リビング+:特集 2003/07/31 05:57:00 更新

特集:“放送と通信の融合”を再検証(前編)
動画配信にメジャー作品が少ない理由

スカイパーフェクTVやBBケーブルTVなど、放送を意識したブロードバンドサービスが相次いで登場している。しかし、実際にブロードバンドでTVと同様に映像が楽しめるかといえば、半分はイエス、半分はノーだ。

 スカイパーフェクTVやBBケーブルTVなど、放送を意識したブロードバンドサービスが相次いで登場している。しかし、実際にブロードバンドでTVと同様に映像が楽しめるかといえば、半分はイエス、半分はノーだ。

 VoDや放送は、新しいキラーコンテンツと目されながら、現在のところ人気アーティストのライブ中継以外はあまりパッとしない。その原因を探ると、現在のブロードバンドインフラに“できること”と“できないこと”が浮かび上がってくる。

 今回の特集では、これまでも再三取り上げてきた動画配信の現状を振り返り、その進捗状況をブロードバンドユーザーの視点からチェックする。なお、厳密には放送(ブロードキャスト)とオンデマンド型動画配信ははっきりと区別されるものだが、今回は両方を取り上げた。前編はオンデマンド配信、後編ではデジタル放送を含むTV放送にフォーカスする。

動画配信にメジャー作品が少ない理由

 せっかくADSLやFTTHを導入したのに、動画配信に見たい番組や映画がない。ハリウッドの最新映画やTV局の人気ドラマを見たい時に見られるのなら、ビデオレンタル店に出かける必要もなくなるのだが……。そんな経験をした人も少なくないだろう。

 例えば映画の場合、“最新作”や“話題作”がブロードバンド経由で視聴できるケースは極端に少なく、あったとしても“名作”と呼ばれるような、時期的には少し前の作品がほとんど。それはそれで良いのだが、やはりタイムリーに視聴したいという需要も多いはずだ。需要の見込めるコンテンツが提供されていないのは何故か。

 結論からいえば、ハリウッドのメジャー作品をVoD配信することは可能だ。最も早いタイミングなら、DVDパッケージの発売から1カ月後。つまりDVDレンタルと同時期に視聴できることになるが、コストに見合わずに実現していないのが現状。ショウタイムの軍師を務める松本タケシ氏によると、「ハリウッドの難しいところは、ミニマムのギャランティを求められること」という。

 視聴する人数の実績や見通しに関わらず、1つの作品を配信したければ、まず契約金と同質のギャランティを支払う必要がある。その金額は「安いもので100万円程度、ハリウッド作品なら1000万円程度から」だ。

 「考え方としては、基本的にTV放映権と同じだ。スカパー!やWOWOWなら、話題性や加入者増を狙って大作でも購入するだろうが、ブロードバンドでは難しい」

 発生したコストは、どこかで吸収しなければならない。しかし、事業者が個々にコンテンツを集めている現状では、ユーザーベースが少ないために、ギャランティなどを支払ったうえで収益を上げるモデルが構築しにくい。大作映画がなかなか増えないのはこのためだ。

 また、ISP各社がコンテンツ連携の合従連衡を進めている理由も同じ。ユーザー数のスケールメリットがなければ、魅力的なコンテンツを集めることができない。

権利処理の煩雑さ

 では、国内で制作された映画や人気ドラマはどうか。「邦画の場合もケースバイケースだが、料金以前に配信できる作品が限られている。著作権を持つ権利者が多く、許可を得るのに時間と労力がかかるためだ」(松本氏)。

 権利者とは、著作権者と著作隣接権者(著作物に付随する権利を有する者)のこと。例えばTVドラマなら、製作会社や監督のほか、脚本家や出演者の一人ひとりまでが含まれ、事前に彼らの許諾を得る必要がある。そして、1人でも「ノー」といえば、その作品をブロードバンドで2次利用することはできない。

 他方、放送局などの放送事業者は、事前に許諾を受ける必要がない。後から使用料は請求されるが、問い合わせや交渉にかかる時間と手間を省く仕組みが出来上がっている。ここが通信事業者と放送事業者の大きな違いだ。

 ただし、当の放送局でも、土俵をブロードバンドに移せば立場は同じ。東京放送、フジテレビジョン、全国朝日放送の3社が2002年初めに設立した企画会社トレソーラも、著作権処理に膨大な労力と時間を費やしていた。同社の原田俊明社長は、「特に悩ましいのが、番組中で使われる音楽。いちいち音楽を確認して、その権利者をたどっていかなくてはならない。外国の曲ともなると、国内でサブライセンスを受けた事業者を特定し、そこからオリジナルパブリッシャーをトレースする。気が遠くなるような作業だ」と話している(記事参照)。

 トレソーラは今年5月、2億9900万円の増資とともに、「引き続き事業性の検証ならびに最適な事業モデルの検討を行うため、企画会社としての活動を継続する」と発表した。増資は行うが、事業会社化は見送る……つまり、ブロードバンド配信の将来性は認めつつも、当面は事業化が難しいと判断したわけだ。この一件が、現在の動画配信事業が抱える課題を象徴しているように思える。

ネット配信を前提に、しかし?

 そうした状況を踏まえ、最近では、より単純かつ確実な方法を取り入れる企業が増えてきた。過去の作品が使えないのなら、当初からブロードバンド配信を念頭に置いて製作すればいい。

 これまでもブロードバンド向けのオリジナル作品は存在したが、その多くはライブ中継など比較的コストのかからないものに偏りがちだった。しかし最近は、TV放映や劇場公開など既存の流通経路にも乗せることを前提として、高クオリティの作品を製作するケースが相次いでいる。

 NTT地域会社がフレッツユーザー向けに提供している「ガンダムSEED」のストリーミング配信が良い例だ。通信会社が広告主になることでブロードバンド配信の権利を獲得し、フレッツユーザーの特典とすることに成功した。韓国では、TV放映中の人気ドラマを、放送後に「見逃し救済」と称してブロードバンド配信する例も多いが、NTTのアプローチも同質のものといえるだろう。

 また、映画製作会社にも同様の動きが広がっている。例えば、先日NTTグループのISP4社にコンピレーションショートフィルム集「Jam Films」を供給したセガとアミューズ。セガによると「企画当初からブロードバンド配信をビジネススキームの中で重要なポイントとして位置付けていた」(セガ、コンテンツプロデュース部の梅村宗宏部長)という。

 「これまで、ブロードバンドは他のウィンドウ(流通経路)とバッティングすると見られていた。しかし、それぞれのウィンドウが連携することでシナジー効果が見込める」。Jam Filmsは7つのショートフィルムが含まれているが、ブロードバンド配信では作品を個別に視聴できるのが最大のメリットだ。

 ただし、多少疑問に感じる点もある。それは、視聴料が1作品あたり300円、7作品パックで1500円ということ。同時期に始まったDVDレンタルとの価格差が大きい。

 梅村氏は、値段よりも視聴機会が増えることが重要だと指摘する。「例えば、TVで放送された映画を見逃し、翌日ビデオを借りる人もいる。(Jam Filmsは)映画館やDVDというチャンスもあるが、忙しくて見に行けない、買いに行けないというケースもあるだろう。そのような人たちでもブロードバンドでなら視聴できる」。

 とはいえ、料金に関しては、DVDパッケージ販売やDVDレンタルといった既存ウィンドウに“配慮”した面があることも認めていた。「既存ビジネスを壊すようなやり方は良いことではない」(同氏)。新米のウィンドウであるブロードバンド配信は、既存の流通手段に対してまだまだ立場が弱い。そんな状況が伺える。

 しかし裏を返せば、ブロードバンド配信には既存ビジネスを壊しかねないほどの市場性を持っているわけだ。ほんの数年前には考えられなかったようなコンテンツが次々と登場している現状を考えると、数年後に配信されているコンテンツを予想することも難しいだろう。

関連記事
▼NTTグループのISP4社がショートフィルムの配信で連携
▼コンテンツ配信の可能性とリスク〜TOKYO FM、トレソーラ、BROBA、スカパー!
▼トレソーラの試みは「プロジェクトX」?
▼ブロードバンド・コンテンツを悲観するテレビ局――トレソーラ原田社長
▼TV新作「ガンダム」をフレッツユーザー向けに無料配信
▼リニューアルした「ShowTime」、次なる戦略

関連リンク
▼ShowTime
▼Jam Films
▼トレソーラ
特集:“放送と通信の融合”を再検証 1/5 次

[芹澤隆徳,ITmedia]



モバイルショップ

最新CPU搭載パソコンはドスパラで!!
第3世代インテルCoreプロセッサー搭載PC ドスパラはスピード出荷でお届けします!!

最新スペック搭載ゲームパソコン
高性能でゲームが快適なのは
ドスパラゲームパソコンガレリア!