電子書籍における漫画インタフェースを大いに語る(後編)うめ・小沢高広×一色登希彦×藤井あや(1/5 ページ)

電子書籍で配信される漫画に漫画家の意見はどこまで反映されているのだろうか。うめ・小沢高広氏、一色登希彦氏、藤井あや氏という電子書籍の出版経験を持つ3人の現役漫画家による座談会は、業界への提言へとつながっていく。対談記事最終回。

» 2011年06月28日 10時30分 公開
[山口真弘,ITmedia]
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「紙だろうが電子だろうが、本を手に入れられることをもっと身近にしたい」(一色)

一色氏がブログで公開した、全書籍包括検索ウェブ書誌「ウェブリオグラフィ」についてのエントリ

── 一色さんが、紙か電子かを問わず、漫画を入手して読むための統一インタフェースを考察した「ウェブリオグラフィ」という構想をブログで書かれていて、その話もできればと思っているのですが、これを簡単にご説明いただいてもよいでしょうか。

一色 紙か電子かを問わず、その選択権も含めて、いまその人がいる場所の近くで、何が手に入るかを検索できればいいんじゃないかという構想です。

 例えばTSUTAYAを例に挙げると、本だけでなくCDやDVDも含めて、作品タイトルを入れて検索すると、最寄りのTSUTAYAに在庫があるかどうかを教えてくれるサービスを用意しています。だから、やろうと思えばできるんじゃないかと思うんですよ。

TSUTAYAの検索画面。最寄りの店舗を指定すれば在庫の有無をWeb上で確認できる

一色 GPS付きのデバイスがあれば現在地が取得できるわけですから、例えばいま新宿にいるのなら、紀伊国屋に1冊、駅前の書店に1冊ありますよといった検索結果が得られれば、そのまま買いに行くか、あるいは電子書籍で購入できるのならそちらを選択してもよいという判断ができます。オンラインで注文すると1日で届きますよというのであればそちらを選択するのもいいでしょう。とにかく紙だろうが電子だろうが、本を手に入れられることをもっと身近にしたいんです。

── いま電子書籍ブームといわれていますが、読む側が電子であることをそれほど意識しているかというと、そんなことはない。

小沢 電子書籍になることで、本の中身が面白くなるわけではないですからね。

藤井 これだけ取次さんがしっかりしてる国だから、やろうと思えばできるはずですけどね。

一色登希彦さん 紙も電子も関係なく、いまその人がいる場所の近くで、何が手に入るかを検索可能にする「ウェブリオグラフィ」構想について話す一色登希彦さん

一色 そうなんですよ。いま本屋で注文したら、取り寄せに最大で2週間掛かると言われる。しかも在庫があるかないかの連絡は数日後になると言われるので、じゃあAmazonで買うよ、となる。でも藤井さんのおっしゃる通り取次もしっかりしているわけで、紙の本の流通改革はできるはずなんですよ。

 実際、Amazonがいま注文して明日の午前に届くのであれば、本屋に注文してうちの近くの書店に明日の朝届けてくれというのはできるはずで。通勤通学の帰り道に注文して、翌日帰るときに本屋に届きましたというメールが自動的に来れば、それでその本屋に取りに行けばいいわけだから。

 電子書籍がいけないとか、紙がダメだという議論をしたいわけではなくて、いちばんてっとり早い方法で手に入るべきだと思うんですよね。そうした流通改革を行った上で、紙と電子書籍の対決っていうのであれば分かるんだけど、それをしないうちからもう紙はダメだとか、電子しかないというのは、議論がおかしいんじゃないかという思いがあって。

── 実際いまセブンネットショッピングなどがそうしたサービスを展開していますよね。

一色 そうです。全部コンビニに先を越されています。それで街の本屋さんはもうダメだみたいな話になってる。街の本屋さんに行っても目的の本がないから行きたくなくなっちゃうわけで、あるのであればそこで買いたいと思うわけだし。流通を徹底的に見直せば、本は届くでしょということを、なぜ誰もやらないんだろうと。

小沢 そういえば、取次に注文しても本がすぐに届かないからという理由で、お客さんから注文を受けた本屋さんがAmazonで買って届ける、なんて話も聞きます。切ない話ですよね。

一色 ありますね。本屋さんはお客を集めたいから、注文を受けたら自腹でAmazonで買うという。もちろん利益は出ない。街の本屋さんが独自に工夫したり価格設定ができるのなら、それは営業努力をしない本屋さんの責任だという話もできますが、入荷もしてこないし、価格も自分でコントロールできない状況で、そこが潰れても仕方ないと言われても困る。実質的に入荷のコントロールを決めているのは版元や取次なので、そこがちゃんと末端の本屋さんに届く努力、お客さんの注文を受けて翌日の夜に届く努力をしていないのだとしたら、紙が売れないのは当然の帰結なんじゃないかなと。

 だったらシステムを作ってしまって、アプリで一発注文できるようにすれば、っていうのが、ウェブリオグラフィの趣旨です。

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