リビング+:ニュース 2003/06/09 23:59:00 更新

連載:enjoy@broadband.home.net
「SSMS」が示す新しいコンシューマーPCの方向性 (1/2)

ソニー「バイオ」シリーズの夏モデルに搭載される「SonicStage Mastering Studio」(SSMS)は、音楽レコーディングの現場で使われている技術を駆使して、可能な限り品質の高いデジタル音楽データを作り出すソフトだ。この“ホンモノ”の技術が、コンシューマーPCの新しい方向性を示してくれる。

 ソニーバイオシリーズの夏モデルに搭載される「SonicStage Mastering Studio」(SSMS)は、2つの側面で非常に興味深いソフトウェアだ。ひとつはこのソフトウェアが、プロが使うデジタルマスタリング技術を組み込んだ、紛れもないホンモノであること。もうひとつは、今後のPCのあり方についての方向性を示唆していることだ。

 残念ながら、SSMSは誰もが使えるソフトウェアではない。外販される予定はなく、また動作保証などの問題から、バイオの従来機にも提供されない。それでもなお、SSMSに筆者が魅力を感じるのは、好きな音楽を少しでも良い音で楽しみたいと思って努力した学生時代を思い出させるからかもしれない。

 そのフィロソフィーについては、アンカーデスクにおいて小寺氏が触れているが、別の切り口からSSMSの魅力、そしてSSMSの目指す方向から広がる新しいPCの可能性について考えてみることにしたい。

オマケではないことの意味

 少々極端な表現でいえば、僕はこれまでパソコンに「良い音」や「良い映像」を求めたことはなかった。もちろん、今のパソコンはアプリケーションソフトウェアさえ用意すれば、プロ品質のオーディオやビデオのデータを扱うことはできる。高品質のTVチューナーカードを買ってきて、ハイビットレートのMPEG2で録画すれば、下手なハイブリッドレコーダーよりも良い画質のDVDを作ることは可能だ。でも、映像はコンピュータのディスプレイよりもTV画面で見たいと思うし、音に関してもコンシューマーPCで高音質の処理を行うこと自体にあまり興味がわかない。

 多少誇張した書き方をしているが、「所詮、パソコンはパソコンで、AV機能は家庭向けPCにアドオンされたオマケ」と、心の中のどこかにそんな気持ちがあるから、あまり大きな期待を持てないのかもしれない。もちろん、PC向けにプロクオリティのオーディオやビデオの周辺機器は存在する。しかしコンシューマー機器と、そうしたプロ向け機器/アプリケーションの間には、超えられそうにない壁が、これまでは存在していたと思う。

 つまり、マニアではない普通の人が、子どもだましではないホンモノに出会える環境がないのである。これでは、世の“男の子”(元男の子を含む)をワクワクさせたりはできない。底の浅さが見えるようでは、のめり込んでしまうことなどできないのだ。そのためには、手頃な価格で“そこそこ”良い品質の機材とともに、良いアプリケーションが必要だ。

 僕がSSMSに興味を持ったのは、コンシューマー向けのシンプルなアプリケーションとしてアレンジされながらも、奥の深さを感じさせる“ホンモノ”だったからである。SMSSの企画を担当したソニー IT&モバイルソリューションズネットワークカンパニーの宮崎琢磨氏は「オマケじゃないホンモノを作りたかった」と話す。

 ちなみに同氏は、かなりのオーディオマニアとのこと。SSMSの企画は、宮崎氏と「バイオMX」の商品企画を担当してきた府中克樹氏(こちらはかなりの宅録マニアだそうだ)で「こんなソフトが欲しい。妥協はしたくない」と、市場性よりもマニア自身の彼らが“欲しい”と思ったソフトウェアを作ったものだという。

 AVとPCを融合させたAV/ITコンセプトを進めてきたのはソニー自身であるが、現在はそのコンセプトも、コンシューマー向けPCでは当たり前のものとなった。AV機能を統合していないメーカー製パソコンの方が少ないと思えるほどである。そのAVパソコンたちが、“ホンモノのAV機器に近づくための試金石”というと言い過ぎだろうか?

ホンモノだから楽しめるマスタリング機能

 さて、SSMSがどんなソフトウェアなのかは、小寺氏の記事にもあるので、ここではあまり多くの字数を割かないが、簡単にいえば音楽レコーディングの現場で使われている技術を駆使して、可能な限り高品質のデジタル音楽データを作り出すためのソフトウェアである。

 できることは、アナログ信号もしくはASIOデバイスから入力したデジタル信号を最高24bit/96kHzの品質でデジタル録音し、イコライザや各種サウンドフィルタを用いて音声データをエンハンス。望みのサンプリングレート、解像度でWAVファイルとして出力したり、CD-Rに音楽CDとして書き出すことである。アナログディスクをデジタルデータに落とし込む市販ソフトウェア「CLEAN」に近い機能だ。しかし、その中身が違う。

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 録音デバイスは通常のマイク、ライン入力以外にレイテンシの少ないASIO 2.0に対応。ASIO対応デバイスからの録音が行える。ちなみにソニーの推奨デバイスはローランド「UA-5」(クリックで拡大)
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 入力音源の種類を選ぶと、自動的にノイズフィルタを入力音源に対してかけることができる(クリックで拡大)

 まず、「Sony Oxford」ブランドの録音コンソール(デジタルミキシングコンソール)が持つパラメトリックイコライザの機能をソフトウェアで実現。さらにデジタルレコーディングの現場には欠かせないWavesのデジタルオーディオエフェクタを3種類組み込んだ。音楽制作に携わるモノなら、誰もが知っている定番ブランド。各エフェクタを単品でマスタリングコンソール向けに調達すると4〜5万円かかる、というホンモノである。

 オーディオエフェクタモジュールはDirectX形式とVST形式に対応し、市販やフリーで出回っているモジュールを組み込むことも可能だ。また、24bit/96kHzのデータを16bit/44.1kHzなどにダウンコンバートする際には、単純にサンプリングレートコンバータを介して落とすのではなく、Super Bit Mapping(SBM)という、市販CDにも用いられる方式で符号化される。SBMを用いると、可聴帯域の量子化ノイズが減り、波形のディテールがより詳細に再現され、結果的にダイナミックレンジも拡張される。

 これは、音質的な影響が比較的少ない16kHz以上の情報量を減らし、その分を中域のダイナミックレンジや分解能を向上させるために使うコーディングテクニックだ。ここ数年の高音質CDを見ると、(各社名称は異なるが)新しいコーディング技術で20ビット相当の音質を実現したCD、とジャケットに印刷されたソフトがあるが、それらと同様の処理を施す機能である。

 SBMについて詳しく紹介しようと思うと、それだけで記事が終わってしまいそうなので、ここでは簡単な紹介に留めることにするが、すでに市販CDのマスタリングに活用されている技術であるため、「sony super bit mapping」といったキーワードで検索すれば、さまざまな情報を見つけることができるだろう。

 このほか、プロ向けのフィルタというわけではないが、カセットテープやアナログディスクからの録音に配慮して、テープヒスノイズやレコード針の摩擦ノイズ、ディスクの傷で発生するプチノイズを低減する機能も備えている。またSSMSで録音したサウンドデータだけでなく、WAVファイルやMP3ファイルなどを読み込んでフィルタリングすることも可能だ。

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 録音時に曲間を自動判別し、マークを挿入する機能もある。自動挿入されたマークはかなり正確だが、印だけなので調整したあと曲ごとの分割を行う(クリックで拡大)

Mastering Studioが持つ4つのエフェクタ

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[本田雅一,ITmedia]



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