生成AIの活用が広がる中、企業の支持を集めているツールが「Microsoft 365 Copilot」だ。Office製品の中でAIエージェントを起動できるなど業務利用に適しており、ビジネス向け生成AIの代名詞の一つになっている。「Copilot活用」と言うと外資系企業や首都圏の企業が目立つが、地方からも“AIフロンティア企業”が登場している。
大阪市で創業された参天製薬(以下、Santen)は、Microsoft 365 Copilotをグローバル全社に導入することを決断。先行導入の時点で、一人当たり年間約70時間の業務削減が確認できた。大阪市に本社を構える大和ハウス工業では、Copilotユーザーの90%以上が「期待通りの効果が出ている」と評価した。北陸の地方経済を支える北國銀行を傘下に持つCCIグループは1ユーザー当たり月平均約7.5時間の業務削減に繋がっている。
華々しい数字が並ぶが、ツールを導入するだけではAI活用の文化は根付かない。3社が採った戦略は、Copilot活用の推進役として「アンバサダー」を育成し、Copilot活用のムーブメントを現場から広めるというものだ。アンバサダー制度を採用してから大和ハウス工業は約3カ月、SantenとCCIグループは約1カ月が経過し(記事執筆時点)、一定の成果を挙げた各社は、他社との共創によって新たな価値を生み出そうとしている。
3社はAIのさらなる活用と定着、価値の創出をどのように実現するのか。近畿、北陸地方のアンバサダーが多く集まったイベント「アンバサダーわくわく社外交流会」に参加し、アンバサダーたちの熱意にあふれた取り組みを取材した。
戸建て住宅や大型物流施設などの設計・建設を手掛ける大和ハウス工業は、「共に創る。共に生きる。」という企業姿勢になぞらえてAIを共創パートナーと捉えている。同社の芥田貴之さんは「Microsoft 365 Copilotは『ミクロなAI活用ツール』」と表現した。汎用(はんよう)的なAIチャットツールに対して、Microsoft 365 Copilotは一人一人の業務に寄り添って各人の手になじませることで価値を発揮する――そう期待してMicrosoft 365 Copilotのトライアルを開始。社内展開の方法を模索した。
「従来と同じITツールの展開方法では受け身になってしまいました。従業員の手にCopilotが届いてからが本番なので、これまでとは違う発信方法が必要でした。そのためデジタル部門を中心にアンバサダーを選抜しました」
アンバサダーを挙手制にしてAI活用に関心がある従業員に参加してもらい、Microsoft 365 Copilotの活用アイデアを議論するワークショップでアンバサダーの交流を促した。その熱量を全社に広げるために、社内SNS「Microsoft Viva Engage」に「コパトークコミュ」を開設。アンバサダーが「この使い方が便利」「この新機能いいね」と盛り上げたことで、コミュニティーが活性化した。利用を望む声が増え、Microsoft 365 Copilotのライセンス数は1000を超えた。
大和ハウス工業のアンバサダーの1人が紹介したのは、「Microsoft Copilot Studio」を使って自業務に適したAIエージェントを構築し、リサーチやBIツールの操作を効率化させている例だ。「困り事や反復作業があるならエージェント化するチャンスです」と助言した。
Santenは、眼科領域における医薬品の研究開発、製造、販売・マーケティング活動をグローバルに展開している。長期的な成長を見据えたIT活用を推進しており、オフィスワークの効率化とともに、生産性や創造性の向上を目的にMicrosoft 365 Copilotの全社導入を決めた。
「日常業務の負担を軽減し、空いた時間で価値創出につながる仕事に集中できるようにすることが目的です。Microsoft 365 Copilotのダッシュボードによると、業務時間を1人当たり月間約5時間削減できています」とSantenの大東達也さんは説明した。
導入初期の数百アカウントでは月間アクティブ率が98%以上に上ったが、全社導入後は低下している。この変化を予測していたSantenは、定着や成果の創出を狙ってアンバサダー制度を導入したのだ。大東さんは「Copilotは部門によって便利な使い方が異なります。『自分の業務に適した使い方がある』と思ってもらえるように、ユースケースを見つけて発信する人を部門ごとに増やすことが大切です」と話した。
Copilotを積極的に使う人を「スーパーユーザー」、チームや部門内に活用例をシェアする人を「アンバサダー」、アンバサダーを統括して戦略的に動く人を「アンバサダーリード」に任命し、営業部門やバックオフィス部門で活動してもらっている。Santenがアンバサダー制度を仕込んでから1カ月がたち、成果が出始めていると大東さんは述べた。
あるアンバサダーリードは「薬剤に関連する資料を作成するのに時間がかかっていました。Copilotに作らせたところ、完成度70%のものが出てきて業務時間を大幅に削減できました」と話した。
石川県に拠点を置き、北國銀行などを傘下におく北國フィナンシャルホールディングスは、「さあ、協創社会へ。」というメッセージを掲げてホールディングスの名称をCCIグループに変更した。新体制でオープンイノベーションを加速させるため、非金融業務を含むあらゆる業務の効率化のきっかけとしてMicrosoft 365 Copilotを積極的に活用したいと同社の田村一希さんは語った。
「最初はROI(投資利益率)を気にしていましたが、使えば使うほど価値が高まっていく様子を見て『ROIありきでなく、ポジティブに推進したい』と考えが変わりました」
企画業務のアイデア出しや資料作成にMicrosoft 365 Copilotを使うケースが多い。約900ユーザーへのアンケート調査によると、1ユーザー当たり月平均約7.5時間の業務削減効果を感じているという。目下の課題は「『Copilotエージェント』をイノベーターしか使っていないことです」と田村さん。アンバサダー活動によって社内に広げたいと考えている。
CCIグループはアンバサダーを「チャンピオン」と呼んでおり、「Copilotに興味を持ち、自分で手を動かし、周囲に波及させる情熱のある人」と定義している。「チャンピオンアクティベーション」という育成企画によって、自部署の課題解決やノウハウの社内展開を主導するチャンピオンを100人に増やす計画だ。
イベント後半は、アンバサダーとチャンピオンが意見を交換する交流会の時間があった。熱い議論が交わされたのは、アンバサダー活動の課題についてだった。
Santenのアンバサダーから「Copilotの活用例や業務への適用方法について、対応し切れないほど多くの相談が寄せられています」と関心の高さを示す声が上がった。大和ハウス工業のアンバサダーも「活用サポートの手が足りません」と話し、“熱量が高い人”を優先してフォローしている状況がある。熱量が高い人をアンバサダーに迎え入れ、現場ユーザーの活用支援や一層の社内展開につなげる仕掛けが求められる。
「Copilotって何?」という従業員がまだまだ多いことも各社の悩みだ。「分からないからマニュアルを見ない」「機能が多過ぎて使いこなせない」という従業員がいたりする。Santenのアンバサダーは「そういう方の心に火をいかに付けるか。チェンジマネジメントが重要ですね」と同意した。CCIグループのチャンピオンは「いきなり業務に結び付けるのではなく、楽しむアプローチを選びました」と紹介し、画像生成やミュージックビデオ編集など遊びに近いことから始めると拒否感が生まれにくいと話した。
Santenのアンバサダーは「非効率な業務をひた向きに続ける方はそれを課題だと認識していないため、Copilot活用を促しにくい」という問題を提起。同様の課題に直面したCCIグループのチャンピオンは「Copilotで変わる法人営業の1日」と題した勉強会を開き、業務の流れをなぞりながらMicrosoft 365 Copilotの使いどころを紹介することで有用性を伝えたと話した。
建設、製薬、金融という異なる分野の企業と触れ合うことで刺激を受けた参加者が多かったようで、「自社だけで悩みを抱え込むのではなく、他社と交流することで得られる気付きがありました。頑張りを共有し合うことでモチベーションを維持できます」という感想が聞こえた。
イベント1日目はアンバサダーが集まる「アンバサダーわくわく社外交流会」、2日目は事業部門向けのプロンプトソン「わくわく!Copilot& Agent Day」、3日目は推進担当の西日本ユーザー企業コミュニティー「Engage West」が開催された。プロンプトソンの参加者の1人は「『Copilot Agent』を初めて使って『難しいな』と感じました。社内に展開する際は私が教える立場になれるように頑張ります」と意気込んだ。ツールを導入するだけでなく、新機能を従業員に広げる上でもアンバサダー制度が役立ちそうだ。
イベントの仕掛け人であり、アンバサダー制度を提唱したのがEngage Squaredだ。国内200社以上のMicrosoft 365 Copilot導入や定着を支援、相談した実績が認められ、日本マイクロソフトの表彰制度「Microsoft Japan Partner of the Year 2025 」の「Copilot&Agent部門」を受賞した。同社の宇留野彩子さんは、AIエージェント活用について次のようにアドバイスする。
「技術中心ではなく『ユーザー視点』で取り組むことが重要です。技術的な難易度と成果は必ずしも比例せず、構築が容易なAIエージェントでも大きな成果を創出できます。その際、全従業員の悩みを一度に解決しようとするのではなく、現場の悩みや業務のペインポイントをユーザー視点で理解し、少人数や特定業務向けのAIエージェントを作ると効果的です。PoC(概念実証)を起点に、ユーザーからのフィードバックを踏まえて改善する姿勢も欠かせません」
3日間のイベントを通して、西日本や北陸など多くの企業が参加した。同社はMicrosoft 365 Copilotの活用を西日本、ひいては全国に広げる考えだ。
「アンバサダー、事業部ユーザー、推進担当者など多様な立場の皆さまと共に、関西から日本全体を盛り上げていくための『仕掛けづくり』に取り組みました。東京の先行事例に続き、関西から全国、グローバルへと広がる『変革』を実現していきます。当社のコンセプト『<people> friendly technology』を軸に、アジア太平洋地域における支援実績と知見を生かし、技術導入にとどまらない真の変革を後押しし、日本をより元気にする取り組みを今後も続けます」(宇留野さん)
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