懐かしさ漂う中国製レンズのボケ表現――中一光学「CREATOR 85mm f2.0」:交換レンズ百景
手ごろな価格がうれしい中国製の単焦点レンズ「CREATOR 85mm f2.0」を使ってみた。完全マニュアル仕様のため、便利で快適とはいえないが、使いこなすほどに面白みが増し、写真撮影の原点にかえるような体験ができる。
滑らかなボケが味わえる開放値の描写
中国のレンズメーカー、中一光学「CREATOR」シリーズのレビュー第2弾として、中望遠レンズ「CREATOR 85mm f2.0」を紹介しよう。前回取り上げた「CREATOR 35mm f2.0」と同じく、フルサイズの一眼レフに対応した完全マニュアルの単焦点レンズである。
マウントはニコンFマウント、キヤノンEFマウント、ソニーAマウント、ペンタックスKマウントの4種類を用意。発売は2014年。日本では焦点工房が販売し、2万1800円(税込)となっている。今回は、主にキヤノン「EOS 6D」に装着して試用した。
レンズの鏡胴はしっかりとした手応えを感じる金属製だ。色はツヤ消しの黒で、質感は結構高い。距離目盛と被写界深度目盛、絞り値の文字は印刷ではなく、それぞれ刻印処理されている。マウント部も金属素材で、装着時のがたつきは特にない。レンズフードは、深さのある樹脂製バヨネット式のものが付属する。
フォーカスリングはゴムではなくこちらも金属製だ。指で回すと適度なトルクが伝わり、感触は心地いい。フォーカスリングの回転角は約240度とかなり大きめ。そのため、無限遠から最短撮影距離までピントを送るのは少々手間取る。
絞り開放はF2で、最小絞りはF22に対応する。絞りリングは1段刻みでのクリック感があるタイプ。中間値を無段階で選ぶことも可能だ。絞りリングの動きは軽め。絞り羽根は10枚。測光は実絞り式で、絞り込むごとにファインダー像は暗くなる。
描写性能は、画像中央部に関しては開放値からまずまずシャープな写りといえる。周辺部は甘めで、像が流れたような描写になる。絞り込んでも周辺の甘さはあまり解消されないので、くっきりと写したい被写体は画面の端には置かないほうがいいだろう。ボケについては、グルグルと渦巻くような形が見られ、球面収差による光のにじみも目立つ。また周辺減光や色収差も指摘できる。これらは写りの個性として楽しみたい。
最初の写真は、開放値で撮影した遊園地での1コマだ。手前の木々をぼかして、画面に奥行きを与えた。周辺減光によって青空が四隅に向かってドンと落ち込んだことで、ポジフィルムのような濃厚な色調になっている。
最短の撮影距離は85センチで、最大撮影倍率は0.12倍となる。85ミリの単焦点として標準的な倍率だ。下の写真は、瓶詰めされた木の実を最短距離付近で捉えたもの。絞り開放値を選んで手前の瓶のみを強調しつつ、クリップオンストロボを上に向けて発光させることで、光の反射によるハイライトを写し込み画面にメリハリを与えている。
次のカットも、最短撮影距離付近+絞り開放値の組み合わせで写したもの。被写体は、高さ約20センチの木彫りのゾウだ。背景をぼかして単純化したことで、造形が際立った。口径食の影響で周辺の玉ボケはレモン型になっているが、円形にこだわる場合はF4まで絞るといいだろう。
どんよりとした曇天のもと、散りかかったハスの花をクローズアップで撮影。ピント面はきっちりと解像し、そこから後方に向かってふんわりとしたボケが生じている。こうした近接撮影でのピント合わせはシビアだが、狙いを定めてじっくりとフォーカスリングを回していく、その操作感は悪くない。
正面ではなく、あえて斜めのハイアングルから狙うことで、1つのボトルのラベルのみにピントを合わせ、それ以外をぼかして表現した。単に絞り開放値を選ぶだけでなく、カメラアングルの工夫次第でボケの雰囲気は変化する。
屋外での撮影時に注意したいのは、逆光にはあまり強くないこと。レンズに光が入射するとゴーストやフレアが生じ、コントラストも低下する。それらを効果として生かす場合以外は、付属レンズフードを忘れずに装着したい。
見つめる感覚でのフレーミングを楽しむ
レンズの外形寸法は、全長69ミリ×最大径68ミリで、フィルター径は55ミリ。鏡胴の重量は約390グラム。今回使ったEFマウントの場合、レンズ全体の重量は実測で404グラムだった。開放値がF2前後のフルサイズ用中望遠としては平均的なサイズと重量だ。スナップ用途に気軽に持ち歩ける。
85ミリという焦点距離はポートレート用に最適とよくいわれるが、それ以外に、風景やスナップに使っても実は面白い。人の視覚に近い標準レンズよりも少し画角が狭く、特定の範囲をじっと見つめているような感覚で風景を捉えることが可能だ。
次の写真は、そんな特性を生かし、遊歩道のカーブになった部分を抜き出すようにフレーミングしたもの。周辺部はややソフトな描写だが、点景として配置した男性の後ろ姿はシャープに写っている。
夕暮れ時の公園にて、木と風車が作る影絵のような形を狙ってみた。自分の立ち位置を変えながら構図を決めていく作業はズームレンズでは味わえない“撮る楽しみ”だ。ホワイトバランスは色温度10000Kに設定し、空の赤みを強調している。
展望室の野鳥観察コーナーにて、帽子と望遠鏡を開け気味の絞りで捉えた。背景は状況が分かる程度にぼかしている。どれくらいぼかすか、またはシャープに写すか、その判断を無段階で動く絞りリングを回しながら考える。絞りリングが省かれた最近のレンズでは忘れかけていた撮り方だ。
次のカットは、市販のマウントアダプターを介してソニー「α7R II」で撮影した。シャッター速度は1/1000秒の高速にセットし、激しく動く水面のかたちをピタリと写し止めている。
最後の2枚は、APS-Cフォーマット機の「EOS 70D」を使用した。この場合は、焦点距離は136ミリ相当になり、より望遠らしい引き寄せた構図で撮影可能になる。
今回の撮影では、85ミリでF2という適度なスペックが生み出す、ほどよいボケ表現を生かしつつ、切り取る感覚での中望遠スナップを満喫できた。実絞りの操作やマニュアルでのピント合わせは、撮ることを指先で実感できる体験だ。
マニュアル操作を面倒に感じる人や、四隅までの精密な解像を重視する人にはおすすめできない。スピーディな操作やシャープな写りを求めるなら、より便利な製品がほかにたくさんあるだろう。そんな今どきのレンズとは違った、オールドレンズのようなマイルドな写りをまったりと味わえることが本レンズの面白さだ。
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