特集:ITでこころ・からだ健康に
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6月16日:メンタルヘルスケアは職場から 〜ウェルリンク |
6月17日:(予定)ネットワークで高齢者介護を |
6月18日:(予定)医薬情報はオンデマンド動画で |
6月19日:(予定)障害者を助けるIT技術 |
6月20日:(予定)そのほかの“癒し系”IT機器 |
「メンタルヘルス」という言葉になじみのある人はそれほど多くないかもしれない。簡単に言えば「精神面の健康」のことで、「身体面の健康」に対応する言葉なのだが、実はここのところ注目を集めているキーワードでもある。先日は国内で初めて「メンタルヘルスケア・ジャパン」なる展示会が開催されたほどだ。
このメンタルヘルスに特化し、インターネットを利用してカウンセリング事業などを展開しているのがウェルリンクだ。
ウェルリンクは「Self」という健康診断のチェックシートを用いて、企業とその従業員に対して、データ分析、カウンセリングなどを総合的に行うサービスを提供している。個人に対しては各自の健康状態について自覚を促し、企業に対しては、統計などによって職場環境を認識させるというものである。これはネット上で簡単に行えるようになっている。
ユーザーは各自の情報を登録し、185問の選択式の設問に答えて行く。答え終わると、すぐに現在、自分がどういう状態であるかがグラフと文章で示される仕組みとなっている。回答結果は本人だけにしか分からず、企業に対しては統計データのみが送られる。あくまでも、個人のプライバシーは守られるというわけである。このチェックシートはかなりの大手企業(残念ながら企業名は明かせないが)でも導入されており、高く評価されているという。
「会社は元々、社員の健康を守らなければならないという責任があります。だから、定期健康診断を行っているわけです。そこに、『身体だけではなく心も問題だ』という当然の考え方が出てきました。2000年には労働省(現厚生労働省)から『事業場における労働者の心の健康づくりのための指針』(メンタルヘルス指針)が発表されて、企業の責任という視点で心の健康が取り上げられるようになったんです。このあたりから、各企業が積極的にメンタルヘルスに取り組むようになってきました」(同社専務取締役、研究開発部部長の小西喜朗氏)。
小西氏は社長の宮下研一代表取締役社長とともに、イグジットでCD-ROMやゲーム制作の分野で活躍してきた人間だ。しかしマルチメディアの世界に入る前には、実は保険医療の世界に携わってきた。長い間、健康とデジタルを結びつけることを考えてきたという。その結果として生まれたのがSelfなのだ。
では、同社のSelfの特徴はどんなところにあるのだろうか?
「総合的に、ポジティブに見るというのが特徴です。この世界はもともと、大学の医学部などで扱ってきた考え方を元にしています。すると、どうしても『病人探し』をしてしまう傾向が強いんですね」(宮下氏)。
「(一部の医学部教授などには)ガンは切り落とせばいい、病原菌はなくせばいいという『疾病対策モデル』の考え方があります。しかし、人間は健康に生きて行くための力を持っているんです。その力を高めようというのが、我々のやろうとしている『健康増進モデル』です」(小西氏)。
たとえば仕事量が多い、責任が重い、上司が嫌いでストレスが溜まるとする。疾病対策モデルではともすると「では、仕事量を減らしましょう、責任を軽くしましょう、上司にどこかに行ってもらいましょう」という発想をしてしまう。しかし、それでは企業は成り立たない。そこでよい人間関係を作るにはどうしたらいいか、ストレスに対処するにはどうするか、ということを考えるのが健康増進モデルだという。
現在は元九州大学医学部付属病院講師で、碇精神医学研究所所長の碇浩一(いかり・こういち)氏が監修を担当している。
ウェルリンクがSelfを開発したのは2002年だが、2000年の9月には、健康調査票をネット上で扱う技術を完成させていた。最も早い時期からネットを活用してきたメンタルヘルス・ケア企業といえる。
もっとも、現状では、ほとんどの企業ではSelfを紙に印刷して扱っているという。これには、大きく分けて2つの要因がある。
「一つには、全員がPCで情報を受けられる状況にないという企業が多いということがあります。80%の社員がPCを持っていても、工場には、自分のPCを持っていないスタッフがいる。そうすると、全員の調査結果を得られません」。
「もう一つは、我々が統計を出すためには、締め切りを設定しなければなりませんが……なぜか、ネットでは集まりが悪いんです(苦笑)。締め切りを過ぎても、集まらない。紙の場合は、人事の人が持って行って机の上にバサッと置くから、目に付くんですが……」(小西氏)。
もちろんウェルリンクとしては、チェックテストをオンライン化してしまった方がはるかに効率がいい。紙の場合、印刷する、ホッチキスでとめる、郵送するといった工程をへて、初めてユーザーの手元にチェックシートが届くため、コストがかかる。
しかし、かなり先端的なペーパーレスの会社を対象とした場合でも、やはりオンライン診断は、残念ながらうまく機能しなかったという。
ネット利用率こそ思い通りにならないものの、ウェルリンクの取り組み自体は、概ね好評だという。提携している企業の人事部に対して、従業員から「このようなサービスの存在自体が嬉しい」というメールが届くこともしばしばあるという。
「心の問題がないがしろにされてしまっている、と感じている人が多いんですね。自分達の気持ちをこういうところで言うことができて、確認できるのがありがたいということなんです。心の問題というのは、これまで、あまり大きな声で言えるものではなかったんですが、ようやく企業側が普通の病気に近い意識を持ち始めました。こうして風通しが良くなってきているというのはいいことだと思います。」(宮下氏)
この他、「社員が自発的に病院に行くようになった」という例もある。あまり重要なことには見えないかもしれないが、社員が一命をとりとめた、労災を食い止めた、と考えれば、決して小さな効果ではないだろう。
同社は今後、このSelfをeラーニングにまで発展させるという構想を持っている。
「いずれは、すべてネット利用に移行させていきたいんです。そして、将来的には、eラーニングまで含めたものにしていきたいと考えています。もっと細かくアドバイスするシステムを作ることも可能です。例えば、『食事のバランスのとれたものを』と言うだけではなく、具体的に『カルシウムをこれだけ摂取すればいい』といった話もできますし、ある人に対しては、自律訓練法(*)を指導するといったこともできます」。
*ドイツの神経科医、J・H・シュルツが1932年に考案したとされる、自己暗示を利用したリラクセーションの1つの方法。詳しくはウェルリンクのサイトを参照「技術的にはそこまでできるんですが、まだ人がついてきてくれないというのが現実です。あくまでも、世の中の流れに合わせていかなければなりません」(小西氏)。
現状では、Selfのチェックをオンライン化することはなかなか難しい。しかし、仮にインターネットを利用できれば、大幅な効率化に加えて、発展的なサービス提供も可能になるようだ。実現には、エンドユーザーのリテラシー向上を待たなければならないが、メンタルヘルスケア業界でもオンライン化を指向する動きはあるようだ。
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[姉歯康,ITmedia]
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