禁断の果実「アダルト」に手を出しかねるISP

みんな内心欲しがってはいるが,最後の一歩が踏み出せない。ISPはアダルトコンテンツ導入にあたり,互いにけん制し,積極的には動けないでいる。

【国内記事】 2002年4月17日更新

 「アダルト」がブロードバンドのキラーコンテンツ候補であることは疑いようがない。だが業界を見渡すと,有線ブロードネットワークスなど一部を除いて,アダルト映像の充実を図っている事業者は少ない。

 背景には,やはり社会的なイメージを損なうのではとの不安がある。あるNECの幹部はアダルト配信について「できるものならばんばん流したい」と言いつつも,実際には「それで得るもののほかに,失うものもある。BIGLOBEの名前では,やれない」と否定的だった。

 もっとも,水面下の様子はちょっと違うようだ。有力ISPとアダルトコンテンツホルダーとの間でさまざまな交渉が続いているという話が,ちらほらと聞こえてくるからだ。そのあたりを,コンテンツホルダー側に聞いてみると――。

あるインディーズAV配信サイトの場合

 ディーエムエムは,インディーズ系アダルトビデオの映像を最大1Mbpsで配信するサイト「DMM」「AVBB」を運営する企業。現在,2万3000人の会員を抱え,毎月の売上は5000万円に上る。

 ディーエムエムのブロードバンド担当者は「アダルトならなんでも儲かるわけではない。ジャンルごとに『メガネ』『制服』など150もの検索ワードを用意してデータベースを構築し,チャットなどライブ系コンテンツを充実させた成果」と話す。

 こうした優良コンテンツプロバイダを,ネット業界が放っておくはずもない。実際,「昨年末ぐらいから,急にあちこちから声がかかるようになった。単にコンテンツ提供の話なら,ほとんどのISPがきている」(ディーエムエム)。

 だが,結果はどこも「しばらくすると,ごめんなさい,企画がつぶれました……と言ってくる」。現場はやりたがっているが,上で止められるという構図のようだ。

煮え切らないISP

 ディーエムエムの担当者は,ISPさえやる気があるなら,コンテンツ提供は“もちろん”行うと話す。

 「ISPの名前がつくことで,アダルトサイトにつきものの“疑わしさ”が消え,ユーザーの信頼度が向上する。また,クレジット課金でなく,ISPの課金インフラが使えるのも利点」(ディーエムエム)。

 さらにディーエムエムの場合,コンテンツ配信のネットワークを全て自前で組んできた。通信事業者のキャッシュサーバなど,ネットワークインフラを利用できることも「たいへん魅力的」。基本的に前向きな姿勢と考えて良さそうだ。

 しかし,通信事業者側の態度は,煮え切らないものだという。

 「一般にISPが提供するアダルトコンテンツといえば,女の子のきれいなヌードが限度。実際に男女が“動いて”いる映像となると,リンクを張ってジャンプさせる,といった処理になる。それでいて,実はリンクを張った先のアダルトサイトから成功報酬をもらっていたりする」(ディーエムエム)。

 担当者は「こういった契約では満足できない」と話す。

どこが先行するか?

 アダルト導入を企画する,ある通信事業関係者は「どこか1社が思い切って自社課金で始めれば,みな一斉に流しだすだろう」と見る。

 「業界の有力コンテンツメーカーは,数が限られている。それらを先行して取り込めた企業が,絶対的に有利になるのではないか」。こうした中,ISP側は乗り遅れるわけにもいかないからだ。

 「米国ではISPのアダルト提供はかなりの批判を受けたが,あれは“公共の場にアダルトを置くな”というお国柄が影響している。国内ではもう少し,反応が違うと思うのだが……」(同)。

 今のところ,他人の目を気にして“食わねど高楊枝”を決め込んでいる日本のISP。だが,魅力的なブロードバンドコンテンツには,のどから手が出る状態であるのは間違いない。

 果たしてどのISPが,最初にこの“据え膳”に手を伸ばすだろうか?

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[杉浦正武,ITmedia]

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