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2003/11/17 18:32:00 更新 |
鈴虫の声も聞こえるIP電話、沖電気から
「鈴虫の鳴き声は、電話では聞こえない」〜そんなトリビアは過去のモノになりつつある。沖電気工業が開発した「e音IPフォン」は、これまで電話では伝わらなかった音を聞こえるようにしてくれるIP電話だ。
沖電気工業は11月17日、従来の電話機よりも高い音質で通話できるIP多機能電話機「e音IPフォン」を発表した。音声コーデック「G.722」に独自の音声処理技術をくわえ、従来の倍に当たる50Hzから7000Hzという広い周波数帯域で通話可能にした。企業向けのIP-PBXを皮切りに、コンシューマー向けIP電話への適用も進める。
沖電気工業執行役員、IPソリューションカンパニープレジデントの浅井裕氏
通常、電話が伝送できる音声周波数は、300〜3400Hzの間(3.4KHz幅)だ。これは、人間の声の周波数が4000Hz以下、可聴域は3400Hz以下とされているため。鈴虫の鳴き声は、より高い周波数(4000Hz以上)にあたり電話では聞こえなくなる、というのも有名な話だ。
沖電気工業、IPソリューションカンパニーの浅井裕プレジデントはこう語る。「電話の音質は、電話線のノイズや漏話による音質劣化など制約の多い中で使われている。伝送システムを効率化するためにぎりぎりに絞り込んできたという背景もあるだろう。しかし、このブロードバンドの時代に、なぜ3.4KHzのままなのか」。
同社が開発したe音IPフォンは、TV会議などに使用される広帯域の音声符号化方式「G.722」を採用し、従来の倍に当たる50〜7000Hzの音声帯域を確保。これに「エコーキャンセル技術を含む、音声信号処理技術の高度化と、それを処理するための高性能DSP」を組み合わせたことで、それまでは伝送できなかった音まで聞こえるようになったという。
「e音IPフォン」(左)と同社従来製品(右)の音質比較デモ。ビットレートは64Kbpsのままだが、e音IPフォンの音は電話というよりもテレビやFMラジオに近い印象だ
音声帯域の比較。人間の声は従来型の電話でも可能だが、それ以外の部分が臨場感を演出するという
その効果は、単に「音がいい」にとどまらない。たとえば、英語やロシア語などの外国語は、日本語よりも子音が重要で、しかもそれは高い音声周波数帯域を使うのだという。電話になると、とたんに英語が聞き取り難くなるのはこのため。しかし、音声周波数を拡大したe音IP電話なら、海外を交えたTV電話はもちろん、英会話などeラーニングアプリケーションも聞き取りやすくなる。また、周囲の音やBGMは「FM放送並みの音質」となり、放送型サービスなどのメリットも大きいという。
浅井氏は、音質の向上によってVoIP関連市場の成長は、これまでの予測を2割程度上回るペースで拡大するとした。「IP電話は、単なる要件の伝達手段から感性を伝えるコミュニケーション手段に変わる。(e音IP電話で)VoIPは第2幕に入った」。
コンシューマー向けIP電話の可能性
今のところ、この技術はIP-PBX「DISCOVERY 01」の端末として開発された「e音IPフォン」同士でしか利用できない。ただし、技術的には、「アナログ電話にも適用できる」もので、一般的なIP電話向けの製品開発も完了しているという。
コンシューマー向けIP電話に適用する場合、コーデックが異なるため、VoIPアダプタを置き換える必要があり、同時にマイクやスピーカーも相応の品質が求められる。「既にVoIPアダプタの試作機は完成しており、電話端末のインタフェースや要件をメーカーに提供する用意もある。また、部材レベルの価格差はさほど大きなものではない」(同社)。
既に「ほぼ全てのIP電話キャリアに対して売り込みをかけている」という沖電気。鈴虫の声も聞こえる電話が家庭に入るのも、そう遠い未来の話ではないかもしれない。
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沖電気工業
[ITmedia]