e-Drive基調講演:ここがヘンだよブロードバンド

順調に発展しているとも見える日本のブロードバンドだが,実は問題も多い。しかも,その問題は深刻のようだ。

【国内記事】 2001年11月1日更新

 11月1日,台場のホテル日航東京で開催された「e-Drive 2001」において,倉敷芸術科学大学産業科学技術学部,ソフトウェア学科の小林和真助教授が講演を行った。

倉敷芸術科学大学の小林和真助教授

 小林助教授はまずブロードバンドの普及の度合いについて,「すごい急カーブで上がりつつある」とコメント。しかし,その展開のすべてが上手くいっているわけではない。「ラストワンマイルのブロードバンド化は順調だが……」

局所的に進むブロードバンド化

 小林助教授が懸念するのは,ブロードバンド化が“局所的”に進行していることだ。確かにユーザーにとってラストマイルの高速化は進んでいる。しかし「キャリア間のブロードバンド化はどうか? 地域網間のブロードバンド化は?」(同氏)

 「限られた場所で高速に通信できても,そのスポットから出るともうつながらない。点在するブロードバンドスポットを統合し,相互に接続することが次のステップだ」

 同氏が不満そうに語るのは,ISP間の相互接続が義務付けられていないこと。本来ならIX(Internet Exchange=ISPの相互接続を目的に設置されるポイント)を通じて,いったんWebにアクセスしたユーザーは自由な経路を通れるのが望ましいのだが,「中にはピアリング(相互接続)に対してチャージをかける,つまりお金を払えというところもある」のだという。

隣のビルにカリフォルニアを経由して届く?

 オープンなネットワークを構成しなくてはならない理由は,地域網を構築する必要性以外にも挙げることができる。同氏が指摘するのは,このままではストリーミングコンテンツなどを満足に配信できないのではないかという問題だ。

 「人気番組の中継では,1万人ぐらいのユーザーはすぐに来る。そうすると,700Kbpsのストリームを1万人に用意しなければならない。これは1年前の30倍だ。ユーザー側の環境は整ったが,(そのコンテンツを配信する)企業側は1年前と比べて(用意している帯域が)30倍にできたか? そんなことはまず無理だ」(小林助教授)

 ブロードバンドのリクエストが増えたことで,コンテンツ事業者や放送業者などはCDS(コンテンツディストリビューションサービス)を利用する必要が出てくる。これには,通信インフラを持っているもの同士が連合を組んで,「この時間はここ,一時間後はこっちに使わせる」というように進めなければならないという。

 「ブロードバンドの相対通信においては,自分のネットワークだけ見てQoS(クオリティ保証)しても意味がない。ちゃんとピアリングを行わないと,データがどこを通って相手に届くとも知れないからだ。隣のビルにデータを送るのにカリフォルニアを経由して届くというようなことになりかねない」

 ネットワークを共有して交通整理を行わないと,ユーザーによってはデータがとんだ回り道をして届き,クオリティが低下するおそれがあるのだという。

 小林助教授は「(ちゃんとネットワークの)連合をくめば,多分(安定したコンテンツ配信は)できる」と,インフラを持つ業者同士の歩み寄りを促した。

ブロードバンド教育の遅れも問題

 小林助教授がもう一点,力説したのは,日本のブロードバンド教育の遅れだ。

 「地方には優秀な技術者が少ない。少ない技術者に多くの仕事が委ねられるから,(彼らは)過酷な状況を強いられている」

 同氏はまた,日本のブロードバンド技術者には,“シスコのルータしか知らない”ような人間が多すぎるとも指摘する。「分からないことは“機器同士の相性が悪い”といって済ませてしまう」と嘆いた。

 「もちろんこれには教育の問題もある」。同氏が問題点として挙げたのは,大学教育前段階での学生のコンピュータ知識の低さだ。「大学で,ひらがなを教えますか? 足し算を教えますか? なぜインターネットだけ,大学に入ってからわざわざマウスの操作から教えなければならないのか。そういうことは下の段階で済ませてきてほしい」

 この教育の遅れを取り戻してまともなネットワークエンジニアを育てるには,大学で膨大な量の教育を行わなければならない。学生の負担はいきおい大きくなる。「しかも,教える側も整備されていない」(小林助教授)。外国と比べ,日本のIT教育は遅ているのだという。

 成長をはじめたブロードバンド市場。しかし小林助教授の指摘する点が改善されなければ,ユーザーは離散するネットワークの下,満足なコンテンツも受けられなくなる可能性もある。さらに技術者の少なさがその問題に拍車をかけるとすると,将来は暗い。

 小林助教授によれば,既にIT教育に力を入れ始めた国も出てきているようだ。一見華やかなブロードバンド市場だが,まずその足元を固める必要がありそうだ。

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[杉浦正武,ITmedia]

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