブが鍛えている「人前で話す技法」』がある。著者オフィシャルサイト
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