電子書籍における漫画インタフェースを大いに語る(後編)うめ・小沢高広×一色登希彦×藤井あや(4/5 ページ)

» 2011年06月28日 10時30分 公開
[山口真弘,ITmedia]
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「Amazonを1つの選択肢として取り込んでしまう考え方もあっていい」(一色)

一色さん 「Amazonが強敵だとか言ってないで取り込む選択肢もあっていい」と一色さん

── 先日人づてにある大御所漫画家さんから質問されたんですが、自分があちこちの出版社から出している複数の電子書籍作品が集約されたアプリは作れないのかとおっしゃるんです。そのアプリさえ導入しておけば、あちこちの電子書籍サイトにジャンプしてみられるというイメージです。自分の作品がどこの電子書籍ストアから出ているという情報も、漫画家さん個人は把握できていないんですよね。

小沢 Wikipediaですかね、著作のリストがあるとすれば。

── ただそれも有志が編集しているだけで正確でない場合も多いし、紙の本であればISBNが貼ってある場合もあるけど、電子書籍はそうはいかない。例えばイーブックジャパンで出てる、Rentaで出てないというのは、1つずつ検索しないと分からない。先ほどの書店員の話は読み手側からの話ですけど、描き手側としても、電子書籍ストアが乱立していることで混乱を招いている節がある。

小沢 このまま行くと、電子書籍ストアも街の書店と同じ状況になってしまいますよね。そこにその人の作品があるかどうかが分からない。

一色 読者にとっては電子書籍ストアの種類は本質的にはどうでもよくて、「俺はこの端末を持っててこの漫画を読みたいんだけど、電子書籍で出ているのか」を知りたいだけですからね。

小沢 Googleで著者名を入れて検索するのよりは、もうすこしコンシェルジュして出してほしいというイメージですよね。

一色 そうそう。それは漫画に限らず、食べログの本バージョンみたいな。

小沢 その辺りは実質Amazonが機能しちゃってるじゃないですか。

一色 そうなんですよ。だからAmazonすらも1つの選択肢として取り込んでしまうような考え方もあっていいと思うんです。Amazonが強敵だとか言ってないで、取り込んでしまうんです。だってAmazonで本が売れるのは出版社にとってもいいことなんだから、選択肢の1つを任せられれば、それはいいはずで。

藤井 ガラケーだと、ユーザー登録して、月に幾らってポイントで払わなくちゃいけない。だから、ここの書店にあったからといってすぐにそこで買えるかというと、買えないんですよね。街の書店さんであれば、どの書店に行こうが手数料は掛からないし、ユーザー側は自由に選べる。でもいまのところ電子書籍は囲い込んでしまってるから。

── 場合によっては電子書籍端末ごと買わなくちゃいけない。

藤井 そうそう。そういう不便さがある。

── さっきの大御所漫画家さんが理想的だといってたのは、iPadのアプリとしてあちこちの電子書籍ストアにある自分の著作がぜんぶ見れることに加えて、Amazonに行って買えたりもするというものでした。リアル書店に触れていないのと、切り口が作家オンリーである点を除けば、一色さんの案と基本的には同じなんですよね。

一色 それを全著者全本に広げて、本が欲しい人は全員このアプリを入れておけばいい、ってことですからね。

藤井 ただ、音頭を取る人は出てこないでしょうね……。

一色 ええ。だから僕も妄想でしかないんですよ(笑)。

小沢 でも広告も入りそうなサービスですし、そこで集積されていくデータは相当貴重なものになるでしょうから、手を挙げるところはありそうですね。

一色 本当は、版元さんと取次さんが共同出資して作っちゃえばいいんですよ。逆にそうじゃないプレイヤーが何とかしようとすると、まずデータをくださいという扉をたたかなくちゃいけないから、なかなか難しい。

小沢 絶対作らない気がする。業界の足並みだって、電子書籍の団体をいったい何個作れば気が済むんだっていう状態ですし。

一色 あれどうなってるんでしょうね、今。

藤井 自分のところの利益ばっかり考えて、足並みをそろえようとしない。

小沢 だから外からまっさらな、別の人たちに作ってもらった方が、公開しているデータだけでも何かできそうな気はする。

一色 でもそれで書店さんも含めてまったく新しいネットワークを作ろうというのは物理的にも大変なので、いまある書店さんと取次さんの仕組みを使わないと。ただ当の版元さん、取次さんはやらないだろうという、そのジレンマです。

小沢 僕は出版業界の方を全体に動かすよりは、POSデータさえあればなんとかなるなら、そっちから動かした方がいい気がします。そこを1回調べる価値はあるなと。

一色 仮にPOSデータの手配が可能だとして、在庫の把握や、どこに行けば何が買えるというのはサービス化できるんだけど、それでもやはり速配性の部分は難しい。大きな組織を作って集配業者と提携し、即日配達できればいいのかもしれないけど、その本を出してくれるのは取次だったり版元だったりするので、そこが門戸を開いてくれないと。

── たぶん、紙の本のそういうややこしいところに絶望した皆さんが、紙を無視して電子書籍だって言ってワーッて走っちゃってるのが現状かなと思うんですね。

小沢 ぶっちゃけ作る側から見た電子書籍の魅力というのは、既存の流通のしがらみにとらわれることなく出版できる軽さだと思うんですよ。だから、しがらみができてきちゃったらそれはもう魅力はない。そうした軽さがあれば、電子でも紙でも、どっちだっていいんですよ。

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