価値観の多様化に伴うライフスタイルの変化、物価高騰、人手不足など、小売業はさまざまな課題に直面している。従来の対面型店舗ビジネスから電子商取引(EC)サービスまで、消費者の新しい購買行動に合わせてタッチポイント(顧客接点)を拡大し、購買体験の快適さを高めて売り上げを拡大する「次の一手」を打ち続けなければならない。
持続可能な成長を目指す小売業にとって、特に重要度の高い課題は何だろうか。富士通の松本良浩氏(Consumer Experience事業本部 エグゼディレクター)は、次の3点を挙げ、「これは日本だけでなく、店舗でのビジネスを起点としてきた小売業にとってグローバルで共通する課題です」と強調する。
その上で松本氏は「消費者の満足度を高め、頻繁な購買を促すには、オフライン、オンラインで統一されたより良いCXを提供する必要があります。CXが高まれば、顧客のエンゲージメントは高まり、購買頻度、客数増加、クロスセル・アップセル施策が効きやすくなり、売り上げ増が見込めます。CXの向上を考えるには、店舗で数多くの業務を担いながら、接客を通じホスピタリティを提供する従業員のEXの向上も欠かせません。店舗での労働集約的な業務のデジタル化と、従業員が高いモチベーションを維持して働ける環境が整っていけば、生産性とスキルが高まり、ひいてはCXの向上につながるからです。これらの連続的な改善を視野に入れたDXを目指すのが理想的な道筋です」と話す。
オンラインビジネスの台頭、少子高齢化に伴う国内人口の減少を踏まえると、さらなる成長のためには海外進出や海外展開の加速、業種業態の拡大も考えざるを得ない。特に海外進出、展開加速を考える小売業にとってはこれら3つの課題に加え、海外ガバナンスを備えた「グローバルなコマースプラットフォーム(消費者接点となるIT基盤)の統一」が重要な課題となる。
多拠点、多店舗、他業態を展開する小売業がこれらの課題を解決するためには、コマースプラットフォームをどのように変える必要があるのだろうか。この問いに対して松本氏は「既存のモノリシックなアーキテクチャで構成されたPOSシステムの上にポイントソリューションを足していくのではなく、あらゆるチャネルのお客さまとの取引に必要な共通機能をマイクロサービスで実装し、API駆動型で統合していく『ユニファイドコマースプラットフォーム』に刷新すること、かつそれを日本だけでなく海外も共通プラットフォームとして活用することが重要です」と説く。
ユニファイドコマースとは、顧客とのあらゆるチャネルを統合し、顧客一人一人に最適なCXを提供する手法だ。そのシステム基盤は、複数のタッチポイント(顧客接点)に対応できるものでなければならない。実店舗だけでなくECサービスやSNSなどのさまざまなチャネルで企業ブランドと接触できる今の時代、全てのチャネルで良い体験を提供する必要があるため、複数のタッチポイントに対して包括的かつ標準化して対応できるシステム基盤が求められる。
ユニファイドコマースの基盤は、複数の店舗とECサービスに一貫性のある機能を提供でき、運用管理が一元化できるものであることも重要だ。全社で利用するツールやシステムがつながっていなければデータの集約が難しく、データ分析のスピードや精度を確保しにくい。店舗とECサービスのシステム連携、ひいてはOMO(Online Merges with Offline、オンラインとオフラインの融合)を前提としたCXの向上も難しくなる。
海外にも店舗展開している小売業の場合、国内と海外では異なるシステム基盤を利用していることがある。「海外店舗で利用するシステムは現地に任せ、日本本社のIT部門はその権限を海外に委譲している企業は珍しくありません」と語るのは、富士通米国拠点での勤務経験がある村田寛和氏(Consumer Experience事業本部)だ。国や地域ごとに異なる税制、法制度、商流などのさまざまな制限があるため、本社主導ではシステム選定や導入をフォローしきれない――そのため、POSシステムやEC基盤など必要なシステムを「各国のニーズ優先」で現地調達し、現地で管理することになる。結果、各国拠点で個別最適化が進んでしまい、本社のガバナンスが効かず、グローバル全体のITマネジメントやTCO(総所有コスト)の最適化ができないという問題が起きがちだ。
グローバル共通のユニファイドコマース基盤を構築すれば、こうしたガバナンスや運用管理の懸念も解決できる。新しい国に進出する際には、共通のシステム基盤に個別のローカル要件を足すだけで済み、出店計画を迅速かつ安全に進められるようになる。
ユニファイドコマース基盤をグローバルベースで統一することは、かつては実現が難しかったが、クラウドサービスの進展で実現が容易となった。クラウドサービスなら業務ニーズに応じてITリソースを拡大・縮小しやすく、初期コストとランニングコストの削減にもつながる。その他重視したいシステム要件としては、利用中の業務アプリケーションとの連携、特に基幹システム(ERP)やサプライチェーン管理(SCM)システムと連携できるかどうかもポイントだ。
社会課題解決に向けたグローバルソリューション「Fujitsu Uvance」を擁する富士通は、2023年5月にGK Softwareの公開買付けを完了し、Uvance CXのコアソリューションの一つとして、全世界の小売業向けにGK Softwareの「CLOUD4RETAIL」の提供を開始した。GK Softwareは欧州をはじめ世界66カ国に500社以上のユーザー企業を持つ、小売業特化のソフトウェア企業だ。現在は富士通の連結会社となっている。
CLOUD4RETAILは、ユニファイドコマースを実現する前述の要素を備えたコマースプラットフォームといえる。主な特徴として松本氏は、
の3点を挙げる。
CLOUD4RETAILには多様なアプリケーション機能(店舗でのチェックアウトを基本としながらも、CXやEXの向上に資する多種多様な機能)が実装されている(図1)。CX向上を目指して新しい機能を追加するために別の製品を追加する必要はなく、統一基盤の中で必要な機能を随時追加できる。店舗のPOSやモバイルPOS、セルフレジ、レジ無し店舗システムはもちろん、オンラインを含めたさまざまなチェックアウトバリエーションに必要な共通機能はプラットフォーム上に実装される。富士通が戦略的パートナーシップを結ぶSAPのERPとは標準機能として連携できるようになっている。GK SoftwareはAI技術を活用したパーソナライゼーションやダイナミックプライシングを実現するアプリケーションも提供している。クラウドに販売・接客データを蓄積した後は、AI技術を使ってデータ分析し、新たな洞察を得ることができる。各国法律や税制対応は「カントリーパック」と呼ばれる機能を標準機能として提供している。
これらの要素が、海外進出や新業態展開の迅速化に貢献している。全ての国・店舗で同じコマースプラットフォームを採用し、その基盤上で国による業務要件の差異を吸収すればシステム開発・運用、維持・管理におけるガバナンス向上に加え、効率化、個別開発極小化などを通じトータルコストダウンのメリットが期待できる。小売業は労働者不足に伴い、外国人や高齢者を登用する機会が多い。統一されたシステムと標準化した業務フローは、従業員の働きやすさ、スキル習熟効率、生産性にも大いに寄与するはずだ。
CLOUD4RETAILは「Microsoft Azure」上のSaaS型サービスとして提供されるが「お客さまのご要望によっては、他の主要なパブリッククラウド上でも活用可能です」と村田氏は説明する。既に日本市場には「専門店向けのローカライズ版」をリリースしており、「次は量販店向けのローカライズ版をリリース予定です」と松本氏は話す。この量販店向けローカライズ版は、日本の商習慣に沿った量販店特有の機能を標準機能として加えて提供するという。
GK Software製品の導入企業はグローバル500社以上に及び、CLOUD4RETAILだけでも数多くの導入事例がある。Aldi Nord、Walmart、Lidl、Adidasなど、名だたる大手小売業がCLOUD4RETAILを採用し、DXを通じてCX、EXの向上を進めている(図2)。「日本進出を目指す海外小売業が、システム移行期間を短縮するために採用いただくケースもあります」と村田氏は語る。
図2 GK Softwareが選ばれる理由(出典:富士通提供資料。市場シェアのデータは「RBR Data Service Report Global POS Software 2023」に基づく)《クリックで拡大》さらに富士通はCLOUD4RETAILに、自らの独自技術を付加したソリューションを組み合わせ、グローバルに提供していく。カメラとAI技術を組み合わせた「セルフレジのスキャン漏れ、不正防止のソリューション」(Profit Protection for SCO)や、データ分析による「従業員の不正検出ソリューション」(Profit Protection for Monitoring)、店舗内IoTセンサーから収集した情報に基づく「店舗運営効率化や環境負荷軽減のソリューション」(IoT Operation Cockpit)など、ユーザー企業のニーズに応じてさまざまな解決策を提案できる(図3)。
ITの進化と消費者需要の変化に伴い、レジ無し店舗システムや、オンラインで注文して店舗で受け取る「BOPIS」(Buy Online Pick up In Store)など、新しい形態はますます広がりを見せている。消費者とのあらゆる商取引に幅広く対応できるCLOUD4RETAILは、これからの小売業にとって事業拡大の要になり得る。「POSシステムのリプレース時期が迫っている企業、オンラインを含めたプラットフォームの統合を検討する企業、海外進出を検討中または加速させたい企業などに、積極的に提案していきたいです」と松本氏は意気込みを語る。「単に既存のPOSシステムをリプレースするということではなく、小売業向け次世代のユニファイドコマースプラットフォームであるCLOUD4RETAILとそのオールインワンソリューションの活用、そして富士通の技術・付加価値をアドオンすることで、小売業のDXを加速できます。トップラインの拡大に向けたCXの向上を進める一方で、人手不足が深刻化する中では、生産性の向上と従業員の働きやすさは店舗運営の要です。さらにはサステナビリティの追求、海外進出や事業の多角化など、小売業が直面するさまざまな課題に対して、富士通はGK Softwareと共にその解決を支援して参ります」(松本氏)
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アイティメディア営業企画/制作:ITmedia ビジネスオンライン編集部/掲載内容有効期限:2025年6月12日