Box Driveを廃止し、ブラウザ利用に一本化する――。日本触媒が下したこの決断が、Boxの浸透を促すターニングポイントになった。従業員の反発が予想される中、同社はいかにして混乱を乗り越え、真の定着を実現したのか。
紙おむつなどに使われる高吸水性樹脂で世界有数のシェアを誇る素材メーカー、日本触媒。同社は2022年からクラウドストレージサービス「Box」を全社展開し、2026年1月時点で3000ライセンスを運用している。特筆すべきは利用率の高さだ。多くの企業がBox導入後の運用に苦心する中、同社では多くの従業員が日常的にBoxを使い、さらに「こんな機能も使ってみたい」という前向きな声が次々と上がっている。
この成功の背景には、丸紅I-DIGIOグループの丸紅ITソリューションズ(以下、MISOL)によるカスタマーサクセス支援がある。Boxの運用において、頻繁な仕様変更への対応やセキュリティリスクの管理、利用の定着といった課題は避けられない。Boxに精通した専門家の伴走支援が、投資対効果の最大化にどう貢献するのか。日本触媒の実践から探る。
日本触媒がBox導入を決めた背景には、研究現場の切実な課題があった。同社の高岩聖悟氏は、研究者として化学プラントの運転状況の解析を担当していた当時、出力される運転データの保管場所に悩まされていた。
「化学プラントには数百個のセンサーが配置されており、原料投入から製品採取までの間に膨大な運転データが生成されます。全てのデータを保存する必要があり、ファイルサーバの容量を圧迫していました」
ファイルサーバの容量を圧迫する要因は他にもある。原子レベルまで観察できる高精度の電子顕微鏡で撮影した画像は、1枚でファイルサイズが数十GBに上る。複数枚を撮影すると1つのサンプルだけで膨大な量になる。その保管場所も課題になっていた。
オンプレミスのファイルサーバの運用に限界を感じていた高岩氏は、研究担当役員にBoxの導入を上申。その結果研究部門への導入が決まり、2021年に運用を開始した。
その運用が軌道に乗ると、新たな課題が浮上した。研究部門と営業部門は製品開発において密接に連携するが、営業側がBoxにアクセスできず、研究データの共有に支障が生じた。データの保管場所の不足という課題を営業、生産、管理部門も抱えており、日本触媒はBoxの全社展開を決断した。
このタイミングで日本触媒は、Boxの契約代理店をMISOLに切り替えた。決め手はBox連携ソリューションの充実度だ。特に大量データ移行ツール「Rocket Uploader」は、研究部門が当初導入した際に経験したデータ移行の課題を解決できる性能を持っていた。アカウント管理を自動化する「CSV Sync for Box」、セキュリティポリシー違反を自動で検知・対処する「Light CASB for Box」の存在も大きかった。
2022年8月にBox移行プロジェクトをキックオフし、同年12月に本格的なデータ移行を開始。2023年3月に全社展開を完了させた。同社の野口むつみ氏は、MISOLに提案された運用設計が重要だったと振り返る。
「統制型という運用方法をMISOLに提案していただき、コンテンツの所有権を個人ではなく組織が管理するセキュアな仕組みを構築しました。人事異動時のアカウントやフォルダ権限の変更は「CSV Sync for Box」によって自動化され、IT部門の運用負荷が大きく軽減しました」
全社展開に当たって日本触媒は大胆な決断を下した。それまで研究部門で300〜400人が利用していた「Box Drive」の廃止だ。
Box Driveは、Boxをローカルドライブのように扱える機能だ。便利だが、統制型運用との相性に課題があった。統制型運用では、コンテンツの所有権を個人ではなく組織が管理する。しかしBox Driveはユーザー企業のローカル環境にデータを同期するため、この方針と矛盾が生じる。ネットワーク帯域の負荷も懸念材料だった。
同社はセキュリティと運用管理を優先し、Box Driveの利用停止を決めた。すると予想通り、従業員から多数の問い合わせが寄せられた。IT統括部には従業員からの電話やメール、直接訪問が1日に何件もあった。高岩氏は当時の対応を振り返る。
「Box Driveの利用を停止することで従業員からの不満や批判が出ることは想定していました。役員からも見直しを求める意見が出ましたが、『セキュリティ上の理由です』と回答するだけにとどめて、廃止する方針を貫き通しました。時間がたてば慣れると確信していたためです。実際、半年ほどで状況は落ち着きました」
同時に、オンプレミスのファイルサーバも停止してBoxを使わざるを得ない状況にした。結果として、ほぼ全ての従業員がBoxを日常的に利用するようになった。
日本触媒が高いBox利用率を維持している背景には、MISOLのカスタマーサクセス(CSM)による手厚い支援がある。MISOLでCSMを担う関川春奈氏は、定例会を通じた支援についてこう語る。
「日本触媒さまとの定例会では、利用状況のレポートを中心に、各機能の利用率を確認しながら最新情報を共有しています。また、ニュースレターを毎月発行してBoxの新機能について説明しています」
日本触媒の羽栗雄平氏(羽は、中の線が「ノ」2つの旧字体)は、MISOLのサービスを高く評価する。
「『課題があればMISOLに相談すればいい』という安心感があります。サポートデスクの対応も手厚く、返信も迅速です。Boxの機能追加や廃止の情報、ロードマップ、ユースケースの情報提供は非常に有意義で、こちらの要望にも柔軟に対応していただいています」
MISOLは新機能のリスクをユーザー企業に包み隠さず伝える姿勢を貫いている。同社の稲垣宜彦氏は「新機能が発表されると検証し、利点だけでなく注意点もお伝えします。ユーザー企業が自社環境で検証する前に当社が先行して検証して問題点を把握していることも多いです。工数はかかりますが、それが自分たちの学びにもなっています」と説明する。
この徹底した検証姿勢がセキュリティリスクの低減につながったケースもある。野口氏はこう振り返る。
「リリースされたある新機能の全社展開を検討していました。しかし、MISOLの検証で当社の運用方法ではリスクがあることが判明し、助言を頂いて展開を中止しました。セキュリティインシデントの可能性を未然に防止できたと考えています」
日本触媒のIT統括部も、Boxのさらなる浸透に向けて積極的に活動している。東京や兵庫など、国内の各事業拠点に年1〜2回出向いて勉強会を実施。「オンラインよりも対面の方が気軽に質問してもらえる」(野口氏)という。1時間半の勉強会後は個別相談に対応しており、この時間が大きな効果を生んでいる。新機能の紹介だけでなく各部署の活用事例も共有し、個別相談では業務に即した具体的な相談が寄せられるという。
羽栗氏は、こうした積極的な姿勢の背景に企業文化があると分析する。
「当社は技術系人材の比率が高いためか、新しい環境に適応し、カスタマイズして使いこなそうとする志向が強いと言えます。従業員からは『こんな機能はないか』『新しい機能を使いたい』といった前向きな問い合わせが寄せられます」
MISOLの専門的な支援と日本触媒の積極的な姿勢が、高いBox利用率を実現している。
日本触媒は当初Boxの「Business Plus」プランを導入したが、現在は「Enterprise Plus」にアップグレードしている。目的は生成AI機能と「リーガルホールド」機能だ。
化学メーカーである日本触媒にとって、過去のデータを改ざん不可能な状態で長期保管する必要性は高い。同社が取り扱う化学品は、年月を経てから安全性に対する懸念が判明し、規制当局に使用記録の提出を求められる可能性がある。リーガルホールド機能は、こうした法的要請への対応を可能にする。
Box活用における今後の展望として、高岩氏は生成AIを使ったメタデータ管理の高度化を掲げる。
「文書が増加するにつれて、詳細なメタデータがなければ検索できなくなります。ただし、従業員が自由にメタデータを付与すると粒度や表現が統一されず実用性が失われます。生成AIでファイルから重要なキーワードを抽出し、粒度を統一してメタデータを付与する仕組みの実現を目指しています」
ただし、画面で使えるのは最上位プランのみで、他のプランはAPI開発が必要となりハードルが高い。野口氏は「API活用を容易にするMISOLエコシステムの登場を期待しています」と要望を述べる。
日本触媒の成功事例から見えてくるのは、Box導入の成否を分けるのは製品選定だけではないということだ。適切な運用設計やリスク管理、活用事例の共有、Boxに詳しいエンジニアによる支援が不可欠だ。
関川氏は「Box導入時は、データ移行をゴールとして捉えがちですが、本来のゴールは従業員がBoxを使って業務課題を解決することです。Boxを導入したのに十分に利用されていないという課題の解決を、MISOLが支援します」と呼びかける。
稲垣氏は「当社の特徴は、専門性を追求するマニアックな集団であることです。新機能が発表されると即座に検証し、潜在的な問題点を洗い出して社内で共有しています。高度な活用を目指される企業さまは、ぜひお声がけください」と締めくくった。
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提供:丸紅ITソリューションズ株式会社
アイティメディア営業企画/制作:ITmedia ビジネスオンライン編集部/掲載内容有効期限:2026年4月3日