無線LAN〜その栄光への道のり(前編)

登場した当初は,「高い,遅い,かさばる」などとといわれていた無線LAN。ところが,2001年度には関連製品の売上げ規模が約200〜300億円に達するという。急速に地歩を固めつつある無線LANの歴史を振り返り,その魅力を探ってみよう。

【国内記事】 2001年9月3日更新

 無線LAN市場がブレイクしている。

 ADSLやCATVなどのブロードバンド回線の導入にあわせて購入してお使いのみなさんも多いだろう。常時接続で時間を気にせずにインターネットを利用できるようになったとき,あわせて空間のほうも気にせずに使えるようになる無線LANは,大きな魅力だ。

 2000年度の国内の売上げ規模は約百数十億円程度,2001年度は約200〜300億円に達するという予測がたてられている。昨年に比べ,アクセスポイントよりもカードの出荷台数の比率のほうが増えているらしい。家庭のなかで2台目,3台目と複数のPCを接続する人が増えているのだろう。無線LAN搭載ノートPCも登場してきた。日本全国で数10万のPCが既にワイヤレス化されている。

 無線LANの伸びの特徴は,ビジネス(企業)よりコンシューマー(一般消費者)での需要が牽引役になっていることだ。上述したようにブロードバンドの普及がその大きな要因だ。

 しかし,ビジネス向けのソリューションとしてみるとどうか。率直にいって,無線LANの設計が行えるネットワークエンジニアは,それほど多くないように思う。無線LANの機能自体は,ルータやスイッチなどほかのネットワークソリューションに比べ,それほど難しいものではない。むしろ基本的な動作はブリッジであり,レイヤ2ベースのノードである無線LANは,いたってシンプルな機器である。

 無線LANを知らないネットワークエンジニアが多いのは,ごく最近まで無線LANがマイナーなものとされ,必要な知識を教えられる機会がほとんどなかったからだ。

無線LANは,トークンリングと同じ?

 私がかつて経験した,LANのエンジニアを養成するための基礎研修の席では,OSI参照モデル,イーサネット,ATMといった技術を,テキストの順番に従って学んだ。しかし,その後に続くトークンリングと,無線LANの章になると,講師はさっくりとこう言った。「これは実際には使わないからいいです」。そして2章ぶんをとばして,講義をまた続けるのだった。

 トークンリングはその後廃れてほとんど使われなくなってしまったからいいのだが(ちなみに同様にその後市場から消えたネットワーク技術としては,100VG-AnyLANや,25M ATMなど,いくつかある),無線LANの市場は逆にだんだんと拡大し,今日の隆盛を迎えるにいたった。

 だが,現在の需要の牽引役は一般利用者や,SOHOといったところが中心だ。企業においては,会議室など一部で使われたという例はあっても,オフィスのメインのLANとして全面採用されたという例はそれほどは聞かない。

 ビジネス向けの利用が進んでいないのは,エンジニアの側に,ノウハウが蓄積されておらず,積極的な導入提案がなされていないのも,原因の1つではないかと感じることがある。サブネット,ドメインといった通常のLANの概念のほかに,電波の届くセルの広さやチャンネルといった無線LANゆえの物理的要素も考慮しなければならないので,大規模ネットワークでの設計の煩雑さは増す。

かつてアダプタは1個13万円,速度は2Mbps

 その,いまは隆盛をきわめる無線LANが,最初に登場したときのことから解き起こしてみよう。無線LANが現在のように一般的になるまでには,長い冬の時代があった。

 国内に登場した当初,無線LANは,とても「マイナー」な技術で,「高い,遅い,かさばる」といわれていた。

 日本国内で無線LANが利用可能になったのは1993年だが,本格的な出荷が始まった1994年度の数字を見てみよう。その年,日本で売れた無線LANアダプタの出荷台数は,無線設備検査検定協会(当時,現在はTELEC)の集計によると,7817台だったという。そう,まさにマイナーというしかない。

 当時,技術的には現在のIEEE802.11b製品につながる,2.4GHz帯を使いスペクトラム拡散方式で伝送する無線LANの製品は,アクセスポイントが1台50万円程度。アダプタは1台13万円していた。無線LANが「高い」といわれたゆえんである。

 そして,その13万円のアダプタを使って作るネットワーク。伝送速度は何Mbpsだったかというと,機種にもよるがおよそ1Mbpsないし2Mbps。当時は既に,LANといえば標準はイーサネットであり,10BASE-Tが普及していた。その時に最大2Mbps(実測値はもっと遅かった)。無線LANが「遅い」といわれたゆえんである。

 また,使える周波数も実効4チャンネル分使える現在と違い,割り当てられた周波数帯は1チャンネル分のみだった。チャネルを分けて効率化するマネはできなかったのだ。

 ちなみに,現在北米などでは無線LANのチャンネル選択に13チャンネル(搬送波が重ならずに使える実効は3チャンネル)が用意されているのに対し,日本は14チャンネルとなっている。この14チャンネル目が,当初から割り当てられていたチャンネル(2470.75〜2497MHz)だからだ。おかげで日本では,後から割り当てられた2400〜2483.5MHzとあわせ,実効で4チャンネル使えることになる。(図1参照)

 さらに異なっていたのは,無線LANアダプタの形状。あえて「無線LANカード」と書かず「アダプタ」と書くのは,当時はPCカード単体ではなかったからだ。PCカードからはケーブルが延び,タバコの箱をひとまわり小さくした程度の部分が,アンテナとして必要だった(写真1,2)。

 当時,無線LANはいまのようにスマートではなく「かさばる」ものだったのである。いまの無線LANカードでも,PCカードスロットのアンテナ部の黒い出っ張りが邪魔だという意見もあるが,以前に比べれば小さくなったものなのだ。

2Mbps時代の無線LAN。かさばる外部アンテナが必要だった

2Mbpsの無線LAN製品(下)と,現在の後継の機種(上)を比べてみた

標準化されてもつながらない

 無線LANがマイナーな状態は,その後数年に渡って続く。

 その間,業界としては標準化への詰めの作業が続けられていた。無線LANの標準規格はIEEE802.11。いまでこそ通称「ドットイレブン」と呼ばれる規格だが,その頃は誰もそんなスマートな呼び方はしなかった。というか,そんな規格あること自体知られていないから呼ばれなくて当然なのだが。一部の,規格を知る人は律儀に,「はちまるにいてんいちいち」と呼んだものだ。

 そのIEEE802.11の標準が承認されたのは,1997年7月。まもなく,IEEE 802.11準拠を銘打つ製品がリリースされ始めた。

 とはいえ,標準化されたからといって,異なる機種がつながるようになるわけではない。もちろん標準化以前は,製造メーカーが違っていれば,たとえ天地がひっくりかえってもつながることはない。しかし標準化が進み,その規格に準拠したとしても,それと,異機種間での相互接続性の確立はまた別ものなのである。相互接続を実現するためには,地道な検証試験と,それを実現するための業界として共同の場が必要になる。

 しかし,当初はそれがなかった。つまり標準に準拠しても,無線LANでは異なるもの同士はお互いつながらないのが当たり前だった。アクセスポイントもアダプタも,全ての製品を同じメーカーでそろえなければならなかった。異機種間の相互接続に向け,業界が足並みをそろえるには,802.11bの登場を待たなければならない。

 いまとなってみれば,どこの製品にもつながるがゆえに,無線LANはセキュリティが脆弱だという問題を引き起こしている。他社の製品はつながらない,標準非準拠のモードがあってもいいのではないかと,たまに考えるときがないわけでもない。

 そんな,高くて遅くてかさばり,機種が違えばつながらないし,マイナーだった無線LANにも,ついに陽のあたるときがやってくる。それを語るのは次回だ。

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[大水祐一,ITmedia]

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