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» 2012年06月18日 10時30分 公開

隣接権議論は“出版”をどう変えるか――福井弁護士に聞く(前編) (3/4)

[まつもとあつし,ITmedia]

隣接権は流通を促進し得るのか?

福井健策 福井健策弁護士

福井 このように海賊版への対応について隣接権には一定の効果があると思いますが、さまざまな懸念も指摘されてはいます。

 例えば、ある漫画が絶版になった後で、漫画家がほかの出版社からそれを刊行したり、あるいは電子出版で利用――Jコミで公表するなどですね――したときに、出版社がNoと言えてしまうんじゃないか? そうすると作品が死蔵されてしまうのではないか、という疑念が漫画家の赤松健さんなどから出てきました。

 もともと作者はNoと言えるところに、出版社もNoと言えるようになってしまうと、権利処理はむしろ複雑化してしまって、作品の流通が滞るのではないか? ということですね。

 それと表裏一体の問題として、そもそもそんな「強い権利」を出版社に一律に与えてしまってよいのか? という指摘もある。出版社といっても一様ではありません。立派な出版社も多いけれど、何もしていないのに権利だけ主張するような出版社もあるかもしれない。

 もっとも、中川勉強会が去る4月27日に出した報道資料では、そうした批判にも配慮してか、権利が及ぶのはあくまで「下版」のレベルであり、漫画家が自分の持っている最終原稿を使って復刻しても、元の出版社の隣接権は及ばないと明言されています。つまり、出版されたコミックス単行本や雑誌からスキャンした画像の利用に出版社はNoと言える。漫画原稿からの再刊にはこの隣接権は及ばない、ということでしょう。

 ここで、中川勉強会をいったん離れて、出版社が隣接権を得る場合、その理論上のターゲットとして考えられる権利の射程を想像してみましょう。これまでの議論からは、大きく分けて次の4つがあると思います。

  1. 国内の海賊版訴権。つまり、(作家も許していない)海賊版のような無断利用の取り締まり(恐らく、これが最少構成でしょう)
  2. 海外の海賊版訴権
  3. 作家+他事業者だけで作品が電子出版されることへの牽制や、その場合のオリジナル出版社の収益確保
  4. 単に無断利用の禁止を超えて、むしろ出版社が電子の権利を一元管理すること。つまり、作家とお互いにNoといえる権利を持つのでなく、紙の場合と同様に、出版社がYesといえば電子出版ができる状況(多分、これが最大構成)

 ネットなどで展開されていた(特に初期の)議論を見ると、1.から4.までが混在していたと感じます。この4つの目標は別ものであって、そのために必要な権利も異なるものですよね。

 目標が1.や2.の「海賊版取り締まりのための訴権」に留まるのであれば、反対する意見は恐らく少ないでしょう。無論、作家自身が原告となって訴訟を起こせばよいのですが、これは私自身代理人として活動していて、「ちょっと作家には荷が重い」と感じることがあるのも事実です。訴訟に絶対はありませんから、作家にも不安があり、負担となります。

 他方、4.の電子の一元管理権を「一律に」出版社に与えると言われれば、たぶん多くの作家は納得しないでしょう。権利の期間が長ければ言わずもがなです。

 多くの隣接権の議論はこの中間、1.と2.に加えて3.までを射程にしています。ただし、中川勉強会は「版面」の定義を厳格にすることで、漫画が死蔵されるといった危惧に答えようとしている、ということでしょうか。また、仮に隣接権が生まれても過去の出版物には適用されない(=遡及しない)と説明しているようです。

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