電子書籍のいろんな話題について、会話形式で楽しく考えてみる「電書ちゃんねる」。今回は、フランクフルトブックフェア2012で発表された“ストアの壁”を越えるBookShoutの謎を「見た目は子供、頭脳は大人」の電書ちゃんが解明します。
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電書ちゃん
電子書籍の世界を案内してくれる謎の女の子。
センスの悪い意見には容赦なくツッコむよ。
口癖は「あたしあんたのそういうところが嫌い」
ろす
この企画では電書ちゃんのアシスタントに降格。
入りたての業界の中で右往左往。お前の明日はどっちだ!?
電書ちゃん ねえ、今月はドイツでフランクフルトブックフェア2012があったのに、どうしてあたしたちは日本でぼんやり過ごしていたのかしら。
ろす 泣く泣く見送ったんだよ。大事なバイオリンを空港の税関で没収されるわけにはいかないからね。
電書ちゃん すいぶん微妙な時事ネタ仕込んでくるのね。現地に行けない以上、ネットに流れてくる情報はチェックするようにはしていたんだけど。
ろす それで、どんな発表が興味をひいた? やっぱり激安電子ペーパーデバイスのtxtr Beagleかな?
電書ちゃん それよりもBookShoutの発表に新しさを感じたわね。
ろす 早速アカウントを作ってみたよ。うーん、何というか新しいというかむしろ懐かしい感じがするなあ。ロゴとかフォントとかWebデザインとか、Web 2.0って言葉がまだキラキラしていた時代にこういうテイストが流行ったよね。
電書ちゃん あたしが話題にしたいのはデザインの話じゃないわ。
BookShoutは本の感想やアンダーラインの個所を仲間と共有しあう、ソーシャルリーディングのプラットフォームと考えるのが適切かしら。一応はキリスト教系の本を中心にコンテンツの販売もしているんだけど、ラインアップはそれほど充実してはいないわね。
ろす じゃあ電書ちゃんが新しいと感じたBookShoutの発表って何?
電書ちゃん BookShoutではiOSとAndroid向けに読書アプリを提供しているんだけど、そこに追加されたBook Importerって機能を発表したの。これを使うと利用者がAmazonとBarnes & Nobleで購入したコンテンツをBookShoutの本棚に取り込むことができちゃうの。
ろす ええ? ちょっと信じがたいなあ。もちろんサービスの趣旨は理解できるよ。通常、ストアで購入したコンテンツはストアの提供するサービスの中でしか利用できないよね。異なるストアで購入したコンテンツをBookShoutのようなサービスの中で利用できれば、ストアの壁を越えて読者同士が交流するソーシャルリーディングが実現できるわけだ。素晴らしいとは思うけど、そんなことが可能なのかね。
電書ちゃん それが実際に可能になってるのよ。紹介ビデオも公開されているから見てみてね。でも、実際に試してみるのはこの記事を最後まで読んでから判断して欲しいわ。
ろす どれどれ。
驚いたよ。簡単かつ鮮やかにできるもんだね。
電書ちゃん ただし、取り込むことができるのは、BookShoutが出版社から許諾を得たコンテンツに限られるみたいだから注意が必要ね。
ろす いやいやいやいやちょっと待ってよ。まだ納得できない。AmazonやBarnes & Nobleってほかのストアと連携するAPIとかの仕組みを提供してたっけ?
電書ちゃん いいえ、提供してないわね。だからBookShoutは勝手に取り込んでるのよ。
ろす わけがわからないよ。AmazonとBarnes & NobleではフォーマットもDRMも全然違うんだぜ。DRMの掛かったコンテンツは、共通のDRMでも導入しない限りほかのストアで利用するのは不可能だよ。そもそもコンテンツのDRMを解除するのは、デジタルミレニアム著作権法に抵触するはずだ。
電書ちゃん でもCEOのジェイソン・イリアンさんはBookShoutのサービスは完全に合法(completely legal)だって言ってるわよ。いつからBook Importerがほかのストアの「ファイル」を本棚に取り込んでいると錯覚していた?
ろす DRMは解除していないのかい。確かにBook Importerがストアのコンテンツを検出して本棚に登録するのに掛かった時間はあっという間だったな。複雑な処理をしているようには思えない。
電書ちゃん それでは完全犯罪ならぬ完全合法のトリックを説明しましょう。みんなをロビーに集めてちょうだい。
ろす いつからここは密室殺人のあった山奥のホテルになったんだ。
電書ちゃん 実際のところBookShoutが出版社から得てるのはコンテンツのファイルを利用する許諾なのよ。出版社がストアにコンテンツを卸す時に提供するファイルね。ストアはそのファイルにAZWなどのフォーマットに変換するなりDRMをかけるなりして販売してるわけ。つまり、ストアで売られているのと同じ内容を持ったファイルをBookShoutは出版社に利用させてもらってるの。
そしてBook Importer。この名前からファイルを取り込む動作を連想してしまった人は、トリックにひっかかったことになるわ。Book Importerの本当にチェックしてるのはストアでの購入履歴なのよ。もし購入した本の中にBookShoutが保有する本と一致するものがあれば、それを読めるようにしてあげてるだけ。
ろす うわー、その発想はなかった。
電書ちゃん えへへ、あたしはすぐに推理できたわよ。他に実現できる合法的な方法なんてないもの。そして幾つかの記事を調べたらやっぱりそのとおりだったわ。
ろす でもさあ、このやり方ってストアにとってはどうなのよ。
電書ちゃん そりゃあ読者奪われたら面白くないでしょうけど、BookShoutが見せているのは、利用者がストアにお金を払ったコンテンツだけ。ストアの売り上げを奪うようなことはしていないわ。
ろす うーむ確かに。じゃあ出版社はどうよ。BookShoutにコンテンツを利用させてあげてるわけなんだけど、それって何かメリットあるの?
電書ちゃん BookShoutは代わりに、出版社に利用者の読書データを提供しているの。出版社にとって重要なのは販売データだけじゃないわよね。ソーシャルリーディングを活用すれば、売れた後のコンテンツがどれだけ読まれ、どの個所がどれだけ評価されたのか、詳細にデータ化できるでしょ。それらのデータをマーケティングや企画に役立てたいんじゃないかしら。
ろす 出版社もコンテンツを作ったら、あとはストアにお任せって訳にはいかないんだなあ。むしろ読者の生の声を集めるには、ストアを介在させないほうが効果的なこともあるのか。
電書ちゃん 出版社も読者から得られるデータを重要視するからこそBookShoutを後押しすることにしたんでしょうね。BookShoutはアメリカの大手6大出版社(ビッグ6)たちとも続々と提携を進めているわ。
米国大手出版社の6社、Hachette、Macmillan、Penguin、HarperCollins、Random House、Simon & Schusterを指す。BookShoutはすでにMacmillan、HarperCollins、Random Houseと契約を完了している。
ろす ビッグ6! この言葉にはわくわくする響きが宿ってる。やっとの思いで1社倒しても「クックック、奴は我らビッグ6の中でも最弱……」とか言ってそう。
電書ちゃん すっごくどうでもいいコメントをありがとう。
電書ちゃん さて、そんなBookShoutなんだけど、困ったことにセキュリティ上の問題点が指摘されているの。Book ImporterではAmazonやBarnes & Nobleのアカウントとパスワードを入力するわよね。それって安全なのかしら?
ろす 確かにBookShoutはこの情報を悪用しようと思えば簡単にできちゃう立場にあるね。僕も大きなストアにはクレジットカード番号をはじめいろいろと個人情報が登録してあるんだ。一応AmazonでもBarnes & Nobleも利用者のクレジットカード番号は一部しか表示しないようにはなっているけど、ほかにも悪用されると困ることは沢山あるよなあ。
電書ちゃん 勝手にあんたのアカウントでAmazon.comからキャンディやマシュマロやアイスクリームを大量注文されちゃうかもね。
ろす 電書ちゃん、今あえてお菓子を例に挙げることで「かわいいあたし」をアピールしたでしょ。でももし君が僕のアカウントを乗っ取るようなことがあったら、君はもっと高価な商品を注文するはずだよ。君はそういう子だ。
電書ちゃん 失礼ね。カードの持ち主があんたじゃ期待できないからJer'sのチョコレートくらいで勘弁してあげるわよ。
とにかく、この指摘について、BookShoutはストアのアカウント情報を保持するようなことはしていないから信じて欲しい、とコメントしているわ。立派な信念を持ったサービスには見えるけど、現状は信じるか信じないかの問題になってるのよねえ。
ろす 規約に情報の利用目的を明示するなり、第三者機関の監査を受けるなり、改善が必要なところだね。
電書ちゃん この記事を読んでくれた人も、Book Importerの利用はリスクを十分認識してから判断してほしいわ。ところであんたがソーシャルリーディングを活用してる姿って見たことないわね。もっと積極的に使ってゆくべきじゃないの?
ろす ほら、僕が本を読む時はさ、誰にも邪魔されず、何というか救われてなきゃあダメなんだよ。独りで静かで豊かで……
電書ちゃん 今のであんたの本棚の中身が分かったわ。きっと人に知られるのと死ぬほど恥ずかしい系のジャンルね。
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