ジャッカルの印象に思いをはせる:山形豪・自然写真撮影紀
ハイエナと同様に悪いイメージを持たれがちなジャッカル。家畜を襲うこともあるのでそのイメージを抱く人がいるのは分かるが、同じく家畜を襲うこともある大型のネコ科動物はなぜ否定的な印象が薄いのだろう。
前回のハイエナ(山形豪・自然写真撮影紀:ハイエナのステレオタイプと実像)に続き、悪いイメージを持たれている動物シリーズの第2弾、今回はジャッカルのお話である。
ハイエナとは違い、ジャッカルはれっきとしたイヌ科動物だ。アフリカにはセグロジャッカル、ゴールデンジャッカルそしてヨコスジジャッカルの3種類が生息している。いずれも雑食性で、小動物や昆虫などを捕らえるだけでなく、死肉も漁るし、時期によっては果物も食べる。環境適応能力が非常に高く、サバンナや山岳地帯、砂漠、湿地帯などの多様な場所を住みかとする。
東アフリカのセレンゲティ平原や、南部アフリカのカラハリ砂漠では、ライオンが倒した獲物の周りにジャッカルが群がる光景をよく目にする。隙を見つけては肉を一口かじり、猛ダッシュで逃げるその手法は、見ている方がハラハラしてしまう危なっかしいものだ。もしライオンに捕まろうものなら、一撃であの世行きである。ハイエナと比べても、ジャッカルは小柄で非力だ。ブチハイエナが大きいものでは体重80キロを超すのに対し、ジャッカルの仲間はせいぜい15キロ程度しかない。そのため、俊敏さを生かした「ヒット・アンド・ラン」がサバイバルの鍵なのだ。
写真という観点から見ると、ジャッカルは非常に楽しい被写体だ。そもそもイヌ科動物は活発に動き回る上に、社会性が強く個体間のコミュニケーションを盛んに行う。飼い犬でもそうだが、しぐさによる感情表現が豊かなので、撮っていて飽きることがない。特に、子育ての時期になると、頻繁にエサを捕らねばならないため、より行動的になるし、子どもの姿は本当にかわいらしい。
そんなジャッカルも、ハイエナ同様に悪いイメージとセットで連想されがちである。例えば、フレデリック・フォーサイスの小説に「ジャッカルの日」という作品がある。ジャッカルというコードネームで呼ばれるテロリストがフランスのシャルル・ド・ゴール大統領暗殺を試みるという話だ。漫画「北斗の拳」にも同名の悪党が登場する。
現実のジャッカルはどうかと言うと、確かに一部の人間からはあまりよく思われていない。南部アフリカではヒツジの子どもを襲うので、畜産関係者にとっては害獣であり、駆逐の対象になっているのだ。北米大陸で牧場主がコヨーテを嫌うのと同じ理由だ。ジャッカルという名が否定的な響きを持つに至った原因は、この辺にもあるのだろうと思われる。
ところが、ここでひとつの疑問が生じる。ライオンやヒョウ、ピューマなどの大型ネコ科動物も、時として家畜を襲うので「害獣」に該当する。にもかかわらず、彼らには否定的なイメージが付随しないのはなぜかという疑問だ。ライオンに至っては、「百獣の王」の称号まで与えられている。やっている事は大差ないはずなのに、この差は一体どこから来るのだろうか。
恐らくは、とても長い年月をかけて徐々に形成されていったイメージなのだろうが、どのあたりに起源があり、いかなる経緯で現在に至るのかを知りたいと思うのである。Mac OS X のバージョンがスノーレパード(ユキヒョウ)やライオンではなく、ジャッカルやハイエナだと聞こえが悪いように感じるのは、一体なぜなのだろうか?
著者プロフィール
山形豪(やまがた ごう) 1974年、群馬県生まれ。少年時代を中米グアテマラ、西アフリカのブルキナファソ、トーゴで過ごす。国際基督教大学高校を卒業後、東アフリカのタンザニアに渡り自然写真を撮り始める。イギリス、イーストアングリア大学開発学部卒業。帰国後、フリーの写真家となる。以来、南部アフリカやインドで野生動物、風景、人物など多彩な被写体を追い続けながら、サファリツアーの撮影ガイドとしても活動している。オフィシャルサイトはGoYamagata.comこちら
【お知らせ】山形氏の新著として、地球の歩き方GemStoneシリーズから「南アフリカ自然紀行・野生動物とサファリの魅力」と題したガイドブックが出版されました。南アフリカの自然を紹介する、写真中心のビジュアルガイドです(ダイヤモンド社刊)
関連記事
- 山形豪・自然写真撮影紀:ハイエナのステレオタイプと実像
死肉を食べる、獲物の横取りをするのも事実だが、それはハイエナだけではないし、野生の世界を生き抜くための必然の行為でもある。 - 山形豪・自然写真撮影紀:南部アフリカのフクロウたち
まるで人のような顔立ちがユニークなフクロウ。あまりに人間くさいためか吉兆と凶兆、いずれにも登場するが、自然が豊かで健全であることを示す存在でもある。 - 山形豪・自然写真撮影紀:「草食系男子」の定義と「草食獣」
「草食系男子」なる言葉が使われるようになって久しいが、実際にアフリカで草食動物を含めた多くの野生動物を見てきた山形氏からは「異議あり」の声。 - 山形豪・自然写真撮影紀:自然写真家の社会性
人里を遠く離れた場所で自然と向き合う自然写真家は孤独との縁が深い。ただ、人嫌いでもよいかといえばそうでもない。今回は自然写真家と社会性についてのお話。 - 山形豪・自然写真撮影紀:アフリカの夜空とフィールドワーク
アフリカでカメラマンの視線を奪うのは動物だけではない。文字通り、降り注ぐような夜空もまたしかり。デジカメの進化で星の撮影も楽になったが、それだけに慌ただしくもある。 - 山形豪・自然写真撮影紀:南部アフリカで見られる野生のネコたち(小型ネコ編)
前回は南部アフリカに生息する大型ネコたちを紹介した。さて、今回は小型のネコたちに焦点をあててみよう。 - 山形豪・自然写真撮影紀:南部アフリカで見られる野生のネコたち
日本にはネコをこよなく愛する人々がとても多いように思う。そこで今回は、アフリカ大陸南部に生きる野生のネコたちを紹介しよう。 - 山形豪・自然写真撮影紀:自然写真のフィールドとしてのインド
インドといえば文化や宗教に根ざしたものをイメージするひとが多いかもしれないが、亜大陸でもあるかの地は自然の宝庫でもある。自然にもぜひ目を向けて欲しい。 - 山形豪・自然写真撮影紀:500ミリが標準の世界
一般常識と野生環境では常識も変わる。写真についてもまたしかり。野生動物写真は「500ミリが標準」の世界だ。
関連リンク
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.