約1万4000人が使うBoxを安全に運用するには 関西電力とMISOLが築いた統制の仕組み
多くの企業で活用が進むクラウドストレージサービス。一方で、現場への浸透やガバナンスの徹底など、導入後に直面する運用の壁に悩む企業も多い。これを克服するためにはどうすべきか。約1万4000人の従業員がBoxを使用している関西電力の事例から考える。
関西電力はクラウドストレージサービス「Box」を2021年9月に全社導入した。2026年1月時点で業務委託先も含めて約1万4000人の従業員が利用しており、ストレージ使用量は約700TB、ファイル数は約2.7億に達する。全社的なデータ共有・保存基盤としてBoxが定着した背景には、大企業特有の課題を解決するための綿密な設計と、丸紅I-DIGIOグループの丸紅ITソリューションズ(以下、MISOL)による支援があった。
関西電力の杉浦一成氏は、Box導入の目的をこう振り返る。
「働き方改革の一環として、場所を選ばず、さまざまな端末で業務を遂行できる環境の構築が急務でした。従来のファイルサーバは容量やセキュリティに制約があって、社外からのアクセスや外部とのファイル共有が困難でした。Boxであれば、こうした課題を解決して柔軟な働き方を実現できると考えました」
しかし、全社導入には大きなハードルがあった。同社のファイルサーバには約90TBものデータが蓄積されており、これをBoxに移行する必要があった。MISOLでBoxの導入支援を担う矢ヶ部博氏は、「Boxの導入において最大の難関の一つは、データ移行です。大量のファイルを一気に転送するとネットワーク帯域を圧迫して、通常業務に悪影響を及ぼす恐れがありました」と指摘する。
関西電力は、MISOLのデータ移行支援ツール「Rocket Uploader」を利用して課題を解決した。Rocket Uploaderは、帯域制御機能によって業務時間帯は転送速度を抑え、夜間や休日は最大限の速度で転送できる柔軟性を持つ。エラーが発生したファイルを自動的にリスト化するため、移行漏れも防げる。
関西電力の田倉有夏氏は、「移行は、ネットワークへの影響を抑えながら主に土日に行いました。移行作業を10回に分けて実施し、システム停止期間を最小限にできました。今ではBoxがデータ保管の中心基盤です」と振り返る。
CSV Sync for Boxで実現した権限管理の自動化
Boxの導入はゴールではなく、スタートに過ぎない。データ移行と並行して関西電力が取り組んだのが、運用上の統制確保だ。
「関西電力は、利便性と同時に情報セキュリティの確保を重視しています。特に、無秩序な情報共有に伴う情報漏えいリスクを抑制する必要があります」(杉浦氏)
Boxで新たに権限を追加する際は、役職者の承認を必須とするワークフローを構築。従業員が異動するとBoxの閲覧権限を自動的に剥奪する仕組みを整備した。その構築に当たって利用したのが、MISOLの「CSV Sync for Box」だ。
運用管理を効率化する仕組みの構築で難易度が特に高かったと矢ヶ部氏が振り返るのは、ユーザーの複雑な運用要件への対応だ。不必要な権限付与を防ぐため、ユーザーからの直接招待は制限し、付与可能な権限もワークフロー側で絞り込んでいる。こうした大企業ならではの細かい要件に、MISOLは2年間の伴走支援で応えた。
CSV Sync for Boxを含むエコソリューションの開発を担当するMISOLの西澤郁弥氏は、「従業員が約1万4000人もいる環境で、権限の追加や剥奪を手作業で行うのは現実的ではありません。CSV Sync for Boxは、人事システムと連携して組織変更や人事異動に自動対応できます」と説明する。
大規模ユーザーの環境においても、権限管理を自動化・標準化することで運用負荷を抑えて統制の取れたBox運用を実現した。
杉浦氏は、「CSV Sync for Boxで、事前承認による統制と事後監視による抑止の両面から利便性とセキュリティの両立が可能になりました」と評価する。
導入後も続く、きめ細かなサポート体制
MISOLの支援は導入時だけで終わらない。関西電力とMISOLは、運用定例会と利活用定例会をそれぞれ定期的に開催し、意思疎通を図っている。運用定例会ではBoxの新機能導入後の運用状況確認や現場ニーズへの対応を協議する。利活用定例会では、Boxの最新アップデート情報の共有や利用状況の推移を確認する。
「いずれの定例会でも、ユーザー特有のセキュリティ要件、特に権限管理の厳格な運用に配慮しながら、発生し得るリスクの回避策を検討しています」(矢ヶ部氏)
MISOLのサポートは定例会の開催だけではない。田倉氏は「日々発生する困り事にも親身に対応してくれます。難しい要望にも『できない』と言わず、解決策や代替案を提示してくれます」とMISOLの姿勢を評価する。Boxのセキュリティ設定や利活用方法についての相談にも丁寧に向き合うMISOLの姿勢に信頼を寄せる。
「ツールを導入したら終わりではなく導入後のフォローも丁寧で、運用方法も一緒に検討してくれます。頼もしい存在です」(田倉氏)
問い合わせに応じるだけでなく、ユーザーの改善要望を開発に生かすMISOLの姿勢を西澤氏はこう説明する。
「ユーザーの要望にはできるだけ応えたいと考えていますが、技術的に難しいこともあります。ただ、ユーザーが本当に実現したいことを特定できれば別のアプローチで解決できる場合もあります。何を実現したいのか、課題の根源は何かを適切に見極めることを意識しています」
AI活用に向けデータ整備のステージへ
関西電力はDXを経営の重要な柱の一つに位置付けており、その取り組みは社外でも評価されている。2025年には、公益社団法人企業情報化協会が実施する「IT 賞」において、「IT 優秀賞(経営・業務改革)」を受賞するなど、計6つの賞を獲得した。AI活用にも積極的で、2025年4月にはBox AIを全社展開した。
「Box AIでは、ファイル内容の要約機能が最も多く利用されています。Boxのファイルをブラウザで開くとすぐに利用できるため、利便性が極めて高い機能です。ただし、Box AIにできないこともあるので目的に応じて他の生成AIツールも併用しています」(田倉氏)
AIを活用する上で新たな課題も明らかになった。Box導入時に「容量無制限なので、どんどんファイルを入れて」と周知した結果、将来使うかどうかも分からない大量のファイルが蓄積されている。杉浦氏は、「古いデータや保存価値の低いデータを生成AIが参照してしまいます。この点は今後改善すべき課題です」と語る。
解決策の一つとして注目しているのが、Boxの「バージョン管理機能」だ。従来のファイルサーバではv1、v2、v3とファイル名を変えて各バージョンを残す必要があったが、Boxならば一つのファイルで過去の履歴を追える。杉浦氏は、この機能を全社に浸透させて不要なファイルを生まない運用を徹底し、生成AIを含めた高度なデータ活用につなげたいと考えている。
伴走型支援がBox活用の成否を決める
関西電力の事例は、Box導入の成否は“運用課題をどう解決するか”で決まることを示している。矢ヶ部氏は、Box導入を検討する企業にこう助言する。
「検討の際は、ライセンス費用だけでなく運用負荷も含めて評価してください。Boxはクラウドサービスなので、サーバ管理などの運用・保守はBox社が担います。IT部門はその分のリソースをより重要な業務に振り向けられます。場所を選ばない働き方が当たり前になった今、こうした総合的な視点が欠かせません」
「ファイルサーバの後継としてBoxを選びましたが、最近は単なる情報の保管や共有にとどまらず、データ利活用のための基盤としての役割を求めるようになりました。新しい機能が次々と追加されるBoxは、こうしたニーズにも応えられるツールです」と田倉氏は今後への期待を語る。
関西電力とMISOLの取り組みは、Box運用で企業が直面する課題を浮き彫りにしている。セキュリティと利便性の両立、権限管理の自動化、そして手厚い支援体制の重要性だ。Boxの価値を最大化するには、導入時の設計だけでなく運用段階での伴走型支援が欠かせない。MISOLの独自ツール群やカスタマーサクセス活動は、まさにその体現と言えるだろう。
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提供:丸紅ITソリューションズ株式会社
アイティメディア営業企画/制作:ITmedia ビジネスオンライン編集部/掲載内容有効期限:2026年4月17日








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