ウワサの「FTTHトライアル」を体験してきました(前編)

IPv6の普及を見据え,各種の情報家電を取り込んだKDDIの「FTTHトライアル」。モニターに当選したTさんのマンションにお邪魔して,その模様をレポートしよう。

【国内記事】 2002年4月4日更新

 昭和初期には都内有数の繁華街として栄え,今も“粋”な街として人気を集める神楽坂。ここで,最先端のFTTH実験サービスが行われている。IPv6の普及を見据え,各種の情報家電を取り込んだ,KDDIの「FTTHトライアル」だ。モニターに当選したTさんのマンションにお邪魔して,その模様をレポートしよう。


 Tさんの仕事はフリーの翻訳家。ZDNetをはじめ,TCP/IPの解説書を手がけるなど,IT分野を専門に活動している。それだけにブロードバンドインフラに対する関心は高く,11月にKDDIがモニター募集を告知すると,すぐに申し込んだという。1カ月ほどしてKDDIから電話があり,モニターに当選したことが伝えられたため,「フレッツ・ADSL」の8Mbps移行を見送っている。

管理組合をすり抜けて……?

 Tさん宅は,3年前の11月に入居した分譲マンションだ。既築の分譲マンションというと,共有スペースの使用には管理組合の合意が必要となる,いわばブロードバンドの鬼門。ヘタをすれば住民間のいさかいに発展しかねないだけに,某編集長のように,涙をのんでダイヤルアップ生活を続けている人もいる。

 ところが,Tさんのマンションでは,30世帯中14世帯に光ファイバーが引き込まれることになった。「うちは,比較的新しいマンションで,住民も若い世代が中心だから……」(T氏)。

 ただし,このために管理組合の壁を突破できたというわけではない。実は,とても強い味方がいた。

 「KDDIから電話をもらって初めて知ったが,理事長(住民代表)もモニターに申し込んでいたらしい」。

 結局,管理組合の総会などは開かれず,(代表者だけの)理事会の承認だけでクリアできた。その間,Tさんは完全にノータッチ。年末には工事前の調査も終わり,あとはトライアルが始まるのを待つだけになったという。

 既築マンションの場合,電話線が光収容になっているとADSLを引くこともできないが,Tさん宅は小規模のため光化されておらず,前述の通りADSLが導入できる。NTT局とは1キロ未満の距離のため,フルレートADSLなら数Mbpsは確保できるハズだ。それでも,約半数の住民が光化に賛同したという点に驚かされる。まさに,“無料”モニター強し……。

4パターンの光ファイバー敷設方法

 KDDIは,今回のFTTHトライアルにあたり,3パターンの接続方法を検証する。LAN型接続で集合住宅の各戸まで光ファイバーを直接引き込むケース,同じくLAN型で集合住宅までを1本の光ファイバーで繋ぎ,構内は100BASEのイーサネットを利用する方法。そして,センター装置から最大32分岐で各戸に至るイーサネットPON型だ。

 PON型は帯域保証が可能になる点がメリット(2月の記事を参照)。一方,多くの人数で回線を共有するLAN型は,低価格化が可能になる。将来的には,ラインアップ化も期待できるだろう。

 ただし,取材に立ち会ってくれたKDDI技術開発本部ブロードバンド事業推進部長の嶋谷吉治理事によると,「集合住宅の場合,商用サービスでは第4のパターン〜構内にVDSLを利用する方法が主流になる」という。こちらは,別途都市基盤整備公団(都市公団)と共同で実証実験を行う予定だ。

 100Mbps対応のSOHO住宅まで建設した都市公団だが,実は既存の公団賃貸住宅のうち,約9万戸がADSLやCATVを利用できないエリアに立地している。そこで都市公団は,HomePNAやVDSLで高速インターネットの接続環境を整備する事業者を募集。東日本・西日本エリアともKDDIが手掛けることになった。

 メタルラインを使うVDSLは,工事費が抑えられる点が最大のメリット。回線速度は約15Mbpsが上限だが,ユーザーの初期投資額は1万5000円程度に抑えられる見込みだ。

光ファイバー登場

 さて,Tさん宅の場合は,各戸まで光ファイバーがくる第1のパターンになった。FTTHでは,一般的にあまり急な角度で曲げることのできない石英ファイバーを使用するため,スムーズにケーブルを通すことのできる整った管路がないと,敷設が困難だ。今回のマンションは,比較的管路に余裕があり,光直収の検証に適していたという。


電柱からマンションの壁面へ。ここから構内に入る

 手順としては,電柱から光ファイバーを引き込み,各フロアでモニター参加世帯の数に応じてファイバーを振り分ける。KDDIは1芯(1本のファイバー上で異なる波長を使い,上り・下り伝送を行う)で上り下り100Mbpsの対称型サービスを提供するが,実際には予備の光ファイバーを含め,2本ずつ各家庭に引き込まれる。


1階共有スペースの壁面にある「光接続箱」。各階のモニター数に応じてファイバーの束をまとめている

 各部屋の管路設計は,マンションごとに異なるが,今回は少し複雑だった。光ファイバーはリビングとキッチンを隔てるカウンターの上から顔を出しているのだが,室内の管路が寝室経由でリビングのTVスペースへつながっていたからだ。


カウンターの上から顔を出した光ファイバー

 リビングに仕事用のPCがあり,隣の寝室に大型TVが置かれている。STBを使うKDDIのサービスでは,TVでWebや専用コンテンツを楽しむことができるが,寝室にこれ以上大きな機械(注:日立製STBはでかい)を置きたくないという要望から,寝室は単に経由するだけで,すべての機器をリビングに設置することになった。結局,キッチンカウンターの上にメディアコンバーターを置き,イーサネットケーブルを寝室〜リビングに引きまわす形に落ちつく。


皮膜をはぎ取られ,むき出しになった光ファイバー

 さて,メディアコンバーターに接続する前にケーブルの特性を検査するのだが,ここでちょっとした問題が生じた。減衰率が高いのだ。


テスターの表示は-13.6dB。特に高い数字には見えないが……。

 光ファイバーの場合,ISDNや各種電磁的ノイズの影響を考慮せずにすむ反面,接続点や急角度の折り曲げによって損失が生じる。マンション構内では,いくつかのポイントで接続されるうえ,管路に沿って否応なく曲げられてしまう。

「KDDIは,(工事業者に対して)建物内は-2dB以下の損失に抑えるように依頼している。建物までの損失が-9dBだから,今の状態(テスターに表示された-13.6dB)は-4.6dBと少し損失が大きい状態」(嶋谷氏)。結局,構内の各接続点を再チェックして,ようやくOKとなった。


設置完了。カウンターにはメディアコンバーターだけが置かれ,イーサネットケーブルはまた壁の中にもぐる


部屋に積み上げられた段ボールの山。VoIPアダプタやブロードバンドルータ,日立製作所のSTB,東芝のBluetoothアダプタなど。モニター終了後は,すべてプレゼントというから,KDDIは太っ腹だ。

 さて,いよいよスピード計測と各種機器の設置に入るのだが,その模様は後編で……。

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[芹澤隆徳,ITmedia]

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