リビング+:特集 2003/06/03 18:27:00 更新

特集:CATV再発見
“競争”と“地域”の間でゆれるIP電話

CATV事業者も「050」IP電話を提供するケースが増えているが、他のインフラとは少し違う悩みを抱えているようだ。主にファミリー層をターゲットとなるCATVでは、セカンダリ電話として割り切ったADSLとは少し違うアプローチを見ることができる

 今夏には「050」電話番号による加入者電話からの着信が可能になるとあり、さらに活気づいてきたIP電話市場。ISPはなるべく広範囲の「無料通話」を確保するために奔走し(先週の特集を参照)KDDIやNTTコミュニケーションズといったバックボーンを提供する事業者は提携先を増やしつつある。CATV事業者もバックボーンに相乗りするケースが増えているが、他のインフラとは少し違う悩みを抱えているようだ。

 「第一電話になるか、第二電話でいいのか。IP電話の問題は、この位置付けにあった」。イッツ・コミュニケーションズ経営統括室の石丸英二経営企画担当部長はこう語る。第一電話(プライマリ電話)とは、現在の加入者電話が持つ機能をすべて備え、完全にリプレースできる電話を意味している。携帯電話や国際通話はもちろん、IP電話の課題とされている緊急電話番号にも対応することが条件だ。

 しかし、緊急電話番号への対応が難しいのは周知の通り。そこでイッツコムは、バックボーン事業者と提携して「050」番号を使うIP電話を提供することを決めた。「本音でいえば、第一電話を提供したい。NTT地域会社が光ファイバーによる放送事業に参入する意図を持っているが、家庭に入るラインをNTTに独占されるわけにはいかない」(同氏)。

 提携先は現在検討を進めている段階だが、8月にはトライアルを開始し、12月を目処に商用化するスケジュールは公表済み。セカンダリ電話としてのIP電話を提供することになった。

 ただし、ほかのISPとは異なる点が1つある。それは、自社網にクラス5スイッチを置き、「050」電話番号も自社で取得・管理すること。加入者電話との通話を提供するためにバックボーン事業者につなぐ必要はあるが、事業主体はあくまで自社とする構えだ。

 「理由は、050番号の“リナンバリング”だ。番号配布までをバックボーン事業者に頼っていると、仮にバックボーンを変更したときにどうなる? ユーザーの電話番号を変えてもらうのか」。

 とくにCATVの場合、利用者の多くはファミリー層だ。どちらかといえばパーソナルな需要の多いADSLと異なり、電話番号の変更による影響は大きい。つまり、経営の柔軟性と顧客満足度の両方に配慮した結果がクラス5スイッチの設置だ。同氏によると、IP電話の開始が遅れたのは、この判断に時間がかかったたためだという。

 一方、積極的にIP電話の計画を打ち出しつつ、仕切直したのがジュピターテレコム(J-COM)だ。

セカンダリIP電話の計画は???

 J-COMはこれまで、番号ポータビリティサービス対応IP電話の実証実験を千葉県浦安市で実施し、また050電話番号を使うセカンダリIP電話の提供も検討するなど、積極的なアプローチを見せていた。にも関わらず、どちらの計画もいまだ「検討段階」のまま。これは何を意味するのだろうか。

 JCOMマーケティング部HSDSプロダクトアシスタントマネージャーの鈴木毅氏は、「理由の多くは技術的な課題と、それを解消するためにかかるコストの負担」と説明している。

 浦安の実験では、緊急電話番号にも発信可能にするため、海外ベンダーのソフトウェアスイッチを導入した。しかし検証を進めていくうち、運用面に不具合が見つかったという。「緊急電話では、通報時にセッションを維持する必要があるが、これが維持できない、あるいは電話機が鳴り続けるといった問題が生じた」。このあたりは、主に海外との環境の違いに起因しているようだ。

 一方、既存の回線交換式電話サービス「J-COM Phone」であれば、市内・長距離はもちろん、国際通話、携帯電話やPHSとの相互接続など電話の機能をほぼ備えている。もちろん、緊急通報も可能。既に系列の14社が提供している。

 結局、現在のところIP技術はJ-COM Phoneの代わりにはなり得ない。一方のセカンダリIP電話も「技術的に難しいところはないが、コメントできる段階にはない」(同社)という。ファミリー層をターゲットにしているため、パーソナルユースが中心のADSLなどに比べると求められる機能水準が高い。この辺の認識はイッツコムと共通だ。

 「今の機能で、いたずらにIP電話を提供するのはどうか。他社が提供するからといって横並びで実施することはできない」(鈴木氏)。

 競争という観点から見れば、IP電話がラインアップにないことが不利に働く可能性もあるだろう。同社の判断は、CATVという“地域密着”インフラが抱えたジレンマを象徴しているようにも思える。

 ただ、CATVはユーザーの生活に密着したサービスを堅実な形で、かつ継続的に提供することを重要なミッションだ。単純に料金だけでサービスを比較するのではなく、別の尺度があってもいいだろう。

関連記事
▼KDDIのIP電話、53社で相互通話可能に?
▼J-COMも「050」IP電話の提供を検討中
▼“ライフライン”を目指すIP電話、J-COMが試験サービスへ
▼CATV事業者、大同団結でIP電話に本腰
▼BBXとフュージョン、CATV事業者向けIP電話サービスで提携
▼近畿地区17社のCATVインターネットがIP電話サービスを4月より開始
▼確実にIP電話の接続先を増やすKDDI〜富山のCATV10社と共同で展開
前 CATV再発見 2/5 次

[芹澤隆徳,ITmedia]



モバイルショップ

最新スペック搭載ゲームパソコン
高性能でゲームが快適なのは
ドスパラゲームパソコンガレリア!

最新CPU搭載パソコンはドスパラで!!
第3世代インテルCoreプロセッサー搭載PC ドスパラはスピード出荷でお届けします!!