敬語はできるだけ控えめに――自分の言葉で敬意を表現しよう:表現のプロが教えるスピーチの兵法(2/2 ページ)
敬語を正しく使うことはビジネスパーソンにとって常識の1つ。しかし、時代とともに敬語に対する考え方が変わることもあり一筋縄ではいきません。今回は、いまの時代にふさわしい敬語の使い方を紹介します。
文末のみを丁寧にする「中立敬語」を心がける
このような流れを受け、私がニュース番組を担当していたNHKでは、放送で使う敬語について「番組の出演者に対して失礼にならず、テレビ・ラジオの前で番組を見ている人、聞いている人にも不快感を与えない範囲で、なるべく敬語は控えめにするように」と決められています。
なかでもニュースは、中立的な表現を心がける必要があるため、皇室関係の話題以外では敬語はあまり使いません。文末を「です」「ます」にすることを基本にしているだけです。敬語は、まったく使わないと横柄な感じを与え、過剰に使うと慇懃無礼(いんぎんぶれい)に聞こえてしまいます。
そこで、どの程度に敬語を使えばよいか悩むのですが、一般の会話では、NHKニュースと同じく中立敬語を取り入れることをお勧めします。
中立敬語のポイントは、文章全体に敬語を使うのではなく、文末でのみ敬語を使うことです。
「そちら様のご予定はいかがでございますでしょうか?」と全体的に敬語を散りばめると、かえって行き過ぎな表現になってしまいます。そこで、「そちらの予定はいかがでございますか?」と文末だけを丁寧にします。そして、会話ではこの程度の敬語に抑えたうえで、非言語表現を充実させるのです。
非言語表現とは言語以外の表情や話し方の表現のことで、これらの工夫によって全体として丁寧になりすぎたり、失礼になりすぎたりしないよううまく調整します。
覚えておきたいワンランク上のテクニックとは
一般のビジネスパーソンにとって、尊敬語と謙譲語の使い分けはできて当然のことでしょう。ただし、もう1つ上のクラスを目指す場合には、文法的には誤りではないがやめておいたほうがよいというレベルの表現も心得ておきたいものです。
例えば、次の設問のようなケースです。仕事を手伝ってくれた上司に対して、帰り際にかける言葉として正しいのはどれでしょう。
- 「お疲れさまでした」
- 「ご苦労さまでした」
- どちらも間違い
「ご苦労さまでした」は目上の人に使うのは失礼なので、1.の「お疲れさまでした」が正解と、得意気に答えたあなた。惜しい、あと一歩詰めが甘かった。
正解は、3.の「どちらも間違い」です。
なぜなら、「ねぎらい」という行為自体が「目上」から「目下」に対するものなので、「お疲れさま」も「ご苦労さま」も間違い、というのが伝統的な考え方だからです。
では、どうすればいいのか?
前述の答申では、「お疲れさまでございました」のように丁寧な言い方であれば、誰に対してでも使える表現になるとしています。これも、文末だけを丁寧にする「中立敬語」のテクニックといえます。
もう1つのお勧めは、定型的な「お疲れさま」という言葉ではなく、敬意を込めたオリジナルな表現を使うことです。例えば、「お疲れさま」の代わりに、
「明日もよろしくお願いします」
「おかげさまで早く終わりました。ありがとうございました」
などはいかがでしょう? 目上・目下の関係なく感謝の気持ちを表現しているので、スマートな印象を与えることができます。
「敬語は自己表現」を合言葉に、定型文にとらわれることなく、自分の言葉で敬意を表わすことを心がけてください。
今回のポイント
敬語を使う際には、文末だけを丁寧にする「中立敬語」を心がける。また、紋切り型の言葉ではなく、オリジナルな「自己表現」を意識する。
著者プロフィール:矢野香
キャスター歴17年。主にニュース報道番組を担当。大学院では心理学の見地から「話をする人の印象形成」を研究。現在は、政治家・経営者・管理職を中心に「信頼を勝ち取るスキル」を指導。著書に『その話し方では軽すぎます! 〜エグゼクティブが鍛えている「人前で話す技法」』がある。著者オフィシャルサイト
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