話の内容と五感を結びつけると、忘れられないスピーチになる:表現のプロが教えるスピーチの兵法(2/2 ページ)
聞き手の印象に残るようなスピーチは、内容を磨き上げることはもちろん重要ですが、さらなる工夫も考えてみましょう。感覚に訴えると効果てきめんです。今回は、そのノウハウを伝授します。
ひと味違ったスピーチのスタイルを考える
五感のうち、一番応用しやすいのは視覚です。スピーチ中に何かビジュアル面での演出ができないか考えてみましょう。
私のスピーチコンサルティングのクライアントで、ある学校法人の理事長は、幼稚園の卒園式にシャボン玉を吹きながら挨拶をしました。
「卒園生の皆さんと園庭で一緒に遊んだことを忘れません。小学校に入ってもたくさん遊んで、たくさん学んでください」というメッセージを伝えるための1つの演出でした。
実際には職務柄、園児たちとシャボン玉で遊んだ機会はさほど多くなかったそうです。しかし、このスピーチの効果で、卒園後も幼稚園に遊びに来る卒園生が多く、なかには「シャボン玉先生」と呼んでくれる子もいるそうです。自分の存在を、聞き手の記憶に残すことに成功した例といえます。
その他、聴覚であればスピーチのBGMを自分なりに考えたり、特徴ある音を出せないか検討するとよいでしょう。楽器の演奏ができれば、演奏する曲を聴覚で、演奏する姿を視覚で、と2つの感覚を同時に刺激することができます。
かつて私が出席した結婚式では、新婦がウェディングドレス姿でサックスを演奏しました。エレガントな純白のドレスと躍動的な演奏シーンが対照的で、とても楽しく拝見しました。新婦の友人たちによるプロフィール紹介を聞くよりも、この演奏を見ることで、私は新婦の明るい人柄を理解できた気がしました。
さらに、嗅覚なら、今回のようにその季節の花のこと、当日その場にある料理やアロマなどの香りのことに触れてもよいかもしれません。
味覚は、パーティなどその場で食することができる状況ならば簡単に話の内容に取り入れることができます。もしも、それができなければ「梅干し」など誰もが味を思い出せるような食材を取り入れることでも、印象に残るスピーチとなります。
最後に触覚。触覚の一番のおすすめは「手」、つまり握手です。選挙の候補者のスピーチトレーニングのときにも伝えるテクニックですが、登壇する前、または話し終えた直後に聞き手の人たちと握手を交わすのです。
送別会、歓迎会という場であっても、「スピーチ、講演とはこうあるべき」という固定概念にとらわれることなく、五感を活用するという観点から、自由にイメージを膨らませてください。
そのうえで、どこまでが許容範囲なのかを慎重に考えてみるとよいでしょう。そして、送別会、歓迎会で突然スピーチを依頼されたら、今回紹介した「沈丁花」のスタイルを応用してみましょう。
「学ぶ」は「真似ぶ」に通じます。他人のスピーチを聞いてよいと思った点はどんどん真似て、自分のスピーチに取り入れてみてください。
今回のポイント
- 視覚、聴覚、嗅覚、味覚、触覚など様々な感覚を採り入れたスピーチを心がける
- ひと味違った角度からアプローチすると、印象に残りやすくなる
著者プロフィール:矢野香
キャスター歴17年。主にニュース報道番組を担当。大学院では心理学の見地から「話をする人の印象形成」を研究。現在は、政治家・経営者・管理職を中心に「信頼を勝ち取るスキル」を指導。著書に『その話し方では軽すぎます! 〜エグゼクティブが鍛えている「人前で話す技法」』がある。著者オフィシャルサイト
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