「AF-S NIKKOR 80-400mm f/4.5-5.6G ED VR」をアフリカで使い倒す:山形豪・自然写真撮影紀
春に発売となった「AF-S NIKKOR 80-400mm f/4.5-5.6G ED VR」を11日間のナミビア・ツアーで使ってみた。自然写真愛好家待望の新型、その実力は。
「AF-S NIKKOR 80-400mm f/4.5-5.6G ED VR」は自然写真を撮るニコンユーザーが長年待ち望んでいたレンズである。初代80-400mmはニコン初のVR(手ブレ補正)搭載レンズとして、当時は脚光を浴びた製品だったが、発売から約10年という年月が経過しており、超音波モーターによるフォーカシングが当たり前の現在では、AFが猛烈に遅く感じるなど、レトロ感の目立つレンズ存在となっていたのだ。
満を持しての発売となった新型80-400mmは、当然AF-Sにアップグレードされたわけだが、それだけではなく、随所に高画質を追求するニコンの気合のようなものが感じられるレンズとなっている。EDガラス4枚に加え、色収差に対して蛍石並みの特性を発揮するというスーパーEDガラスを採用し、さらにレンズ内の光の乱反射を抑えるナノクリスタルコーティングを施すなど、こだわりようは相当なものだ。VRも、約4段分の手ブレ補正効果が得られるとあって、先代モデルに比べ大幅なスペックアップを果たしている。
では、実際の使用感、そして画質はどうなのか?ちょうど6月13日から、ナミビアを訪れる機会があったので、購入したばかりのAF-S NIKKOR 80-400mm f/4.5-5.6G ED VRを様々な場面で使ってみた。
画質
初代80-400mmに比べ、多くの改良が加えられたこの新型レンズの画質は期待以上で、開放から非常にクリアでシャープな画像が全ズーム域において得られた。
最も驚いたのはフレアやゴーストが極めて少ない点だ。通常、エレメント数の多い高倍率ズームで太陽などを撮影すると、ゴーストが少なからず出るものだが、今回、夕日をバックにキリンを撮影した際などでも実にクリーンな画像が得られた。ナノクリスタルコーティングやスーパーEDレンズは伊達じゃないということだろう。ただし、周辺光量の低下がある程度見られるので、空を画面の中に多く入れる場合などは注意が必要かもしれない。
ただ、ホコリの混入がかなりひどい点が気になった。テレ側に目一杯ズームすると、レンズ前部が5.5センチほど繰り出すわけだが、この際にかなりのゴミを内部に吸い込んでしまう。確かにナミビアのフィールドは猛烈にホコリっぽい環境ではあるが、それにしてもたかだか11日間使用しただけで、一見しただけでも分かる、相当な量のダストが入り込んだ。
バキュームクリーナー(掃除機)と一部で冷やかされた初代AF-S 24-85mm f3.5-4.5に匹敵するレベルだ。これでは長期間フィールドで使用すると、画質に影響が出て来るのではと心配になる。シーリングはより厳重にしてもらいたいところだ。
操作感
流石に70-200mm f4などと比べるとかなり大柄なレンズで、重量も三脚座付きで1570グラムと決して軽くはない。しかし、超望遠側で使う場合などは、ボディとのバランスを含め、これくらいの方が安定感があると感じた。ズームリングやピントリングも幅が広く扱いやすい。
しかし、非常に気になる問題がひとつあった。それは回転式三脚座の構造だ。脚座を取り外すには、ネジをゆるめ、マーキングのある位置まで回転させて後ろに引き抜くようになっている。ところが、この着脱用のネジが脚座の動きを止めるネジと同一であるため、脚座が期せずして取り外し位置で引っかかってしまい、肝心な時に回せないという事態が頻発したのだ。
三脚座は使わないという人には関係のない話かもしれないが、私は脚座を手のひらに乗せてズームリングやピントリングを操作する。従って、回転式三脚座の動きはスムーズでないと、素早く横位置から縦位置に構え直すことができないのだ。
ケンカする保護施設のチーター ナミビア、オチトトングウェ・チーター保護施設 ニコンD4, AF-S NIKKOR 80-400mm f/4.5-5.6G ED VR, 1/2000秒 f8 ISO2000, AF-Cモード
AFとVR
AFの合焦速度は、クラス最速とニコンが主張するだけあってかなり高速だ。流石に500mm f4や200-400mm f4のようなトルクと、スパッと一発でフォーカスが決まる感覚はないものの、かなり軽快な動きをしてくれる。また、動体追尾モードでの合焦もかなり高速で、動きまわる被写体も楽に撮影できた。もちろんこれはボディとの兼ね合いもあるが、少なくともD800やD4との組み合わせで使用する分には何ら問題ないと感じた。
手ブレ補正(VR)の効き目も申し分ない。400mm側で、低速シャッターの手持ち撮影を行っても、相当な確率でシャープに写っていたし、高速で悪路を走る車の中からの撮影や、夕暮れ時に水場に集まる動物の流し撮りなどを試みたところ、こちらも非常に高い成功率だった。より高性能になった手ブレ補正の効果は絶大で、今まで以上にアグレッシブな撮影が可能になった。
低速シャッターの流し撮りで撮影したゾウ ナミビア、エトシャ国立公園 ニコンD4, AF-S NIKKOR 80-400mm f/4.5-5.6G ED VR, 1/5秒 f7.1 ISO3200 手持ち
総評
AF-S NIKKOR 80-400mm f/4.5-5.6G ED VRは、ニコンユーザーが待ちに待った超望遠ズームであり、野生動物のみならず、風景や人物ポートレートなど、様々な局面で威力を発揮するオールラウンド・レンズだ。改良の余地は幾つかあるものの、価格も含めて、数あるズームニッコールの中でもかなり秀逸な存在と言えるだろう。
著者プロフィール
山形豪(やまがた ごう) 1974年、群馬県生まれ。少年時代を中米グアテマラ、西アフリカのブルキナファソ、トーゴで過ごす。国際基督教大学高校を卒業後、東アフリカのタンザニアに渡り自然写真を撮り始める。イギリス、イーストアングリア大学開発学部卒業。帰国後、フリーの写真家となる。以来、南部アフリカやインドで野生動物、風景、人物など多彩な被写体を追い続けながら、サファリツアーの撮影ガイドとしても活動している。オフィシャルサイトはGoYamagata.comこちら
【お知らせ】山形氏の著作として、地球の歩き方GemStoneシリーズから「南アフリカ自然紀行・野生動物とサファリの魅力」と題したガイドブックが好評発売中です。南アフリカの自然を紹介する、写真中心のビジュアルガイドです(ダイヤモンド社刊)
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