「カシオのカメラはカメラではない」 落ち込み続くコンパクトデジカメ市場でカシオ計算機が打つ、次の一手(2/2 ページ)
右肩上がり成長を見込めないデジカメ市場において、各社の試行錯誤が続いている。多くは高級モデルの投入に活路を見いだすなか、事業撤退も検討したというカシオの打つ、次の一手は。
――そして現在、カメラメーカー各社はスマートフォンの一般化、デジカメ市場そのものの停滞、さまざまな要因で苦しんでいます。
中山氏: カメラとしての基礎性能アップによる付加価値化がしにくくなってきた頃、2010年ぐらいでしょうか、そのころは「ダイナミックフォト」や「ハイスピード撮影」といった付加価値の訴求を強めましたが、売り上げという数値に大きく反映させることはできませんでした。
そこで2011年頃から事業方針を転換し、製品ラインアップの整理や販売エリアの効率化、LSIの新規開発速度のスローダウンなど事業としての効率化を進め、2013年度(2014年3月期決算)に事業としての黒字化を達成しました。実は2009年から10年の時期はカメラ事業の撤退も真剣に議論されていたのです。
――事業の効率化は対症療法的な手段で、新規の提案がなければ衰弱していくだけです。
中山氏: カメラメーカーはミラーレスや高級機に活路を見いだしましたが、カメラメーカーではないカシオはどうするか。やはり「新しいもの」を提案していくことがカシオの生きる道だろうと。
そのなかで登場した製品のひとつが「EX-TR100」です。
この製品は、カムコーダーのようなスタイルで動画も撮れるフリースタイルカメラとして企画がスタートし、北米市場を主とした販売戦略を組みました。ですが、東日本大震災による供給不足もあり北米での販売は振るいませんでした(注:当初、2011年3月からの北米市場販売を予定していた)。
ですが、その後、2011年の秋に中国のSNSで「自分撮りの神カメラ」(自拍神器)として話題になって中国市場で火がつき、一時は入手の困難さからプレミア化するほどでした。その後も人気は持続し、「TR」がブランドとして認知されるに至りました。
スマートフォンにもカメラはあるので、機能で訴求するとスマホとの比較が避けられません。「TRだから欲しい」と思ってもらえることが大切であり、ブランドを作ることの大変さ、大切さを改めて感じた出来事です。
「ビジュアルコミュニケーション」の変化
――「新規の提案」だけではなく、指名買いされるブランドの確立も命題だということでしょうか
中山氏: これはよく言われることですが、写真のベースが銀塩からデジタルに移行してシャッター数(キャプチャ数)は増えています。さらにデジタルの写真や動画を利用したコミュニケーションも拡大しています。
デジカメ市場は低迷していると言われますが、ビジュアルを使ったコミュニケーションへの需要はむしろ増大しています。私たちとしては、ここに新たな製品やサービスを提供していきたいのです。
それはつまり、あるハードを提供したらOKという時代の終了でもあります。必要なのはシチュエーションやニーズに応じた製品あるいはサービス、ソフトの提供です。
具体的には今、「アウトドア」というキーワードを意識しており、「新しい撮り方」「新しい使い方」を提案する製品として投入することを計画しています。アジア圏における「TR」のように、指名買いされる製品を目指したいと考えています。
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