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» 2012年06月18日 10時30分 公開

隣接権議論は“出版”をどう変えるか――福井弁護士に聞く(前編) (2/4)

[まつもとあつし,ITmedia]

ほかのコンテンツ産業には隣接権がある

福井健策 福井健策弁護士

―― 先日のスキャン代行訴訟で、作家が原告になったのもそういった理由でしたね。

福井 それもある。じゃあ、何とかならないのか、という悩みが背景にあります。レコードなどほかのコンテンツ産業はどうだろうかと目を移すと、出版社のような「プロデューサー的な存在」は、もう少し強い権利を持っています。もちろん、出版社とレコード会社が同じかという議論もありますが、いったんここでは置いておきますね。

 例えば、音楽ではレコード会社に「原盤権」と呼ばれる著作隣接権が自動的に与えられています。歌手などの実演家にも隣接権はありますが、レコード会社などが一元的に原盤の権利を保有していることが多い。したがって原盤の利用にはその裁量でYes/Noと言えるし、海賊版に対しては直接訴訟を起こすこともできます。

 映画ではもっと「プロデューサー的な存在」が強い。著作権法29条という条文があり、映画の著作権はプロダクションなどの「製作者」に自動的に移ります。逆に言えば映画監督は著作権を持てない。そして著作権はプロダクションから、製作資金を出資した製作委員会に譲渡されるケースが圧倒的多数です。その是非はともかく、いわゆる「リスクマネー」、つまり資金を投資した者が著作権譲渡を受ける慣行があります。

 そこまでは行かずとも、書籍の誕生に貢献した出版社にもう少し権利があってもよいんじゃないか、という視点なのでしょうね。

契約書では訴権が生まれない

―― それは先ほど紹介いただいた、出版契約書から生じる権利ではダメなのでしょうか?

福井 もちろん、かなりの効力はあります。というより、出版社にとっても電子書籍の普及にとっても、本丸はあくまでも出版契約書です。しかし、第一に契約では(上述した1.の著作権譲渡でない限り)電子の海賊版を直接出版社が訴えて差し止めることができない。つまり原告になれないわけです。第二に(当たり前ですが)契約を結ばない限りは権利が生まれない。こうしたこともあって、契約に依らない法的な権利を、という声が、文化庁の「電子書籍の流通利用の円滑化に関する検討会議」などで挙がりました。

 そこでは幾つかの選択肢がありましたが、「隣接権」という方向で出版社側が要望し、権利付与の議論がされることになったようです。

 実のところ、出版社と隣接権の関係といっても、まだこの段階です。隣接権そのものの内容もハッキリしない。ただ、レコード製作者の隣接権を参考にして、中川正春衆議院議員(現・内閣府特命担当大臣、元文部科学大臣)の勉強会が一定の方向性を出しつつありますね。最近の報道資料などでは、従来の呼び名である「版面権」から、「出版物原版権」「(仮)出版物に係る権利」とより抽象的な名前に変わってきています。名称募集中(笑)。

 ではそれはどんな権利か。出版物や電子出版物の版面や電子出版データについて、「イニシアティブと責任を持って製作した者」(=“出版者”)に「複製権・公衆送信権・譲渡権・貸与権」の4つの権利を与えてほしい、ということのようです。電子出版について特に重要なのは複製権と公衆送信権ですね。以下、この内容を「隣接権」と仮に呼びます。

中川勉強会の方向性

  • 出版物:「編集により書籍・雑誌若しくは電子書籍・電子雑誌にしたもの」
  • 出版物原版:「出版物を複製又は送信可能な情報として固定*したもの」

 *書籍・雑誌では「下版」、電子書籍などでは「コーディング終了時点」と説明

  • 出版者:「出版物の製作に発意と責任を有し、出版物原版を最初に固定したもの」
  • 与えられる権利:複製権・送信可能化権・譲渡権・貸与権など
  • 期間:発行翌年から25年

 これらは基本的に「Noと言える権利」です。いわば版面の無断利用について差し止めることができる権利。例えばインターネット上で海賊版が流通しているときに、これまでは、著作者の権利=著作権は侵害されていたので、著作者は訴えてこれを差し止めることができました。ところが、出版権を持っていたり、通常の出版の許諾を受けているだけの出版社は、これらを訴えることができません。出版権は「訴権」つまり原告として訴えられる権利ではあるのですが、紙にしか及ばず、出版の許諾は――仮に電子についての許諾を得ていたとしても――訴権にならないのです。

―― 原告として訴える、というところまでカバーするには出版契約書では十分ではない。

福井 ネットの海賊版などはそうですね。出版社が作家の代理人として訴えを起こす方法も、民訴法などの規定があって容易ではない。

―― そうなるとJASRACのような集中管理団体が違法配信を訴えることができる根拠は?

福井 集中管理団体が著作権の信託譲渡を受けているから、です。著作権の譲渡を受けていれば、当然著作権者として振る舞えます。

―― 昨年注目を集めたレディー・ガガのYouTubeアカウントの廃止は、株式会社メディアインタラクティブ(2012年4月に株式会社ネオマーケティングに社名変更)という会社が権利者に代わり削除を行った結果でしたが、ああいったケースはどうなのでしょうか?

福井 あの件は詳しく追ってはいないのですが、訴訟はせずクレームをするだけならば、権利者(ガガのケースだとタレント)から業務の委任を受けただけでも大丈夫で、委任状などでYouTubeは対応するはずです。ただ、YouTubeのようにスムーズに削除に応じるサイトはむしろ例外で、そうじゃない場合に出版社が訴訟を起こせないのは弱い。

eBook USER西尾 漫画家協会が出したリリースでは、訴訟リスクをとってまで対応しなければならない、経済的影響の大きい侵害案件は限定的であり、個別に対応した方がよいという見解が示されています。

福井 これは国内について、ということでしょうね。海外ではかなり重大な侵害案件が起こっていますから。とはいえ、漫画家協会も指摘するように、出版社に隣接権を付与しても海外での訴訟の原告にはなれない。隣接権は国ごとの法令で与えるものなので、日本で仮に権利を与えても日本の訴訟の原告にしかなれないのです。海外での海賊版対策にはむしろ契約が大切です。

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