リビング+:特集 2003/10/20 23:59:00 更新

特集:秋の夜長はイーブックで過ごす
何が売れ筋? 電子書籍コンテンツ

専用端末の登場もあり、注目が高まっている電子書籍(イーブック)ビジネス。サービスの現状と事業者の思惑、あるいは新しく登場する読書専用端末の性能などを、多角的に紹介しよう。

 2兆3000億円と、10億円――。

 これはそれぞれ、現在の出版業界と、電子書籍ビジネスの市場規模を表す数字だ。イーブック市場は、立ち上がり始めたとはいえ、その規模はいまだ出版業界全体の0.04%。全体でみれば、微々たるものに過ぎない。

 ただし、成長率となると「前年比40〜60%」と高いのも、電子書籍業界の特徴だ。コンテンツのダウンロード数でいうなら、業界2位とされる10daysbookの売上は月間2万ダウンロードとなっているが、これは前年比600%となっている。今後この数字は、加速度的に伸びるのではと期待されている(*文中のデータは、いずれもインプレス「電子書籍ビジネス調査報告書2003」による)。

 今年の秋からは、待望の読書専用端末「ΣBook」が登場してくるほか(記事参照)、これを好機と見た業界が団結して電子書籍ビジネスコンソーシアムを設立(記事参照)。ビジネスの総合プロモーションに乗り出すなど、ここにきて明らかに機運の盛り上がりが感じられる。

 Living+では、今日から5日間にわたって特集「秋の夜長はイーブックで過ごす」をお送りする。活性化し始めたサービスの現状や、各事業者の思惑、あるいは今後登場してくる可能性のあるデバイスの特性などを、多角的に紹介しよう。

何が売れているのか?

 特集第1回目のテーマは、「電子書籍で何が売れ筋なのか」だ。単純な問いだが、この答えによって電子書籍ビジネスの現状が明らかになってくる。イーブックユーザーは、ネットに何を求めているのか?

 「楽天ダウンロード」でイーブックコンテンツの配信に携わる、楽天の杉原章郎取締役は、扱う商材には「偏りがある」と話す。

 「30〜40代が懐かしいと思うようなコミック、あるいはアイドルの写真集が売れている」(同)。たとえば、深夜に手塚治虫の「ブラック・ジャック」シリーズを、30分に一冊のペースで次々とダウンロードしていくユーザーなどが目に付いて、興味深いという。

 凸版印刷の情報・出版事業本部、企画販促本部のEビジネス部プロデューサー、加瀬裕之氏も、電子出版では「新刊より、既刊で年月のたったものを、バックナンバー的な意味合いを含めて」提供していると話す。

 中でも売れ行きが好調なのは、「SF、ファンタジー、ソフトな官能小説など」。ほかに、「どこまで“電子書籍”の定義に入るのか分からないが、フォトマガジンというか、写真集のようなものも人気がある」。

 同氏はまた、イーブックユーザーを「リピーターになりやすい、いい意味のコアユーザー」と表現。コンテンツに対する“欲求度”が高いとした。

 「Space Townブックス」で毎月1万5000〜2万ダウンロードの実績を持つ、シャープSST推進センター所長、谷口実氏は、同じ質問にやはり「30〜50代男性の好みのもの」と話す。

 具体的には、「鬼平犯科帳」や「プロジェクトX」などが挙げられる。同社はそれぞれのコンテンツを、1〜2章単位で販売するなど、ネット配信上の工夫をこらしているという。

 谷口氏はまた、携帯電話を利用したコンテンツ配信の分野では、少々状況が異なるともコメント。20代の女性が、小説や詩、エッセイやコラムといったジャンルのメールマガジンを、携帯の画面で読んでいるという。「雑誌感覚で読む、新しいコンテンツが望まれる」(同)とした。

新刊の取り扱いも増加傾向?

 再度「電子書籍ビジネス調査報告書2003」をひもとくと、イーブックユーザーのうち8割は男性。年代比では、30代、40代、20代の順に多くなっているという。これは、上記の結果と符合する内容といえるだろう。

 ちなみに、同報告書は「ケータイ新潮文庫」の場合は3分の2が女性ユーザーだとも言及している。こちらは、20代、30代といった年齢層が中心になっているようだ。

 とはいえ、概ね中年男性をターゲットにした市場が形成されていることには間違いない。事業者側は電子書籍のアーカイブ性を活かし、過去の作品をネット上に揃える。これが一定の支持を集めている、という状況だろう。

 それでは電子書籍では、新刊はあまり登場してこないのか? だが近年、新刊をイーブックで扱った事例も増えつつある。

 たとえば前出の凸版印刷では、2003年芥川賞受賞作「ハリガネムシ」の電子書籍版を配信している。価格は、700円で、さらに200円のコンテンツチケットプレゼント付きとなる。

 これに合わせて、歴代芥川賞受賞作品から3作品を選び出し、セットにして販売する「芥川賞スペシャルBOX」も1200円で販売する(300円のコンテンツチケットプレゼント付き)。「電子書籍では、紙の書籍より単価を落とし、パックなどを作って販売することになる」(加瀬氏)。

 シャープの谷口氏は、従来はイーブックに対して出版社がネガティブなイメージを持っていたこともあり、絶版された書籍、著作権が切れた書籍などを電子化するという事情もあったと話す。

 しかし、現状では紙とデジタルの新刊同時発売も、行われるようになってきた。「価格の差別化、イーブックだけの特典、分冊提供、簡易動画/サウンドとの連携」(同氏)などの工夫で、市場に訴求を試みている段階のようだ。

 事業者の話を聞くと、やはりまだ思うように新刊を揃えられていない状況のようだが、各出版社も市場の拡大を見て、新規参入を決めつつあるという。現状の「旧作のアーカイブが主体」のコンテンツラインアップに、話題の新作、および“ネットだけの書き下ろし”が多く加わってくると、業界はますます活性化するだろう。

(次回は、電子書籍専用デバイスについて扱います)

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[杉浦正武,ITmedia]



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